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スパルタ教育!?で鍛えられた栄養疫学研究者の「たまご」時代

前回のnoteでは、農水省に入ったものの、食事と健康に正しく関わりたいのに、それができないもどかしさや、そのときに感じた違和感、そして進むべき道がようやく見えたことを綴りました。

栄養疫学という学問に出会い、東大にその2年前にできた公衆衛生大学院に入学した私は、様々な経験を通じて、栄養学者として成長していきます。


●受験生並みの勉強量(東大公衆衛生大学院時代)

入学した公衆衛生大学院というところは、臨床を経験している医療者の人たちが、病気の予防などの公衆衛生の考えを学び、それを現場に持ち帰ってもらうために開講された大学院です。公衆衛生学とは「聴診器(内科的処置)とメス(外科的処置)を使う医療以外のすべてを網羅する医学の分野」だとおっしゃっていた先生もいました。たとえば、医療費を抑制するにはどうしたらよいかとか、医師と患者のコミュニケーションはどのようにとればよいか、などを専門に研究している先生方もいました。病気の予防のためにどのような食事をとればよいかを考える栄養疫学も、この公衆衛生学の一部なのです。

修士課程にあたる大学院とはいえ、私が農学部時代に経験した、実験して修士論文を書くのが目的の過ごし方とはまったく違っていました。とにかく授業が多い!出される課題が多い!グループワークなどの課題もたくさんです。研究者を育てることが目的ではなく、教室でしっかり授業を受ける大学院時代を過ごしました。同期は30人ほどでしたが、医師、薬剤師、看護師、助産師などの資格を持つ人もいて、仲間の知識レベルの高さや医療の現場の話に刺激を受けながら、そして与えられた課題をこなすのに必死になりながらも、楽しい時間を過ごしました。このときできた同期のつながりは一生の宝物です。

医療者の人たちは1年間の教室での学習を終えて公衆衛生学修士(MPH)を取得し、卒業してゆきました。一方で私を含む2年コースの人たちは、2年目は研究室に配属し、修士論文にあたる課題研究に取り組み、修了となります。私はそのときに、栄養疫学の存在を教えてくださった佐々木敏先生の研究室に配属され、MPH取得後は博士課程に進み、栄養疫学の研究をさらに学ぶことになりました。

●スパルタOJTは名付けて「必殺よろしくね」(東大博士課程時代)

博士課程は、研究者を育てるための教育が行われるところです。研究室に入ってからは、研究のお作法を、先生方や先輩方からたくさん学びました。研究をするといっても、農学部時代の実験研究と違い、今度は「生きている人」を対象にした疫学研究です。「調査」を実施することで、データ分析をするための研究データを手にすることができます。「こういう実験をしたらどんな反応が出るかな?」とアイディアが湧いたらすぐに結果データが手にできていた実験研究と違って、疫学研究は調査の計画を立て、実施に向け準備をし、それを実行して、ようやくデータ分析のためのデータを手にできます。対象が人ですから、失敗は許されません。そしてたくさんの人の調査をするためには、調査する側とされる側のたくさんの人の協力が必要です。

実施するのにそれほど大変な疫学調査を、研究室ではとにかく実践する形で学びました。まさにOJT(On-the-Job Training)です。しかもなかなかのスパルタです。スパルタと言っても、ビシバシと指導があるわけではありません。右も左もわからない疫学初心者なのに、いきなり調査の「研究事務局」という、調査実施のための運営全般を任せられるのです。そして特別指示はありません。自分から主体的に動かなければ何も進まないという状況に置かれました。「いくら何でも厳しすぎやしませんか…」と何度思ったことか。その時は不安でいっぱいで、必死でしたよ。その様子は、FOOCOMのこちらのコラムでも連載で紹介しています。

そういえば、同期はこのころの「仕事がどんどん降ってくる」教育方針のことを「必殺よろしくね」と名付けていました…。

●1年に1報の論文受理がノルマ

先生方から指示はないけれど、こちらが分からないことを尋ねれば、丁寧に教えてくださいました。特に、疫学調査のデータ収集から、実際にそのデータを使って研究論文を書くまでのそれぞれの具体的な指導は、当時助教だった村上健太郎先生(現東京大学社会予防疫学分野教授)に教えていただきました。村上先生から「研究者であれば最低1年に1報国際誌に論文を受理させることはノルマだと思う」と言われて、そうか~と思い、私もそれを目標にすることにしましたが…。やってみるとそれはかなり大変なことでした!調査してデータを収集するだけでも1年がかりになることもある中で、空いた時間には研究室に存在する別のデータを使わせてもらってデータ分析して論文を書くことになります。論文原稿を雑誌社に送ると、査読という過程が待っていて、他の研究者が論文に対して意見をぶつけてくるため、それに回答して原稿を修正しなければなりません。多くの場合、その原稿ではよろしくないということで掲載拒否となります。そんなやりとりをしているだけで1年くらいたってしまうこともあります。

論文1報を受理させるための大変さは、こちらで紹介をしています。

さらに、調査しながら論文を書く、という研究室の様子はこちらで紹介をしています。

そんな大変な論文執筆という作業ですが、私も疫学研究を学び始めてから研究者として働いていた期間には、なんとか1年に1報のノルマを達成し続け、第一著者として書いた論文は合計9報になりました。この1報ずつを完成させることで得た経験と知識は計り知れません。

博士課程時代の様子 研究室にて

初心者として任された大規模調査もなんとか大きな失敗はなくデータ収集でき、そのデータを使って博士論文を書くことができました。データ収集が始まって、論文が受理されるまでに3年かかりましたが、この経験は何事にも代えがたいものです。

博士号も取得し、ようやく「栄養疫学の研究者です」と名乗れる自信もつき、研究者として進み始めた私でしたが、さらにそこからまた、新たな道を模索したいと思うようになるのです。
次回に続きます。


すべての100歳が自分で食事を選び食べられる社会へ。

みなさんの人生10万回の食事をよりよい食習慣作りの時間にするため、できることからひとつずつお手伝いしていきます。

また読みにきてください。
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