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米国から見た「AI産業の中国脅威論」

日本から見た「AI産業の中国脅威論」に関しては前回の記事で述べた通りであるが、世界の覇権を握っているアメリカから見た「AI産業における中国の脅威」は深刻である。Wiredに掲載された下記の記事は少々長文ではあるものの(おまけに英語)、米国の中国へ対する危機感の強さを伺い知るにはとても良い内容であったので、関心のある方はぜひ読んでいただきたい。

https://www.wired.com/story/ai-cold-war-china-could-doom-us-all/

さて、TikTokというサービスがある。BGMに合わせて撮影した15秒の自撮り動画を共有する大流行中のスマホアプリだ。恐らく一度は名前を聞いたりしたことがあるのではなかろうか。

https://itunes.apple.com/ro/app/tiktok/id835599320?mt=8

実はこのサービス、中国の”北京字節跳動科技”(ByteDance)という企業が出しているサービスのひとつである。張一鳴というシリアルアントレプレナー(連続起業家)により設立された同社は、非上場スタートアップでは世界最大の時価総額を誇っている。その時価総額は$75B US。日本円に換算するとなんと約8.4兆円(2018年10月27日時点)である。これがどの程度かと言うと、東京証券取引所に上場している企業の時価総額ランキングでいうと6位に相当し、ソニーの時価総額を1兆円程度上回る価値なのである。更に言えば、同じ中国の上場企業であるBaiduの時価総額(約$66B US)を超えている。Baiduと言えば、中国を代表するインターネット企業の一角である。もちろん時価総額ではTencent、Alibabaには及ばないものの、設立からわずか6年でとんでもない成長を遂げている

東京証券取引所へ上場する企業の時価総額ランキング 上位6社

© 日本経済新聞社

先日、あるエンジニアの知人から聞いたところによれば、このByteDanceは1万人規模のデータサイエンティストを雇用しているらしい(情報の真偽については自身で確認するルートがないので自己判断としていただきたい)。同じ中国を代表する人工知能スタートアップであるSenseTimeの時価総額は$4.5Bであるが、データサイエンティストの数は数百人規模、Baiduのデータサイエンティストは1千人規模であるという話も聞いている。圧倒的にデータサイエンティストが多い。また、創業わずか3年のCloudWalk Technologyという会社もウオッチすべきであるとアドバイスいただいた。Face recognitionの技術が優れていると聞いたので、SenseTimeと領域が被っているのだが、名前すら聞いたことがなかった。おそらく日本では無名の超大型スタートアップが他にもたくさんあるに違いない。

上記の通り、お恥ずかしながらCloudWalkという会社のことを全く存じ上げなかったが、文頭にリンクを貼ったWiredの記事では、今年5月、ジンバブエの新政府は中国のCloudWalkという名前の会社とパートナーシップを結んだ旨のアナウンスを行なったとある。前回投稿したcomemoの記事で、日本は国内で調達可能な技術ならば海外から買う必要などないのではと述べたものの、ジンバブエのように自国で構築する技術を持たない後進国(and発展途上国)においては必要に応じて海外から調達しなくてはならない。このため事情が異なる。その仕入先が中国である。米国の人工知能技術は超高額の報酬を誇るデータサイエンティストと"ヘルスケア、メディカル、自動運転"などの大きなマーケットにフォーカスしているNVIDIA社の販売する高級なGPUを元に作られている。当然、原価は高いので価格に転化される。売価は高くならざるを得ないだろう。一方、CloudWalkの求人情報を見る限り、東京の水準よりも高いもののシリコンバレーと比較したらかなり安いし、中国政府からの援助が相当大きいといった話も良く聞くので、競争力は高い。

And we may be seeing the first evidence of this. In May 2018, about six months after Zimbabwe finally got rid of the despot Robert Mugabe, the new government announced that it was partnering with a Chinese company called CloudWalk to build an AI and facial-recognition system. Zimbabwe gets to expand its surveillance state. China gets money, influence, and data. In July, nearly 700 dignitaries from China and Pakistan gathered in Islamabad to celebrate the completion of the Pak-China Optical Fibre Cable, a 500-mile-long data line connecting the two countries through the Karakoram Mountains, built by Huawei and financed with a loan from China’s Export-Import Bank. Documents obtained by Pakistan’s Dawn newspaper revealed a future plan for high-speed fiber to help wire up cities across Pakistan with surveillance cameras and vehicle-monitoring systems, part of a “Safe Cities” initiative launched in 2016 with help from Huawei and other Chinese firms. China has effectively constructed its own Marshall Plan, one that may, in some cases, build surveillance states instead of democracies. - Wiredの記事より引用

5Gのネットワークは自動運転車の普及を助ける技術である。この5Gの技術を有する中国のHuawei、ZTEは、強い競争力をもつ国際企業である。そして、BaiduはWaymo(Google)に代表される企業とは裏腹に自動運転のソフトウェアをオープンソース化している。5GのネットワークはHuaweiとZTEにより構築され、自動運転車はBaiduのものを利用する。裏側の演算基盤を支えるChipはAlibabaが開発しているAIチップだろう。発展途上国や後進国が先進技術を使いたいと思うならAT&Tにより構築されたネットワーク上で動くTeslaとNVIDIA社の高級GPUの組み合わせを想像するのは難しいだろう。あまりの価格差から競争にならないに違いない。昨今のトランプ大統領の打ち出す中国をターゲットとした政策や、それに呼応して打ち出される中国側の動きを見ていると、アメリカと中国はデジタル領域においてWiredが指摘する通り冷戦状態といっても過言ではないが、米国が叫んだところで無意味なのではなかろうか。

The world’s nations can commit to American technology: buying Apple phones, using Google search, driving Teslas, and managing a fleet of personal robots made by a startup in Seattle. Or they can commit to China: using the equivalents built by Alibaba and Tencent, connecting through the 5G network constructed by Huawei and ZTE, and driving autonomous cars built by Baidu. The choice is a fraught one. If you are a poor country that lacks the capacity to build your own data network, you’re going to feel loyalty to whoever helps lay the pipes at low cost. It will all seem uncomfortably close to the arms and security pacts that defined the Cold War. - Wiredの記事より引用

最後に

米国から見た「AI産業の中国脅威論」というタイトルでかき始めたものの、最近、日本の名門企業の弱体化が著しいことにどうしても思考が言ってしまう。

失われた20年により企業価値を長期的に向上させようなどという気概は見る影もない。もちろんまだジンバブエなどのように自国内で技術を調達することができないというような弱体化ではないので、首都直下型地震でも発生しない限り一気におかしくなるということはないのではないか。一方で、国際競争力を持つ事業を生み出す難易度はメンタリティ的な問題により年々上がってきているように思える。メルカリ社の叩かれ方を見ていても、多くの株主は国際競争力のある事業を中長期的時間軸で生み出すことに不寛容である。このあたりの背景は元mixi代表の朝倉氏の著書「ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論」にて述べられている通りである(参考文献を参照)。

先日会話したHuaweiのサーバ技術者は満面の笑みでこう言った。

「弊社のサーバはDellやHPE、IBMと言った競合のものより価格競争力がとても高いですよ!そして、みてください。基盤に搭載されているパーツの多くは日本企業製ですよ!高品質でとても安いです!」

そう、日本企業は中国の安価なサーバを支えている。しかも、中国が自国で日本製よりも安価で同等レベルの質のものが作れるようになったら使われなくなるに違いない。中国の脅威以上に多くの日本人の抱える病の方がよほど深刻である。

私たちは私たちの頭で考え、やるべきことを粛々とやっていく他ないが、自国の防衛だけでなく海外市場を攻めにいくメンタリティをどう取り戻したら良いのか。その一つの答えは、僕らのような起業家が一人でも多く海外市場で勝利し、戦えることを証明していくことが重要だと考えているものの、援護射撃をくれる同胞があまりに少ないので圧倒的に不利である。わかっていてやっているのでもちろん乗り越えていく他ないが、リスクを取ってくれる投資家たちがもう少しくらい増えてくれることを願わずにはいられない。

参考文献:

https://www.bytedance.com/

http://www.cloudwalk.cn/

https://www.sensetime.com/

https://www.amazon.co.jp/ファイナンス思考-日本企業を蝕む病と、再生の戦略論-朝倉-祐介/dp/4478103747

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