「なめらかな世界と、その敵」伴名 練 読了

10年代の傑作だの、もっともSFを愛した作家だの言われているのは知っていたが、なかなか読めていなかったのでようやく読了。
いや~~~~~~~~~~めちゃくちゃおもしろかったな!!!!

本全体の感想

読みやすい短編が多くて、作者がジュブナイルSFに多く触れてきたというあとがきをみてなるほどなぁと。とくに最後の「ひかりより速く、ゆるやかに」はかなり好きで、思春期の複雑な感情に振り回されつつも最後はさわやかさを感じさせるすっきりとした読後感になんだか心が晴れ渡るような気持ちになった。00年代後半~10年代前半のライトノベルで人格形成されてきた僕なので、やっぱりこういう話はとても刺さる。

あとがきでは後世に語られるような傑作と時代に応じた最大瞬間風速的な作品があり、これは後者と語っていた。現代社会を揶揄するような地の文(これもラノベ仕草っぽくていい)だったり、LINEなどを実名で使用していること、ギミックとして新幹線やスマホがあることなんかが、今自分たちが生きてる時代で起きている出来事なんだな、という説得力と没入感を高めてくれた。これは今のうちに読んでおいてよかったな、これを学生のときに読んだ人は幸せだろうな、とまで思った。とてもおすすめです。

以降は各短編の感想走り書き。

なめらかな世界と、その敵

無限にある並行世界に意識をいくらでも移動できるのが当たり前の世界の話。
真夏に雪を見て目を覚まし、父親がいない食卓で食いたいものを食ったり食わなかったりし、父親と一緒に家を出て、みたいなわけのわからん冒頭から始まるもんだからもうややこしいったら。
そのなかで、昔の知り合いであり親友であり一緒に登校してたやつが転校してくるらしいとかなんとかで、その転校してきた子がほかの並行世界を観測できない乗覚障害という障害をかかえているらしく…という物語だった。
ま~~~~なんというか、突拍子もない設定なのでいくらでも矛盾あるだろ!って感じだし場面がシームレスに切り替わる上にそれが当たり前だと思ってるから特に地の文で説明したりもしないのでなかなか読むのが大変だった。
だけど、物語の締めが青春!って感じで読後感のある話だった。ある種の自殺のような、お前とともに人生を歩んでいく覚悟というか。百合SFです。

ゼロ年代の臨界点

1900年代に女学生内で流行ったSF執筆の歴史をたどる調査書のような。
SFを通してほんのり匂わせる3人の女の関係性、嫉妬、羨望……
百合か…?百合かもな…

多分僕がしらないだけで、実際のSF史のリスペクトとかオマージュがあるんだろうな~という、ちょっと物語を楽しみ切れなかったかなという悔しさも若干あり。

美亜羽へ贈る拳銃

めちゃくちゃ面白いな!!!!
拳銃の形をしたインプラントによって文字通りの永遠の愛を誓う、WK(ウエディングナイフ)と、それを取り巻く二人の恋愛の話。
いや〜〜〜〜、これめちゃくちゃ良かったな……………
インプラントによって自分を別人に変える「自殺」と、恋………
人格が変わった人に愛されることと、その愛に応えることができない辛さ、葛藤。それは本当に愛なのか、とかごちゃごちゃ考えてるけど真実はまぁ単純な話で。
オチもすごい良かったな。
思ってたよりもしっかり恋愛モノだった。結局オタクなので恋愛モノはささるんですねぇ。
そしていろいろなSFへのリスペクトも多くて、読み応えがあったな。

ホーリーアイアンメイデン

なるほどなあ〜〜
戦時中、抱きしめるだけで相手を洗脳して改心させられる力を持った姉と、その妹。
妹の遺書という形で物語は進んでいく。
姉への思いの吐露と、力により歪な和平…
最後に姉の腕の中で死ぬことでの復讐めいた自殺……
面白い話だった。
やっぱ好きな人の手によって殺されて一生記憶に刻み込んでやりてぇよな。

シンギュラリティ・ソビエト

いや〜とんでもないオチ!!!!!いわゆる歴史改変モノ。
ソ連のとんでも人工知能に管理された社会、妹の誕生日を祝いたいのにひょんなことから米国スパイの対処をしなくちゃならなくなって……
ソ連人工知能とアメリカ人工知能によって繰り広げられる戦いとそれの駒にされる二人の読みあいなり掛け合いなりが緊張今あって面白いね〜と思ってたのに、とんでもないオチに全部持っていかれた。
これすごいな〜〜〜。爽快感があった。

ひかりより速く、ゆるやかに

修学旅行生が乗る新幹線のぞみが、突如時間ごと停止したように見える謎の現象が起き、たまたまインフルエンザで休んでいた主人公と、謹慎で参加できなかった女の子と、新幹線にとらわれてしまった女の子の話。
いや~~~~~~~~~~めちゃくちゃおもしろかったな!!!!
実は停止しているのではなく時間が過ぎるのがめちゃくちゃに遅くなる「低速化」と称されるようになった現象であり、計算上東京に着くまでに二千七百年くらいかかるのでは…?どうするの?それを取り巻く人々を中心に話は進んでいく。

停止した新幹線の乗客をめぐって好き勝手に美談にされたりネットのおもちゃにされる描写や、だんだん事件が風化されていって、小説や漫画で「低速化モノ」がはやり始めたり、という仕草が、すごく現代の風刺~~~って感じでよかった。ありえない現象と、ありえそうな描写の説得力。
冒頭でも書いた通り、これは今のうちに読んでおいてよかったな。

ここからはがっつりネタバレあり



途中で入る未来の話、どう本編と繋がるのかな〜って思ってたけどまさか主人公が書いてた小説だとは!!
あれだけ地の文で低速モノフィクションに思うところがあるような感じを出しておいて、自分が書いてるとはなぁ。
これが明かされたときは思わず声が出てしまうほど驚かされた。
そんで叔父さんの最悪さよ…きたない大人だよ。

でもその叔父さんも飛行機によって起きた新たな低速化の被害者であり、その低速化が偶然じゃなくて叔父さんの仮説によって引き起こされていて…からの展開の熱さ!すごいジュブナイル感がやってきて熱くなっちゃった。

好きな女の子をどうするのか、という話だと思わせておいて、ほんとは才能の差から愛情なのか嫉妬なのかわからなくてぐちゃぐちゃになっていたということや、それでも、救うために命を賭すこととか、なんとも説明できない心の不安定さがとても良かったな……
事故から数年たっているのに、心は新幹線とともに止まってしまっているかのような……

SFとしての魅力的な設定、未来の話と見せかけて小説の文でした、というミスリード、そしてそれを活かしたオチ、なんだか読んでて心が熱くなっちゃったな。
映像化映えもしそうだな~~って感じだ。
いや~~~~面白かった。

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