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「助け合い」は「信頼」から生まれる

都道府県をまたぐ移動の自粛が19日(金)に全国で緩和されました。私は土曜日が仕事だったため都心部に出ましたが、かなり人出が戻っていましたし、何より行き交う人々の表情が晴れ晴れとしていました。

しかし、もちろん以前の日常がそのまま戻ってきたわけではありません。むしろ、これからが感染症対策に止まらない影響を実感する期間となるでしょう。

心配なのは経済です。けさのニュースでは企業の景気判断をみる日銀の調査(いわゆる短観)で指数が大幅に悪化する見通しだと伝えていました(発表は来月1日で、予測は民間のシンクタンク)。特に製造業はリーマンショックのあと景気が大きく落ち込んだ2009年以来の厳しい水準に落ち込むという予測だそうです。

日銀の調査は大企業向けですが、中小企業の景気の見方も急速に悪化しています。東京商工会議所が先月下旬から今月にかけて行った23区の中小企業を対象にした調査でも景気判断を示す指数が大幅に落ち込み、2006年の調査開始以来、最悪になったそうです。

今回の景気悪化はリーマンショックの時とよく比べられますが、金融に端を発した当時と、実体経済にダメージを与えた新型コロナウイルスとでは影響の幅広さが全く違うと思います。富を生み出す「人の行き来」が抑制される中、どのようにして経済を回していくかが今後の大きな課題となっていくでしょう。

営業が再開し始めているジャズのライブハウスも厳しい状態が続いているようです。もともとジャズのライブが「密」になることは少ないのですが・・・。東京近郊では長期間の休業を余儀なくされ、開店しても夜10時までというところが多かったです。今後、閉店時間は遅くなっていくでしょうが、元のペースを取り戻すのは容易ではないでしょう。

感染拡大で休業が相次いだ時期、ジャズのライブハウスを応援するクラウドファンディングがいくつか立ち上がり、私も長年のジャズ・ファンとしてちょっとだけご協力させていただきました。その一つが東京・港区にある「BODY&SOUL」のクラウドファンディングです。

私は「BODY&SOUL」には数か月に1度程度しか足を運んでおらず、今回のクラウドファンディングの紹介文でこのお店が前身の新宿時代から数えると45年以上続いていることを知りました。しかも、いつも圧倒的な存在感を示しているママの関京子さん(79)が新宿歌舞伎町の「タロー」を1965年に開店していたということも初めて知ってびっくり!

「タロー」はジャズ関係の本を読んでいるとよく出てくる場所で日野皓正さんら後にシーンを支える多くのミュージシャンのたまり場になっていたことで知られています。まさに日本のジャズを半世紀以上支え続けてきた方のお店だったわけです。

クラウドファンディングのメニューは非常に充実していて、シンプルな寄付のほかに、ライブチャージやフードでも使えるお得なチケットやミュージシャンのサイン入りCDをリターンとしていただけるものがありました(既に募集は終了)。私は迷わずCDを選びました。守屋純子さん(p)のデビュー作「マイ・フェイバリット・カラーズ」です。

守屋さんは東京の生まれで、早稲田大学のハイソサエティ・オーケストラに参加してからジャズを始めたということです。1992年にニューヨークのマンハッタン音楽院の修士課程を終了後、アメリカやヨーロッパで活動。帰国後は自身のトリオやカルテットに加えてオクテットやオーケストラといった大きな編成に取り組んできました。2005年にはセロニアス・モンク・コンペティション作曲部門で優勝しています。

守屋さんはアメーバブログで活動をご報告されていることもあり、ずっと気になっていました。しかし、これまでタイミングがうまく合わずライブに行けなかったのでこの機会に作品だけも・・・と思ったのです。

送られてきたCDを早速聴いて、その内容の素晴らしさにうれしくなりました。5つの管楽器を生かしたまさにカラフルなサウンドと、守屋さん自身の作曲による魅力的なメロディー。日本にこれだけ複雑でありながらグルーブのある音楽設計ができる方がいたとは!「リターン」としていただくのが申し訳なくなるぐらいの完成度でした。デビュー作でこれほどの力量を示していた守屋さん、次はぜひライブに行きます!

1997年5月14~15日、ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。当時は若手だったメンバーも豪華です。

守屋純子(p,作曲,arr) Ron McClure(b) Tony Reedus(ds)
Ryan Kisor(tp,flugel horn) Chris Potter(as,ss,fl)
Willie Williams(ts) Scott Whitefield(tb)
Howard Johnson(bs,bass clarinet) Don Sickler(produce,conduct)

①Dancing Puppet
守屋さんのオリジナル。CDのライナーによるとチック・コリアに捧げて作曲されたそうで、ラテン的な哀愁漂うメロディとリズミックな展開はチックに通じるところがあります。冒頭、ホーンとピアノを対位させたスローなイントロがあります。「このままスローなメロディに入るのか?」と思ったところでリズミックなピアノが立ち上がり、「人形がくるくる踊る様子をイメージした」メロディへとスムーズにつながっていく流れが見事です。バンド全体が勢いを増したところでクリス・ポッターの伸びやかなソプラノ・サックスを中心としたホーン陣がまさに色を重ねていくようなアンサンブルを聴かせてくれます。3拍子のメロディということもあり独特のグルーブを保ったまま守屋さんのピアノ・ソロへ。チックの影響も感じさせる軽やかで硬質なピアノで最初は抑制気味ですが、やがてリズムの転換と共に音数と熱さを増していきます。ピアノの連打が続くころにホーンが再び加わってバックをつけていくのも音楽に厚みを持たせる心憎いアレンジです。後半からはホーン・アンサンブルとピアノ・ソロの交換が行われますがこれも単純なコール・アンド・レスポンスではなく、十分な時間を与えられたホーンとピアノの交換になっており、こんなところにも5管のスケールを生かした設計があります。最終盤にはクリス・ポッターによるメロディに熱さがあり、複雑でありながら聴かせどころに満ちたアレンジにミュージシャンも力が入っているのが感じられます。

③Watercolor
こちらも守屋さんのオリジナルで管楽器は3つになっています。水彩画をイメージした静かな響きの曲でアルト・サックスがメロディを主導しトロンボーンとトランペットが寄り添うというストレートな展開です。メロディを受けてピアノ・ソロへ。ここでの守屋さんは粒立ちがはっきりした音色で一つ一つ音を置いていくようにスタートさせていきます。やがて、ドラムのブラッシュ・ワークと共に徐々にペースをあげていき力強くキリッとしたソロになるのですが、緊張感が高まったところでスッと引いていき、続くアルトサックスのソロにつないでいくところはさすがです。クリス・ポッターは流れるようなフレーズで見事に水彩画の世界を描き、そこに「滲んだ」背景を与えるかのようにトロンボーンとトランペットがバックを務めて淡い質感を湛えています。

④One For The Art Festival
ホーン・アンサンブルと各自のソロが絶妙にブレンドされたトラックで、もちろん守屋さんのオリジナル。10分以上の長尺で、このアルバムの中でいちばん「オーケストラ的な」迫力があるのではないでしょうか。まずは、ライアン・カイザーによる急速調でのアドリブ(!)からスタート。スリリングで見事なソロです。やがてピアノとその他のホーンが加わり、力強いテーマが立ち上がります。低音部を強調しながら弾むようなテンポの良さがあるメロディが素晴らしく、これを受けたスコット・ホワイトフィールドのトロンボーン・ソロも快調です。その後はホーン・アンサンブルによる「切り替えし」を経てクリス・ポッターのアルト・ソロへ。躍動的なリズムに乗って快調に吹きまくる中、ホーンがどんどんバックで迫ってきて圧倒的なグルーブ感があります。ここでブレイクがあって、一瞬終わったのかと思いきや、リズムも抜けて守屋さんのみのソロへ。ちょっとラグタイム的な軽快なソロにやがてリズムが加わり、「静」から「動」へとつないでいきます。バンド全体のノリに任せるのではなく、組曲的な展開を持たせて曲全体を楽しめるものする仕掛け、見事です。やがてホーン・アンサンブルとトニー・リーダスのピリッとしたドラム・ソロが加わり、圧倒的な迫力のもとにエンディングを迎えます。

他にも優しさに満ちた⑤Song For K など素晴らしい曲が目白押しです。

今回の「BODY&SOUL」のようなクラウドファンディング以外にも新型コロナを受けた「経済協力」が多方面で見られました。厳しい状況の中で助け合っていこうという動きはそれなりに定着していくのではないかと思います。

素直に助けを求めたり、手を差し伸べることができるコミュニティが作れるかが存続にあたって大きなカギとなるでしょう。これまで以上に「培ってきた信頼」が大きく働く世の中になっていきそうです。

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