網膜剥離日記5/うつむき療養期間

 さて2週間の俯き療養期間に突入いたしました。眼球内に充填されたガスが硝子体より軽いのを利用して、硝子体の上に浮き上がるガスによって剥がれた網膜を押さえさせるために、頭をできるだけ常に地面と平行に保つ、という期間です。硝子体手術の後はみんなやるそうで、白内障などであれば最短1時間で済むらしいのですが、網膜剥離の場合はまるまる2週間続けなくてはならないのです。
 トイレと食事の時以外はうつぶせまたは右向き寝(右側臥位)でいなくてはならず、洗髪・洗顔・入浴も厳禁。顔を上げられないので通院以外の外出も不可能です。
 顔を下にしてればいいわけだから絵ぐらい描けるかな~とかいい機会だから古典作品の朗読でも録音してみるかなど思った時期もありましたが無理でした。うつぶせにしても右側臥位にしてもとにかく手の自由が利かない。そして顔を布団からある程度以上離したまま体を横たえているのは首がメチャクチャしんどい。頑張ればアナログで絵を描くぐらいはできたのかもしれないけど片目が利かないので集中できない。
 
根性なしの私は「こりゃ~無理だ」と早々に白旗を上げ、スマホでゲームをする以外は一日中アマプラで「孤独のグルメ」を見ていました。正直それでも結構ダルい。人間ずっと同じ姿勢でい続けるのしんどいんですよやってみないとわからんもんですたい。

 うつむき期間開始から三日間は眼帯をつけ、毎日通院して経過を観察。この頃は眼帯を外した左目の白目は縫い跡クッキリ血液バッチリ☆の正しくハロウィン仕様だった。
 幸い痛みなどはなく感染症も起こすことなく三日間を乗り切り、次の経過観察はさらに五日後となったわけですが、通院しない一日、長いっ……!
 
長いっ……! 遅いっ……! 一日の過ぎるのが……! 他に何が出来るでもないので食事の時間が平時より1時間ずつ前倒しになってしまうほど。この2週間の間、朝食は7時、昼食は12時、夕食は17時、就寝は22時、そして3時頃に目が覚める、くらいで生活していました。もうそれくらいじゃないとあまりにも時間が過ぎるのが遅くて、動画を見てゲームをするくらいではとても埋められない空白感が凄い。他にやりたいことが何一つないならまだアレですけども、いかんせん私はオタクであります。絵だって文章だってかきたいしむかしむかしのコンシューマーゲームだってやりたい。目が何ともなければあれもやるのにこれもやるのに、が内心止まらなくて、横になって何なら時々寝てるっていうのに若干修行みたいな心持だった。

 さらに度々不眠にも悩まされました。22時に横になって15分経ち30分経っても寝付けず、次第に「足がむずむずする」とか「なんか蒸し暑い」とか「どこか息苦しい」とかが気になって結局起き上がってしまう。そのくせ明るくして起き上がって眼鏡をかけると急にあくびが止まらなくなって机に突っ伏して居眠りがしたくなる。今なら眠れそうと思って明かりを消して眼鏡を外して横になるとまた眠れない、これの繰り返しが度々ありました。しかも「明日は通院」とか、何か予定のある日に限って寝付けない。この二週間のうつぶせ期間が終わった後も就寝時はうつぶせ寝か右側臥位しか許可されていなかったのですが、やっぱり翌日仕事とか人に会うとかの予定があると全く寝付けなかった。
 
予定がなければ「寝なくたっていいさ」と割り切ってまた般若心経を写経したりして過ごし、眠れる昼間に寝てしまうんですけども、予定がある場合はそうもいかない。何とか寝ようと努力するんですが、やればやるだけ寝付けない。そうよ私はストレスに弱い女。
「寝てる間に仰向けになってしまったらどうしよう」という不安感と、体はうつぶせで首を横にしている時の首の痛みと、体を横向きにした時の右外腿の床ずれ手前みたいな痛みが堪える、というのが恐らく私のストレスの原因でした。あとはやっぱり「今寝ておかないと明日起きていられない」という不安。横向き寝の時の腕が胸を押しつぶす息苦しさ、体だけうつぶせ寝の時の手のやり場のなさ。肩から腕って寝る時ホント邪魔!(←ムチャクチャ言いよる)あおむけ寝って両肩が広がって息がしやすいんだなあ、と改めて理解しました。

 そしてうつぶせ期間1週間目、ついに事件は起こりました。

 目が覚めたら仰向けで寝てたの。

 もう真っ青ですよ。えっえっえっえっ絶対駄目って言われてたのに私コレどうなっちゃうの!? ってもうパニックですよ。
 幸か不幸かその日は受診日だったので、時間まではうつぶせ姿勢を保ち、経過観察受診に行ってみたところ

Dr「あー、眼圧高いですねえ。エアーが眼球の前の方に来ちゃってます」
わし「目が覚めたら……仰向けで……」
Dr「エアーで網膜をちゃんと押さえてないと再剥離の可能性があるので注意して下さいね」

 もうショック。意気消沈。

 さらに悪いことは重なるもので、それまで特に何ともなかったのにこの辺りから右向き寝になると右外腿が痛くてしょうがない。さっきちらっと「床ずれ手前みたいな痛み」と書きましたが、そこに体重が乗ると痛くて姿勢を維持していられないという感じ。やむを得ないので体はうつぶせで首だけを横向きにして呼吸を維持するんですが、これも正直ちょっと息苦しい。胸は押さえてるし首はねじってるから痛くて手のやり場に困る。もっと広いセミダブルベッドとかだったらこんなんじゃなかったかもしれないんですけどね! 両サイドに片付かないモノがぎっちりある狭い部屋に敷いた煎餅布団だから環境最悪なんですわ!(泣)

 さらにこの辺りからお腹が絶不調。1週間ろくに足を動かさなかったために腸の動きが悪くなった上、食べているのもレトルトばかりで食物繊維はほとんど摂れておらず、便秘と下痢が交互に来る感じでものすごく具合が悪くなりました。お腹ぐるぐる言ってさっさと出したいのになぜか出てこない。一度出てもまだ残ってる感じがして何度もトイレに立ってしまう。
 とにかく落ち着かないしお腹痛いし胃腸薬も効いてる感じがしなくて、結局まともなお腹の調子になったのはうつぶせ期間が終わって1週間弱くらいの頃でした。これだって俯せ期間が終わるなり毎日多少歩く習慣をつけて大根やら白菜やら食物繊維がそれなりにありそうなものを選択的に食べてのことではあるので、もしそうしてなかったらもっと長引いていたかもしれないし、習慣づけた散歩の時間を長くしていたらもっと早く治ったかもしれないし、うつぶせ期間中でもちゃんとしたお食事を摂れていればそもそもこうはならなかった可能性もあります。

 そしてうつぶせ期間2週間が終わって経過観察、異常なしとのことで軽い家事や顔を上げての歩行が許可された時には解放感が凄くてつい自宅まで30分歩いてしまった。平日だし~カラオケして~焼肉行って~みたいなことも考えていたんですが、昼食にケンタを食べたらなんかそれだけで満足してしまってまっすぐ帰宅しました。
 まあ、日中のうつぶせ期間が終わったとはいえまだ仰向けに寝てはいけないし作業もできるだけ目線を下にしたデスクワークのみといわれたことで「それじゃあ割と顔上げっぱのカラオケとかはちょっとな……」となったのもある。それでも、顔を上げて外を歩いて良いと言われたのは本当に解放感がありました。今でもうつぶせ寝か右向き寝しか許されてないし眠れない時は眠れませんけどね!

サポートをいただけると、私が貯金通帳の残高を気にする回数がとっても減ります。あと夕飯のおかずがたぶん増えます。