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研究テーマ決めだけじゃない!目標達成に使えるシンプル思考法

研究者が研究をするとき、最初にすることは「研究テーマを決める」ことになります。そして、ここがかなり難しい!私が尊敬する、そして指導を受けた村上健太郎先生も、著書(文献1)の中でこのように書かれております。

しかも、研究して論文を書くなら、その中には何らかの「新規性」や「独自性」、つまり「世界で初めて」のことが含まれていないと認められないわけです。詳しくはこちらに書きました。

こうなると、研究テーマ決めはさらに難しく感じられてしまいます。そんな中で、私自身はどんなふうに研究テーマを見つけて研究を進めていたかを、今回のnoteで紹介します。この中で身に付いた方法や考え方って、研究以外の仕事でも、他の日常の中でも活用できるなあと感じます。そんな役立つ思考法を公開!です。


●優秀な人に聞いてしまえ!

まずは日常生活や研究活動の中で、ネタ(研究テーマ)になりそうなものはないかな、と常に意識を向けておくことは大事です。新しく発表された研究論文を読む中で「他の栄養素ではこういう結果は出ないのかな」とか「日本人でやったらどうなるのかな」ということを考えたり、ニュースの情報で食事と健康の関係を見聞きしたときに「それって本当かな」と疑ってみたり、というぐあいです。

とはいえ、自分で考えたり、見聞きしたりした情報には限界があります。そして多くの場合、自分よりも周りの人の方優秀で多くの情報を知っていて、他にやりたい研究テーマを持っています。というわけで、私の場合はけっこうな割合で、自分でテーマを探すよりも、先生方や先輩に「面白いテーマないですかね」「どんな研究を今後するのがお勧めですかね」と聞いていました。自分がそこまで優秀でないことが分かっているので、それであればもっと優秀な人に頼ってしまえ、というわけです。それによって優秀な人の考えていることが分かり、それが自分の身になっていくのであれば、「できる人に聞きまくる」はかなり効率のよい学習方法だと私は思います。

前回のnoteでは私の執筆した論文の内容を紹介しましたが

このときのテーマ決めも、「日本人でフレイルの研究ってあまりされていない、今から高齢化で必要なのに」「海外では最近フレイルの研究がはやり始めた」といったことを先生方から言われたことがきっかけで考えるようになりました。

●漠然とした疑問が集まる

そんな視点でフレイル扱った論文を読んだり、フレイルを報じた情報を見聞きしたりするようになると、色々な情報が目に飛び込んでくるようになります。「世界では高齢者のフレイルが問題になっているらしい」「海外ではたんぱく質を多く摂取する人たちでフレイルの人が少ないという研究があるらしい」「高齢者では血中のアルブミン(たんぱく質の一種)が低栄養の指標になっているらしい」「ある種のアミノ酸を摂ると疲れにくいって書いてある情報があるけど本当かな」など、根拠のあるもの、根拠のはっきりしないもの含めて、情報は色々です。どれが本当かウソか、まだよくわかりません。そしてこのままでは、頭の中はまだぐちゃぐちゃで、どう研究の形にしていけばよいかといった感じです。

●疑問はリサーチクエスチョンへ

この集まった疑問を「構造化」していきましょう。それは、自分が今から実施する研究で明らかにしたいことを宣言した最も短い文である「リサーチクエスチョンResearch Question: RQ)」を作ることになります。このあたりのことは「臨床研究の道標」という参考書(文献2)が参考になります。(私の持っているものは第1版で、現在の第2版は上下巻に分かれているようです。)

なぜRQは必要かというと、漠然とした疑問を研究で回答できる形にするためです。ぐちゃぐちゃした頭の中の漠然とした疑問を研究結果で回答するためには、どんな人をどのように調べて研究すればよいのかが見えてきます。そして、RQを作ることで、実行までに必要な作業を洗い出すことができます。RQが「短い文である」ことによって、自分の頭の中が整理されるだけでなく、他の研究者に自分の研究のことを説明することも簡単になります。そういう意味でRQはとっても大事だと感じます。

●PECOで疑問を構造化する

研究内容を短い文であるRQにしようとするとき、決まった形に「構造化」すると、RQ作りが簡単になります。疫学研究の場合、疑問を構造化するときには以下のようにするとよいと言われています。

  • P: Participants – 誰に(対象者)

  • E: Exposure – ある要因があると(曝露)

  • C: Comparison – その要因がないのと比べて(比較)

  • O: Outcome – どうなる?(効果)

それぞれの頭文字をとって「PECO(ペコ)」形式にする、と言うこともあります。
前回紹介した私のフレイル研究の場合のPECOは

  • P: 自宅で生活可能な高齢者で

  • E: たんぱく質の摂取が比較的多いと

  • C: たんぱく質の摂取が比較的少ないのに比べて

  • O: フレイルの人の割合は?

という感じです。これによってRQはこんなふうになりました。

「高齢でたんぱく質摂取量が多い人は少ない人に比べてフレイルになりにくいか」

これが研究テーマになるわけです。このあとは先行研究を調べて、そういう研究を実施することが妥当か、研究できそうかを調べていくことになります。ぐちゃぐちゃだった頭の中はずいぶんすっきりしました。この形なら、このあと研究を実施しようとなったとき、自分がどんな人をどのように調べて研究しようとしているのかが明確になり、研究計画書を書くのも簡単に進みそうです。

●何にも優るシンプル思考法

研究テーマを決めるとなると、あれもこれも調べたいと思ってしまって、ひとつの研究論文にたくさん盛り込もうとする人も見られます。特に研究初心者の学生さんにその傾向が多いなと感じることがありました。けれども、ひとつの論文で明らかにすることはひとつで十分です。そのくらいシンプルな論文のほうが、言いたいことが伝わります。読みやすくなるので他の研究者からも好まれます。たくさん盛り込んだ内容の論文は論旨が不明瞭になりやすくなり、かなりの割合で査読中に掲載拒否(Reject)の判定を受けることになるような気がします。

そして、この「とにかくシンプルにする」って考え方、研究以外の仕事や、日常生活の中でも活用できる考え方だと思うんです。何か解決しないといけないことがあったとき、その事態が複雑で、頭の中がぐちゃぐちゃになることもあると思います。それを解きほぐして、そもそも今何をどうすれば目標は達成できるのか、一番短い文章で説明しようとしてみるんです。いくつも絡み合っているのであれば、いっぺんにたくさんのことを解決しようとせず、その中のひとつ、そしてできるだけ目標達成に反映されるところは何かを考える。そしてそれを実行する。いっぺんには色々できなくても、ひとつなら進めることができるのではないでしょうか。そうすることで次の一手が見えてくる、といった感じです。

そんなふうに考えていたら、最近読んだ「小さく分けて考える」という本(文献3)にもシンプルに考えて進めることの大切さが書いてありました。本を書くような経営者もやっぱり似たような考え方をするんだなと感じた次第です。

●まとめ

研究は研究テーマを決めることで始まります。研究テーマを決めるには、日常の疑問を常に意識に留めておくとよさそうです。とはいえ、未熟なときには優秀な先生や先輩、そして先行研究にヒントをもらってよいのではと思います。その後自分の中に集まってきた情報はPECOなどを意識して構造化し、リサーチクエスチョンという短い文章で説明しましょう。そうすることで頭の中が整理され、研究の形が見えてきます。この研究テーマ決めの過程で用いられている「シンプル思考法」は、他の仕事や日常生活で何かの課題を解決するときにもきっと役にたつと思います!

【参考文献】
1. 村上健太郎. 基礎から学ぶ栄養学研究. 建帛社. 2022.
2. 福原俊一. 臨床研究の道標. 健康医療評価研究機構. 2013.
3. 菅原健一. 小さく分けて考える. ‎ SBクリエイティブ. 2022.



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