日本野球界の進歩と発展

春に行われたWBCで見事栗山英樹率いる侍ジャパンが世界一になった、という話は現時点で今年一番明るいニュースではないかと思う。終了後数ヶ月を経過しても未だに話題となる辺り、2023年はおそらくこれを超える明るいニュースが発生するとは到底思えない。野球経験者ながらプロ野球に全く興味がなく、それでいながら野球選手のゴシップは好物な私でさえ日本代表の試合をマメに視聴したぐらいなので、その感動は歴史的なものだったに違いない。

一昔前までは「スモールベースボール」と言われる機動力野球が日本野球のスタンダードだったはずだが、今回の代表は稀に見るパワープレイの連続だった。打者は長打を量産し、ホームランで獲られた点はホームランで返す。投手はかつて球速150km/h後半の領域に到達出来ていたのは伊良部ぐらいだったがそれが当たり前となって、更には大谷翔平などを筆頭に漫画の世界の話だった球速160km/h台の球を投げる選手が出てきた。「アメリカはWBCにマジじゃない」的な話をしている輩がいたが、仮に今回アメリカが彼らのいう「マジ」になっていたとしても、今回のパワープレイ+本来の緻密な機動力の相乗効果で日本が優勝していただろう。

一世代前の野球人といえばやんちゃでヤンキー素質のある荒くれ者が多いイメージで、マジで当地でも各学校の野球部といえばグレた陽キャが多かった。今回代表の最年長だったダルビッシュ有も高校時代にタバコを吸いながら初代北斗を打つ姿を週刊誌にすっぱ抜かれるなどしていたが、そんな人たちが成人になって野球を生業とするなんてまるで「野球ヤクザ」略して「やくざ」な話で、金ネックレスに大金の入ったセカンドバックを持ち、女を抱いて外車を乗り回すのがある意味野球人としての成功パターンであり、それがプロ野球選手のあたりまえだった。しかし今回の代表の中心人物である大谷翔平を見てもわかる通り、皆純粋に野球が心から好きで、目が澄んでキラキラしていた。過去の大会では過剰な「まさお」いじりやシャンパンファイトで先輩を敬わないことが当たり前だったのに対し、今回はダルさんを敬ったり謎ダンスで湧くなど爽やかで、皆「野球聖人」というのに相応しい立ち振る舞いをしていた。この辺は栗山監督による、ダルビッシュ以外のヤンキー選手の排除という人選が良かったのかもしれない。

しかし何より今回の日本代表を見て日本野球の変化を感じたのは、代表内における「あいみょんヘッズ」の多さだ。「和製テイラースウィフト」ことあいみょんといえば恋多き若い女子の心を代弁したリリックに定評があり、かつソングライティング技術も高い現代社会気鋭のソロアーティストである。フォークソングのような泥臭さも少し装備しているためか世代を超えて愛されており、しかも飾り気のない風貌から「地元のツレ」感が非常に高く親近感が湧くキャラクターなのだが、そんなあいみょんを愛聴する選手が増加の傾向にあるのは何故か。

中でも令和の怪物・佐々木朗希は熱心な信者であり、自身の入場曲にセレクトするなどその信奉は深い。WBC開催中に佐々木の回の「情熱大陸」が放映されたので観たのだが、彼は純朴で素直な若者そのもので、マメに地元のツレと連絡を取り、年末は帰省して地元のツレと自主トレをしてみんなでラーメンを食うという、「おえおう」とか「けつあな確定」とか言っちゃう世界からかけ離れた世界にいて、「結局地元」というヒップホップ要素を持ちつつ、野球の凄さ以外は至って普通という所に感心してしまった。

そして代表チームのムードメーカー的存在だった西武の山川穂高もあいみょんヘッズとのことだったが、彼は見た目でいえば彼の同世代同様にAK-69とかONE OK ROCK、UVERworldみたいなスタジアムが妙に似合う過剰な「汗臭さ」「泥臭さ」「黒光り」的なイメージのアーティストの楽曲を入場曲を用いる感じがするが、そこは敢えて「ロックなんか聴かない」のあいみょニズムの精神を貫き通しているのかもしれない。というか彼は地味にピアノが弾けたり達筆だったりとその人相からは若干かけ離れた才能があるとのことだったので、単純にあいみょんといういちアーティストの楽曲を評価しているのだろう。

昔の野球選手といえば、こぞってサザンかTUBEが好きな奴が多かったイメージがある。とにかくプロ野球選手はやたらと沖縄・九州の海というかビーチに面したところでキャンプとかをやりたがるので、海を連想させる両者が好きなのだろう。あの天才バッター落合博満曰く、冬の間に温暖な気候で練習して身体を作るのが良いことから暑い地域でキャンプをやるらしいのだが、前述の通り一昔前の野球選手は基本過半数がヤンキーで、落合みたいに理論に基づいた行動をするのはごく僅かだったはずなので、「夏、クラブ、ナンパ、思い出!」の年中サマージャム状態のままキャンプ入りしていたのだろう。実際にオフシーズンに「夜もヒッパレ」みたいな番組にプロ野球選手が出るとやたらと桑田佳祐や前田亘輝に寄せた歌い方をしてそれなりに上手く歌っていた記憶があることから、そのキャンプ云々の話はさておき、昔のプロ野球選手がサザンとTUBEが好きだったって話は間違いではないと思う。あとみんな色黒で黒光りしていたのは、オフに大概ゴルフとかに狂っていたからだろう。

しかしながら、一昔前の方がプロ野球自体の人気が高かったのはあながち間違いない。昔より他に娯楽が増えたと言ってしまえばそれまでだが、テレビ中継が減少したことが全てを物語っている。あの頃の選手達は私生活やオフシーズンを含めて誰もが華があった。プロスポーツはスポーツではあるがエンターテイメントでもある。子供達に夢を与え、人々を魅了するのがプロスポーツの醍醐味だ。今は今で良さがあり、昔は昔の良さがあった。実際に私自身も少年時代、プロ野球になって永井美奈子みたいなクソ程かわいいアナウンサーとかと結婚したいと思っていた。今も昔も形はどうであれ常に話題に欠けないプロ野球であってほしい。「プロ野球スピリッツ」をやりながらそう思う日々であった。

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