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上司のメールが高級文鎮みたい

僕の上司が書くメールには不思議な魅力がある。部下になった日からそう感じていた。

雰囲気をまとめると:

  • 短いが、重みがある

  • たいてい三行。簡潔

  • 「お疲れ様です」など枕詞を使わない

  • いきなり本題に入る


物事の表現や、文章を書くことに関心がある僕は、その魅力の源は何だろうと考えた。

こうだと思う:

  • 前段として、状況が整理・分析されていると感じられる(=この件は進める意義があると保証されている)

  • 事象を表すのにふさわしい言葉を使っている。人によって理解にブレが出る単語を使っていない

  • 文字数を削減できる漢語を中心に使っている

  • 相手の立場を配慮していることが感じられる(=自分が迷いそうなポイントを先回りして触れてくれている)

短いが重要なポイントが凝縮されている文章、まさに高級文鎮みたいだと思うのだ。


上司との仕事を通して、視座が一段高くなったエピソードがある。

繁忙期で、相対的に運用が手薄になってしまった業務領域があり、関係部署からクレームが来たことがあった。
コンプライアンスにも関わるというところまで事態は悪化しており、上司とともに特命で問題解決に出動した。

上司と協力して状況を整理し、なんとか課題解決の方策までまとめたが、途中で部長へ報告を入れようということになった。
上司がメールを打ったというので後から読んでみたら、そこに書かれていたのは、

「(関係部署の)彼ら、鼻息が荒いです」

を中心とした、いつもの上司らしいシンプルな報告内容だった。

報告は具体的に・正確に、とかつて教わり、表現の技術を磨いてきた自分にとって、衝撃的なメールだったことを今でも覚えている。


その日の退勤後の帰路、ずっと「鼻息が荒い」の効果を考えていた。

伝えるとは、それを受ける相手の変化や行動を期待する行為。
自分起点ではなく、相手起点から逆算してベストな伝え方を選ぶべきだと、当たり前のことに気づかされた。

マネージャ以上になると基本的な問題解決はみなお手の物だろう。

今回の場面で重要だったのは、どのように問題解決をしようとしているのかを精緻に報告するよりも、問題自体の事象を鮮やかに、かつ簡潔に部長へ伝えることだったのではないだろうか。

そこで上司が選んだ表現が、「鼻息が荒い」だった。

部長はこのシンプルな言葉で、関係部署の様子をありありと想像できたことだろう。
加えて、上司のメールに支援の依頼が無かったことから、部長自らが手を加えなくとも事態は終息に向かうことを暗に理解したはずだ。


しかしながら、人によっては具体的で詳細な報告を期待する人もいるだろう。

そのためには普段から伝える相手が何に関心を持っていて、どんな報告を期待しているかを把握しておく必要がある。
上司はもちろんこれを熟知しているだろう。

「2つ上の職位の人が何を考えているか理解に努めよ」、とはよく新人が教わる言葉だが、その本質が分かった気がした。


一日にして見える世界がガラッと変わったこの出来事、今でも色濃く記憶に残っている。

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