関係性の中に

やりたいことが見つからない。

そんな青臭い、しかし切実な悩みにぶつかったのは就職活動の時。今まで甘えて生きて生きたからだ、結局、なにもできやしない、そんな自己嫌悪を始めたと思いきや、自分を仕事にして、役に立てる仕事につきたい、なんて意気揚々と過ごしていたある日。

仲のいいT先輩が俺に言った言葉が胸に焼き付いた。

自分の中にやりたいことがあって、それを見つけ出すことに躍起になってるうちは、そんなかから抜け出せねえよ。

え、なんすかいきなり、と苦笑いしてお茶を濁しつつ、俺の中でその言葉は鈍い鐘の音のように鳴り響いた。

家に帰って風呂に入りながらも、その言葉が頭からこびりついて離れなかった。シャワーをあびながら、T先輩の言葉を思い出していた。

なあ、雄吾。俺に言わせるとな、あれがしたい、これがしたいなんて就活じゃねえ。人間の価値はさ、相対的なもんなんだ。この人との間には、サッカーの関係、この人との間には、

だから、若いうちに生身の自分で他者と関わって、価値を見つける感覚を養っておくんだ。とにかく行動しろーとか、人と会えーとか単純な話じゃないぜ?どうにもならない、動かしようのない他者の中で、価値を生んでいくのが仕事なんだから。

やりたいことも、人の価値も、他者や社会の中にあるんだ。だから、自分を開いて、かかわっていくんだよ。

それが、大事ブラザーズってやつさ。

最後に訳のわからないぎゃぐを挟んでくるT先輩だったが、俺は今もこの言葉を忘れていない。

2019年5月2日 2作目「関係性の中に」

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