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2021年に選ぶ映画たち *Wake Up!!!*

今年も今日で終わりです。大雪の中実家に引きこもっています。

今年は色々とボロボロな年だったので、例年では大体60〜70本の映画を観るのですが今数えてみると44本しか新作を観ていませんでした。
これだけしか観てないのにランキング出すのもな〜でも毎年やってることだしやらなかったら気持ち悪いよな〜でも正直めんどくさいよな〜と結局大晦日までズルズルとランキング作りを先延ばししていたのですが、結局作りました。やったね!

twitterでつぶやいた短い感想付きでまとめていきます。上半期ベストに入れた映画も入っているので一部重複しているところはありますが、お付き合い頂けますと嬉しいです。年末年始のネトフリアマプラユーネクスト鑑賞のご参考になれば幸いです。


2021年に選んだ10本

1. プロミシング・ヤング・ウーマン

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前途有望だった女性はキャリアを捨てて復讐へ向かう。
なぜ汚名は女性の方について回るのか、なぜ女性は男性の保身のために存在を消されてしまうのか、なぜ女性の方が未来を剥奪されてしまうのか。
エンターテイメントとして仕上げながらタイトルの意味が重く残る。

脚本はテンポよく、キャリー・マリガンの鮮やかな復讐には舌を巻いて楽しめるし、最後まで観客を飽きさせないサービス精神溢れる映画。楽しませながらも問題の本質への誘導もうまいし、単純にスカッとはさせない。少なくとも「前途有望な女性」って、女のことバカにしてんのか?と思えるくらいには。

ただエンドについてはどっちでもよかったなと思っていて、あれはあれでカタルシスも得られる良いエンドではあったもののともすれば蛇足と捉えられかねない微妙なところだったな。幕の引き方としては完璧なんだけど、エンドにそれをぶちこまなくてももう十分映画が語りたかったことは伝わってたけどな〜


2. tick, tick...BOOM!

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全ての「つくる人」へ贈る賛歌。
年齢に焦ったり、理想と現実のギャップに苦しんだり、人を羨んだり、挫折したりしても、作ることによってしか得られない喜びがあって、一途にその喜びを求めること、そんな人生も言葉にならず美しい。
言葉は消えて、全部涙になって流れていった。

自分の年齢と人とを比べて彼は自分より若くデビューしてるとか、バイト生活でお金がないとか、友達は堅実に就職して生活水準に差が開いていく焦りとか、全部がわかる。それがわかるからこそ自分の作品を見出された時の喜びの大きさもわかる。彼から溢れ出す音楽全部に彼の人生が詰まっていた。

ずっと長く手塩にかけてきた作品がダメだったとしても、次を作って、作って、作り続けるのが作家であり、とにかく壁に投げて投げて、いつか何かが壁にくっつく時がくる。それはここに生きる「つくる人」たち全てに届く言葉じゃないかな。
諦めないでと強く背中を押してくれる作品。本当に泣きました。


3. アメリカン・ユートピア

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とても贅沢な時間だった。
コンサートでもありショーでもあり、舞台作品でもある。
舞台の文脈でコンサートを演出するとこんな化学反応が起こるのだな。ミニマルな美術に一切のコード・機械類を排除することで動きの制約から解放されたパフォーマー達の姿に目がずっと釘付け。

私はディビッド・バーンという歌手のことを1ミリも知らずこの映画が何なのかも知らないまま観に行ったけど、ショーというよりは音楽がメインの舞台作品として楽しめたような気がする。パフォーマー達も縦横無尽だし、カメラもまた単なるショーの記録に終わらない踏み込んだ映像の連続。かっこよ!

舞台として見るならライティングが特に素晴らしかったな。シンプルな青め単色でまとめているけどパフォーマー達のグレイの衣装に当たると舞台全体が発光しているように見える。音楽は"HERE"が好き。
そしてDIRECTED BY SPYKE LEEのクレジットに痺れる。ユートピアへの希望はきっと残されている。


4. ドライブ・マイ・カー

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いつまでも余韻が続いている。終わってほしくないドライブ、トンネル、高速道路。
戯曲の言葉を借りながら、喪失を、揺らぎをじっと見つめる。誰がどんな存在で、本当のことは何で、この気持ちは何で、なぜ生きるのか。
暗いトンネルを抜けて光の方へ、きっと必ず光の方へ。

劇中演劇が本当に良くて、なぜ私はチェーホフを通ってこなかったんだと愕然としてしまった。
原作未読で作中の原作要素は分からないけれど、この映画に嵌め込まれた『ワーニャ伯父さん』という物語のあまりの完璧さにものすごく嫉妬してしまう。なんて台詞だよ、なんて映画だよ、なんてものを観たんだ。

上映時間は3時間だけど体感時間はその半分っていろんな人に言われて観たけど本当にその通りだった。びっくりした。まだ観れた、いつまでも観ていたかった。彼らが作った演劇も彼らのその後の人生もずっと観ていたかった。
演劇をしたい、演劇から離れた自分をまさか映画に悔やまされることになるとは。


5. ノマドランド

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心がずっと旅をしている。留まらずに求め続ける。自分ひとり分の荷物だけを詰め込んで、ひとりだけの旅路を行く。旅路で出会う人たちとほんの一瞬重なる人生。友情も愛情も芽生えるけれど、ひとりは選び取ることもできるもの。たったひとりの世界でも、空は、自然は、あまりに美しい。

もちろん誰しもが望んでノマドの生き方を選択したわけでもない。住む町がなくなった人、経済格差に放り出された人、貧困から逃げるようにノマドにならざるを得なかった人。映画は彼らを社会の敗者とは看做さない。足元に散らかっている経済、貧困問題を踏みしめて、彼らは自らの尊厳を大事に生きる。

Amazonに代表されているようなアメリカの短期雇用形態の闇とか、車上生活のシビアさにももっと切り込んでいくこともできただろうけど、訴えたかったのはそこではなかったんだろうなと思料。常に旅をする心、ひとりを選び取る人生の肯定が映画をずっと貫いていた。彼らの世界が美しかった。

映像もさることながら音楽が本当に素晴らしくて即サントラ入れてしまったよね。まさにひとりの時間に流したい音楽だ、走る車を追いかけるように鳴るピアノがどれほど美しかったことか。


6. MONOS  猿と呼ばれし者たち

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世界のどこかでゲリラ部隊として訓練された少年兵たちは外界からも隔絶され、どこか楽園のような日々を過ごしていた。ひとつのミスをきっかけに楽園は終わり、増幅する狂気が心を破壊する。
息を呑む圧倒的な自然の中で暴力に体が染まる。まさに「今」の『地獄の黙示録』。

年端もいかない少年少女達が過ごす場所、それを映す映像はあまりに美しく、全員性を排除したような中性的外見なのに思春期の性の匂いがする。
楽園のような日々が一転、戦場へと、そして個々の倫理の崩壊、狂気の発露へと転げ落ちていく展開にはこちらの理性や秘めた狂気すらも試されているかのよう。

とにかく映像が圧倒的で、ほぼ濁流と言ってもいい川や豪雨、密林に巣食う大量の虫、生き抜く過酷さ全てを詰め込んだようなカットの数々。そこに流れる音楽はまるで敵の襲来を告げる笛のように甲高く響く。
映画は必ず終わるものだけど、目を逸らせない、いつまでも映像が、音が、焼き付いて離れない。


7. コレクティブ 国家の嘘

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あるライブハウスの火災事故をきっかけに露呈した医療体制の腐敗を告発し断罪していく果敢なジャーナリストたちの姿はドキュメンタリーじゃなく本当の映画のよう。
手に汗握る展開だけど、他人事とは思えない現実もまた描かれる。選挙前に観てよかった&観てほしい傑作。

事実がフィクションよりも幾重にもぶっとんでいる衝撃や、記者たちがあらゆる関係者から情報を集める様子はリアル『スポットライト 世紀のスクープ』じゃんと思いながら観ていた。
メディアが権力に屈すると国家は国民を虐げはじめるという言葉が耳に焼き付く。圧倒されるジャーナリズム精神。

けれどどれだけジャーナリストたちが、そして政府側の人間たちが手を尽くしても、国民に伝わらなくては意味がない。
思考停止に陥らず、興味関心を失わず、声を上げる人たちの声を聞き、国民一人一人が立ち上がってくれなくては。
正しい行いのためには投票が必要なのだ。マジで私たちは選挙に行こう。


8. 17歳の瞳に映る世界

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中絶手術のため、17歳の彼女たちはペンシルバニアからニューヨークへ。
淡々とした物語でありながら、彼女たちの孤独、不安、痛み、それから安らかな寝顔が心を捉えて離さない。言葉がなくても眼差しが、横顔が、指先が、涙が彼女たちを物語る。きっと心に深く残り続ける映画。

男女は常に不均衡で、女にとって男からの善意や親切、承認は性的搾取と常にトレードオフの関係にある。望まない眼差しをやり過ごし、時には利用することでこの世界に「勝つ」強かさを手に入れながら、彼女たちは傷ついている。涙を見せるのは鏡の前と、同じ女の前でだけ。
弱みを見せてはいけないから。

背景も何も語られず、ただ二人が高速バスでニューヨークに向かい、中絶手術を受けるという説明として書くならそれだけなんだけど、決して、それだけじゃない。アメリカで少女として女として生き抜くことの多くの断片がこの映画にはあった。この映画は男女の、少女の不均衡を作品一つで切り取っている。


9. 少年の君

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孤独と恋の共鳴に心が震える。
格差社会、加熱する受験闘争、エスカレートしていくいじめという社会システムの問題を丁寧に拾い上げ、美しく見えるふたりの強固な結びつきもこの歪んだ社会システムがもたらしたものだと思うと胸が苦しい。
10代を生き延びた私たちへ祈りと未来を託す映画。

主演ふたりの、互いに自分の境遇に絶望し諦めながらもそれでも生きようとする大粒の涙に私の涙が滲む。
私も受験を経験したからこそ彼女のプレッシャーが、そしていじめる側の行き場のない抑圧も理解できてしまう。彼らは等しく社会システムの被害者だ、それでも誰にも他者を踏み躙る権利は持たない。

明確にいじめ防止、抑制の啓発であることを示しているものの、単なる啓発に終わらない純然とした作品に昇華されているのは丁寧に書かれた脚本、演出、そして主演ふたりの瑞々しさなのだろうと思う。優等生とチンピラという漫画のような設定でありながら、その肩書きを無効化してしまう剥き出しの演技。


10. ゴジラvsコング

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『ゴジラvsコング』はネタバレ防止のためfilmarksにまとめています。思いの丈が全て詰まっているので長文注意です。



以上10本を今年の映画に選んでみました。
10本を並べてみて、「目を覚ませ!」という言葉が浮かびました。今年は『プロミシング・ヤング・ウーマン』『17歳の瞳に映る世界』、選外にしましたが『ラストナイト・イン・ソーホー』など女性への暴力、それに立ち向かっていく女性の姿に焦点を当てた映画が強く輝いた年だったように思います。あとは『ノマドランド』『アメリカン・ユートピア』『tick, tick...BOOM!』など音楽が美しい映画も充実していたように思います。ネトフリの民ではないのでネトフリ映画は劇場公開されたものしか観れないのですが、配信だけってやっぱり勿体ないから積極的に劇場公開してほしいネトフリさん…

精神的にヤバい年で、映画なんか観てる場合ちゃうんじゃとキレてしまうような時期もありましたが、44本しか観れなかった…のではなくて44本も観たんだわ!と思うことにします。来年はもっとたくさん映画を観れたらいいな!(でも44本だけでも10本選ぶのは難しい…)


来年も良い映画がたくさん劇場公開されますよう祈りつつ、年末の挨拶とさせていただきます。良いお年をお迎えください!


読んでくださってありがとうございます。いただいたお気持ちは生きるための材料に充てて大事に使います。