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ル・プティ・シュヴァリエ 1-10

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 10 ルクス Lux

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 10 ルクス Lux

 俺と真砂さんは榊の邸宅の中庭に倒れ込んでいた。
 気を失っていたわけではないが、二人とも急激な疲労に襲われ、身体に力が入らなかった。
 見上げるとアリがこちらを見つめていて、お疲れ様です、と気遣った。

 「榊の結界は解けました」
 そう言って、アリは希うように両手を掲げ瞼を閉じた。

 そのまま一つの音程、少女の声とは思えないほど低い音程を、延々と持続させながら歌い始めた。かすかな狂いさえ

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 9 Sin

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 9 Sin

 遠く、斜めに光が差し込む樹々のあいだを、ゆっくりと歩いてくる男が見えた。真夏の樹海に不似合いな、黒いロングコートを着た背の高い男。肩まである、黒い長髪が揺れている。
 右手に白装束の女の首をぶらさげていた。
 榊だ。
 猫のような眼をしている。
 なぜだかわからないが、私たちは榊を即座に攻撃しようとしなかった。

 私たちの目の前までやってきた榊は不敵な笑みを浮かべて言った。
 「ありがとう、

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 8 Heavy Soul

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 8 Heavy Soul

 磔の庭の地下、それは地下室のことだと思っていた。
 鬱蒼とした樹木と苔が偏在する地下世界。
 空は抜けるような青一色。鳥の鳴き声。
 めくるめく無機物に近づきつつある地上世界とは対照的に、ここは生命の香りが立ち込めていた。

 「真砂さん、聞こえましたか? 三十分は努力目標じゃないらしいです」
 「うん」
 「真砂さん、大丈夫ですか?」
 「何が?」
 「いろいろです」
 「大丈夫なのかな、う

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 7 裂開

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 7 裂開

 沖に昇りかけた太陽は、光の絵の具のように雲間を流れ地上にあふれた。
 穏やかな波だ。際立つ満天の星雲。キラメク夜明け。

 浜辺に敷かれた結晶の絨毯を、海伝いに遠くから歩いてくる少女が見える。
「彼女が呪術師のアリです」
 アンリが伝える。

 名前から男だと思っていた。
 おそらく十代半ばくらいだろう。
「足手まといにならないか心配」
  真砂さんがつぶやく。

 目前までやってきたとき

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 6 Vein Ⅲ

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 6 Vein Ⅲ

 ホテルを出て、駅の改札を横切ると、閉園した遊園地のように無人だった。思わず立ち止まる。いや、違う。目を凝らすと窓口に駅員はいるし、表通りから見上げる高架ホームにも数人の乗客を確認できた。
 「それにしても」
 いつもの癖で口元に手をやり、閑散としたバス停を見渡しながら、囁いた。
 日中に市街の中心部にある駅周辺に人の気配が乏しいのは不気味だ。
 しばらく敵の気配もない。
 空に浮かぶ銀河だけが荘

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 5 Vein Ⅱ

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 5 Vein Ⅱ

 にわか雨は止み、すぐに洋館を出発した。
日本中で多発している異常な現象によるものなのかわからないが、住宅街は閑散としていて、滅多に人とすれ違うこともなかった。
 アンリの指示に従いながら、なるべく複雑なルートで次のクダへ向かう。無駄な戦闘を避けるためだ。
通りがかった倉庫で、大声で指示を出しながら働く人たちを見かけ、世界から完全に人間が消失してしまったわけではないのだと、少し安心した。

 市

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 4 Vein

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 4 Vein

 教会は住宅街に紛れて、アンリに言われなければうっかり通り過ぎてしまいそうな、小さく簡素な建物だった。開放されている礼拝堂に足を踏み入れると、木製の長椅子に腰かけた母子連れがいた。最後列の長椅子に腰かけ、どこにクダはあるの、母子連れに気づかれないように囁き声でアンリに尋ねた。
 「クダはそれが設置された空間内部を満たしています」
 そうアンリは答えたが、いまいち意味がわからない。
 「カードを十秒

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 3 フィギュール Figures Ⅱ

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 3 フィギュール Figures Ⅱ

「来栖ミトから連絡がありました。応答しますか?」
 私がこの地を訪れた初日、浜辺に敷きつめられた石ころも、入り江の小高い流紋岩も、灰白色だった。それが数日のあいだに内部から鈍い光を放ち始め、すぐにピンク、紫、橙の結晶が熟した。昼間の結晶は太陽と溶け合いながら光を吸収し、夜にゆっくりそれを吐き出すように浜辺を輝かせた。

 「つないで」
 「了解しました」

 真昼。
 結晶化した石ころを踏みしめな

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 2 フィギュール Figures 

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 2 フィギュール Figures 

 八時ちょうどに目覚めた。
 窓から覗くのは旅立ちにふさわしい晴れ渡る空だ。

 世界が終わるというのに、長らく味わえなかった安眠を享受できた。
 確固たる使命を与えられないことが、いかに人を慢性的な不安に陥らせるのか、生まれて初めて理解できた気がした。

 アンリ、起きて。教えてほしいんだ、どこへ向かえばいいのか。
 「あなたが起きているとき、私も起きています」
 濡れたような結晶をゆらめかせて

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ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 1 前頭前夜

ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 1 前頭前夜

あらすじ上位世界から、この世界を救う使命を託された真砂リサは、任務遂行のパートナーに後輩の来栖ミトを誘う。授けられた特殊能力、「フィギュール」を駆使し、任務は順調に進むかに見えたが、二人の内に秘めた目的のズレが次第に影を落とし始める。

1 前頭前夜  月夜。白い花、これはユリだそうです、そう電話口から真砂さんに教えた。

 よかったねと返ってきたけれど、いやあ、猫がいるんでユリは身近に置けない

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