見出し画像

システム手数料は「悪いピンハネ」?

昨日は関西コミティア52にて、同人活動の先輩にあたる仲見満月さん(仲見満月の研究室)のサークル「仲見研」でお手伝いをしておりました。

仲見さんとのお話の中で、興味深いことがいくつも出てきました。そのうちの一つを抜粋します。

同人向けサービスのシステム手数料問題

一般に同人活動では、即売会での手売りの他にも、「同人ショップ(実店舗)への委託」「オンライン通販サイトへの委託」などで本・グッズなど売ることができます。加えて、2018年現在ではnotepixiv FANBOXpolcaをはじめとした、クリエイターへの金銭的な支援(いわゆる「投げ銭」)ができるWebサービスも充実しつつある状況です。

また、商取引・商品発送・顧客対応についての一切の責任を同人作家が負う代わりに、少額(もしくはゼロ)のシステム手数料を払って通販サイトで取引する「自家通販」という形式もあります。

例えば、自家通販のための取引サイトとしては、pixivの「BOOTH」と、「チャレマ」が有名なようです。ただし、両者は大きく性格が異なります。

BOOTH: 決済手数料 3.6% (ご利用の流れ - BOOTH より)
チャレマ: 登録、運営は無料。将来マージンの摂取、有料化等の予定なし (よくあるご質問 より) 

仲見さんから聞く話によると、どうやら委託・支援システム(特に自家通販)のユーザー(特に売り手)から、BOOTHのように「システム手数料が取られるのが嫌」という意見も一部で出ているようです。

※私自身はこの件について詳しくなかったのですが、公演チケットに関しては「手数料が嫌」というブログ記事を見つけたので参考として挙げます: 
チケット手数料問題 チケット手数料がこれほど嫌われる理由とは #転売NO – 禁断劇場 

もちろん、同人作家の本心としては、たとえば次のような気持ちはわかります(架空です)。

「お買い上げいただいた方からのお金は、読者の方の大切な気持ちである」
「読者の方からいただくお金が変な業者にピンハネされるのは、読者にとって失礼ではないか」

一般に、Webサービスの利用者は「謎の手数料」が取られることを嫌います。この文脈では、手数料は「ピンハネ」とも呼ばれます。もちろん、本当に「不当に稼ぐため」の価格設定やビジネスモデルもあるでしょう。

タダより怖いものはない?

しかし、私は次のような観点で「自家通販とはいえども、ある程度なら、きちんとした運営体制のある会社に手数料を払うべきではないか?」と考えます。

・見えないリスクへの備え(各種トラブル、セキュリティ/プライバシーのリスク、システム保守のコスト)
・ビジネスモデルの持続可能性(サービスの終了リスク)

見えないリスク—EUの個人保護に関する法律(GDPR)を例に

ここでは「見えないリスクへの備え」に関わる例を挙げます。

まず、もし何かトラブルや、法的な問題などがおこったときには、あなたも例外なく「利用規約をきちんと読んで同意した」という前提で話を進めることになります。そういうタテマエなので。

もちろん、ユーザー間(売り手・買い手)のトラブルについては、ユーザーの双方で責任を負うべきでしょう。問題はシステム側・運営側で不具合・問題があった場合です。ユーザーの責任ではどうしようもない場合を考えます。

たとえば、IT業界で話題になっているのが、EUの個人情報保護に関する新しい法律「GDPR (General Data Protection Regulation)」です。

ざっくりいえば「もしEU圏からのアクセスがあったときは、個人情報の扱いに関して厳し~い要件を満たしてね。違反したら軽くて罰金1000万ユーロ(または前年売上高の2%)だからね!」というめちゃくちゃ強い法律です。

今回はEUの法律によるものだが、内容は至極真っ当な、客観的に見れば当たり前のルールだ。将来的には事実上のデファクトとなり、アメリカや日本もこの法律に倣うのは時間の問題だろう。だから「日本人向けのサービスだから大丈夫」とほったらかしにしている業者は後々痛い目に遭うだろう。

EU一般データ保護規則(GDPR)への対応に向けたやるべき事まとめ – 週休7日で働きたい

要するに、個人の嗜好を分析してパーソナライズする機能を付けたり、広告のリターゲティングを行ったりする目的で情報を収集すると対象となります。また、位置情報をトラッキングするのもこれに該当します。地図系やライフログ系は注意ですね。
GDPR対象業者の判断基準とプライバシーポリシーを書く際のポイントまとめ – 週休7日で働きたい

この施行開始日は2018年5月25日……執筆時点で間もなくです!

では自家通販サイトにおいて、GDPRに対応すべきなのは誰か……ユーザー(売り手・買い手)の前に、まずサービス事業者ではないでしょうか。

比較的大手の企業であれば、このような法的リスクに対して、対応が後手に回ったとしてもなんとかリソース(人員・お金など)の投入で対応できます。(実際には、GDPR対応していない企業はまだたくさんあるようですが……)

しかし中小企業や個人運営のサービスは使えるリソースに限りがあるため、「トラブルが起きたら運営がストップする」状況になりがちです。規模の大小にかかわらず、事前に法的な問題をクリアしておくべきでしょう。

手数料不要……それってどういうビジネスモデルなの?

別の視点「ビジネスモデルの持続可能性」から考えます。「無料」「タダ」「手数料不要」というサービスはたくさんあります。さて、それらのサービスを開発・運用している人は、どうやってご飯を食べているのでしょうか?

もちろん、合理的な答えはいくらでもあります。「広告収入」「先行投資(あとで収益化する予定)」「別事業や本業で十分食えている」などなど。

危ないのは「個人がボランティア(無償)でサービスを運営しています。広告はなく、寄付も受けてつけていません」の場合です。「ユーザーのお金・データ・信用を預かるサービス」(特にECサイト)に限っては、私は「ボランティア精神は危うい」と思います。なぜなら「運営者が過労で倒れて運営がストップ・終了する」原因になるからです。

どれだけ運営者に善意があったとしても、サイト運営で身も心も削られるようでは、運営者だけでなくみんなが不幸になるでしょう。あくまでも「無理せず続けられる範囲」「重い責任を負いすぎない範囲」の活動として、無償による活動はしていくべきではないでしょうか。

(無償で何か個人の活動を続けたい場合は、たとえば冒頭のnote・pixiv FANBOX・polcaなどのクリエイター支援サービスを使ってみるのも良い案だと思います)

システム手数料は、あなたとみんなの幸せのためにある

本題に戻ります。結局、システム手数料は次の理由により、最低限は必要だと私は考えます。

・あなたが面倒なこと・嫌なことを極力しなくて済むために
・あなたが好きなサービスが長く続き、運営の人もニコニコできるように

言い換えれば、近江商人の「三方よし」(売り手よし・買い手よし・世間よし)ともいえます。

もし「システム手数料なんか取られたくない、すべて自分の責任で自家通販をやるぞ!」と思ったら、「じゃあ、いろいろな手続きの面倒や手間を自分で背負うの?トラブルも責任も背負えるの?」と自分に問いかけてみてはいかがでしょうか。(もちろん「Yes」と言える知識・資本・体制があれば、やってもよいと思います)

藤原 惟

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?