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こんな夜は立ち呑みだろうが


・年度末って激務


疲れた。
この一言で多くの社会人にはどういった感情なのか伝わるだろう。
これが「あ~~~!疲れた~~~!!」とかなら、お!達成感ありそうだな、とも思うがただシンプルに「疲れた。」である。

36歳の中年男性が漏らす疲れた。は哀愁の塊だ。
社会人になって10数年、諸先輩方からするとまだまだ青い若造ではあるが、そんな青二才でも疲れたと思うことはある。
朝は8時前に出勤し中間管理職の職務を全うする。
承認書類を作成し各種会議に顔を出し部下の提出書類に判をつき上司に進捗を報告する。
次週に控えた宴会の予約を確認し、新入社員のオリエンテーションを打合せし、得意先を回る。
定時過ぎに会社に戻り、明日の得意先回りの準備と契約書を作成して業務が終わった。
これは「疲れた。」が最適解であろう。
タイムカードを切ったところで改めてはぁ、と息を吐いた。

・癒し癒され求め捨て

いつもは駐輪場に向かい、友人から格安で譲ってもらったロードバイクでゆったりと帰路に就く。
この帰りの時間がなんとも言えない癒し。
最近は日も長くなり徐々に町がオレンジ色の夕焼けから薄紫色に移り行くグラデーションに目が奪われる。
セブンイレブンで買ったコーヒーを片手に小さな橋の上でペダルを一旦止めさっき会社で吐いた息とは違う種類の息をほぉ、と吐く。
でもこの日は違うのだ。
ふっと心が抜ける癒しが欲しいのではない。
生活をしたくない、といえばそうではないのだが生活に必要な活動をこれ以上したくないと思った。
今日は特に激務であり、自身の生活を支える経済活動に心を削られた。
削られた心を取り戻すには生活に必要のない行為を楽しむしかない。
資本主義社会の風に吹きさらされた社会人のせめてもの抵抗である。

・飲酒ミレーション

家に帰って晩酌がいつもの生活であるが、今日は生活をしない。
しかし飲酒はしたい。でもお金はそんなにない。悲しい。
でもそんな社会人の癒し、いやサードプレイスといっても過言ではない場所、立ち呑み酒場。
今日はどうしようか、何を飲んで何をツマミにするのかシュミレーションしながら向かう。この時間がたまらない。
今日はどんな気分なのかと自分に問いかけながら暖簾をくぐる。
いらっしゃいと声がかかる。
ざっと見渡すとそこそこの客入り。
店員さんが忙しそうに狭い店内をするすると人の間をすり抜けていく。
そして、すさまじい速度でカウンターを掃除してくれた。
続けざまに「お飲み物はハイボール?」と聞かれ勢いに負け思わず「それで」と続けてしまった。言葉の波状攻撃。
マジ本気で冗談じゃなく5秒でハイボールが到着。マジ?
この速度にはいつも驚かされる。
そしてダラダラとメニューを見ながらどうしようかな~と考えているうちに半分飲み干してしまった。
いつもは家にあるもので考えて作る。
だが今日はメニューにあるものはなんでも作ってくれるし洗い物もない。
そんな贅沢な環境なのに決めきれない。逆に申し訳なさすら覚える。
サッと出てきて洗い物にも手間を取らせないもの、湯豆腐だ。湯豆腐がいい。
まだちょっと寒さも残っていてよく冷えたハイボールにもぴったりだ。知らんけど。
店員さんは相変わらずバタバタとしていたが通り過ぎ様につぶやいた一言も聞き逃さず伝票につけてくれた。

豪華。ネギととろろ昆布とたっぷりの出汁。
さらに豆腐はおでん用なのかあらかじめしっかり目の味がしゅんでおり最&高。
塩気もしっかりと含んでおりこれはアテになる湯豆腐。
なかなか家ではここまでできないよねぇ、と思いながら隣で先に呑んでいたお客さんの手元に視線を落とした。

・VSお隣さん

良くないクセかも知れないが結構隣のお客さんとか周りの人が注文しているものを見る。
どういった飲み方をしているのかでその人と勝手に競っている。露骨に増田薫さんに影響されている。
お隣さんからするとマジでいい迷惑であるがそこは置いといて。
今日のお隣さんは中瓶でスタートを切った。
つづけてニラ玉、いかのタレ焼き、ひらめ造りをオーダー。そんなに最初っから飛ばしちゃって大丈夫??全員クリーンナップ打てるメンバー揃いだが後半失速しない??失速って何??
こちらはハイボールをおかわり。とろろ昆布とネギをつまみに続けて飲む。こちらの次鋒はどうしようかと店内を眺める。

すると、鰹が入荷しているらしくそれが「すさみケンケン鰹」であった。
すさみケンケン鰹とは和歌山県のすさみ町で行われるケンケン漁法で捕られた鰹を指す。ケンケン漁法とは1~2人が船に乗り込んで行なう曳縄による釣一本釣漁法のこと。3月~4月が出荷の最盛期となりまさに今が旬。これは食べねば。
この時期の鰹、初鰹はもっちりとした弾力が美味しい。なので刺身にして食べることがお勧めされていることが多いが今日はあえてのタタキで。疲れた日にはニンニクだろうが。鰹のワイルドな味であれば相手がニンニクでもタマネギでもしっかりと受け止めてくれる。さらにポン酢でもマヨネーズでも合う。最高かよ。
これがお隣の平目だとそうはいかない。しかも味の濃いニラ玉とかイカタレとか頼んじゃってる。ペース乱れてない?と隣の様子を伺うと平目を残してニラ玉を完食しイカタレを優先して食べている。そのあと平目の味わかる??こっちは今から旬の初鰹、しかもすさみ鰹頼んじゃうよ?大丈夫そ?
しかも中瓶追加ですか。やってんねぇ。やっちゃってる。
こちらもこうしちゃおれんので日本酒へチェンジ。銘柄は指定しない。それがイッツマイスタイル。

はい勝った。勝利です。いままで応援してくれた皆さんありがとうございました。
まず薬味が豪華です。生ニンニクスライスにもみじおろしとさらにチューブニンニク、ネギとレモンに隠れているが大葉と玉ねぎスライスにわかめ。これで¥380円。日本安すぎない??思わずにっこり。笑顔。
まず一切れ。初手はポン酢のみで食べる。むっちりもっちりとした食感に皮目の香ばしさがとても良い。この時期の鰹の魅力を文字通り噛みしめる。次はネギとお待たせのニンニクと玉ねぎスライスをのせて。ネギの青臭さと玉ねぎのツンとしながらも甘い味わい。これ新玉だわ。最高。そこにガツンとニンニクのパンチ。そこに日本酒をチビリといけば鰹の純然たる鉄の味が際立ってこれはたまりませんね。
お隣はというとアジフライを追加。アジフライ??ここで??まぁビールだしそこはね。そこまで確認したところで勝利を確信しウイニングラン。
鰹を食べきり少し残しておいた湯豆腐の出汁で〆る。
ごちそうさまでした。

・疲れた心に立ち呑みを

夜も更けより賑わってきた店内。この喧騒に心を取り戻していく。
今自分は日常生活において必要のないことをしているんだと改めて実感する。ここで削られた心を取り戻し明日からまた業務だ。と気持ちを入れ替えた。
お会計を済ませ駅に向かう。ゆったりと歩きコンビニでハイボールを一本買って帰路へ。また明日色々進めなければ。
何を伝えたかったかというと、この時期の鰹を食べてないやつはマジで危機感持った方がいいってこと。
と風呂にゆっくり入ってからハイボールを飲んでソファで眠る。

ギブミーお題


#エッセイ部門



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