吉良吉影と対峙した辻彩について

 何だって突然彩さんの話なんかしようかと思ったかっていうと話せば長くなるんですけどね、pixivに「あーあ、出会っちまったか」というタグが存在することを知って「誰か…絶対誰かいるはずだ…コルワさんと彩さんを組み合わせて『絶対ハピエンドリームタッグ!こいつらに幸せにできねえカップルはいねえ!』みたいなのを描いている奴が…!」と思って必死に探したけど見つからなくてだ、支部を飛び出してグーグルで「辻彩 コルワ」で探したけど見つからなかった代わりにこちらの記事を発見して大☆興☆奮☆してしまったっていう、なんかそういう経緯がある。彩さん超カッケーじゃあねえのオ!!
 そんで、うろ覚えで恐縮ながら、私もちょっと吉良と彩の邂逅のシーンについて思考を巡らせてみた。うろ覚えだから間違ってるところいっぱいあると思いますすみません。

吉良サイド

 逃げるために左手を切り落とし顔も見られた吉良はどうにか杜王町を出ようと考えるも、左手はクレイジー・ダイヤモンドによって仗助たちを導きながら自分のところに戻ろうとしている。
 吉良としては左手が治るならそれに越したことはないだろうがマズいのは自分の顔が見られて本名が知られ、今まさに居場所も知られてしまうということだ。町の外に逃げても左手と仗助たちはどこまでも自分を追ってくるに違いない。仮に何らかの方法でクレイジー・ダイヤモンドの能力を振り切り左手が治らないままで逃げ延びることが出来ても、「左手のない男」というのはあまりにも強烈な特徴である。吉良がスピードワゴン財団の存在をどれくらい知っていたかはわからねど、例えばどこかで秘密で義手を作れたとしても(そして義手の製造を知る者を皆殺しにしてさらに逃亡したとしても)スピードワゴン財団の力があれば「左手のない男、もしくは左手の義手を作成した男」なんて日本全国でそんなに多いはずはないからすぐに見つかる。さらに義手作成にまつわる者が変死したとなれば見つかる可能性は上がる。とはいえ義手を作らせた相手を生かしておいても不安な日々が続いて吉良としては不本意だから殺すより他はない。左手がないままではよそに移っても就職もままならないし、「吉良吉影」名義の預金をどこかから少しずつ切り崩していけばすぐに足がつく。仮にそれらをクリアできたとしても「最近やってきた左手のない男」なんて他人の注意を引かないはずがない。左手がないままでは、吉良の望む「平穏な暮らし」は手に入らないのだ。
 理想としては「左手はクレイジー・ダイヤモンドに治させ、顔を変えて別人として杜王町を出て他の土地で暮らす」あたりだろうが、この状況では左手はともかく他の条件全てがほぼ無理なのは考えるまでもない。
 しかし追い詰められた吉良は、杜王町に店を開いたエステティシャン・辻彩が「人の顔や手相を変える」スタンド使いであることに思い当たり、自分と背格好の似ている川尻浩作を捕まえて容姿・服・社会的立場を奪って成り代わった。「杜王町を出る」ことはできなかったが、顔も名前も住所も変わった以上「杜王町から吉良吉影が消えた」という社会的な条件は成立しているし、生活基盤も他人のものをそのまま使えるわけだからいらない苦労をしなくていい。
 吉良は彩が自分の整形を引き受けたのを「脅して自分に従わせた」と認識しているだろう、カップルの彼女の方に爪を切らせた時と同じように。辻彩が「死にたくないから自分に従った」と吉良は認識していたんじゃないかと思う。

彩サイド

 ここで視点を辻彩の方に切り替える。彩が「杜王町の殺人鬼」についてどれほどの情報を持っていたかは定かではない。アニメ版では彩の初登場(「山岸由香子はシンデレラに憧れる」)が重ちー死亡より先なのでオーソン前のスタンド使い集合の中にも参加して情報共有されているが、原作では彩を「仲間のスタンド使い」として仗助サイドが扱う描写はない。ならばやはり辻彩は、いきなり人の死体を引き連れて現れた吉良に「殺されたくなくて」怯えて要求を呑んだのか?
 辻彩のスタンド「シンデレラ」の能力は「人間の体のパーツを作り替える」能力と考えていいだろう。「運勢」という形のないものをスタンド能力(=広義の「超能力」)でどれだけ操作できるかはちょっとわからんので、スタンド能力でできるのは「容姿の造形や印象を、体に大きなダメージを与えずに変える」ところまでで、手相や顔相については彩さん自身の知識によるものじゃなかろうか。
 由花子の「お試しメイク」を例にとって考えると、康一くんが連絡してきたのは重ちーの死を受けて同じくスタンド使いである由花子がどうしているか気になったから(あるいは原作なら仗助・ジョセフとどこかで会って「由花子が何やら物思いに沈んでいた」という情報を得たのかもしれないし、アニメでは「カフェの窓から見かけた由花子が落ち込んでいるように見えたから」と明言している)、その後話が弾んだのは「メイク」を施した由花子の表情が康一くんが知るより和やかで明るく話しやすい印象を与えたから、急に腹痛を訴えて帰ったのは康一くんの消化器の事情である。おそらく「トイレに行きたい」と思った瞬間に由花子による監禁生活を思い出し「由花子さんの前で体調不良を見せてはいけない(また監禁されて世話を焼かれてしまう)」と判断したので意地でも帰ったのだと思う。この場合「メイク」がたしかに由花子に「運勢の変化」をもたらしたのは、喫茶店で話している間の康一くんのリラックス具合だ。由花子自身は自分の顔がそこまで印象を変えた自覚がないまま(そして康一くん自身も何故由花子の前でこんなにリラックスできるのかわからないまま)「自分の前でリラックスしている康一くん」を見ているわけだから自分がものすごく(不自然なほどに)ラッキーなように感じたのだろう。それで急に康一くんが具合を悪くして「帰る」と言い張ったら、その落差で急に自分から幸運が逃げたように感じる。「シンデレラ」による「運の操作」というのは、恐らくそういう間接的なモンなんじゃないかなと。
 生き物の体には「元に戻ろうとする」力が本来備わっているので、それを一瞬にして塗り替えるとなればそれこそ彩の命ごとスタンド能力を全部一人に注ぎ込まなければいけなかったのではないか。トニオさんの「パール・ジャム」は食品を媒介として人間の自然治癒力(「元に戻ろう」とする力)を急激に促進する方向であるのに対し、「シンデレラ」は「本来その人に備わっていないものを与える(ないし「交換する」)」ために体に持続的な負荷がかかる。釣り目の人を垂れ目にしたり、下がっている口角を常に上げさせたりするわけで、たぶん「30分」という制限は「商品」として複数名に同時に影響をもたらすにあたって彩自身の負担が小さく、かつ使用者の肉体に大きな負荷をかけないためのものなんじゃないだろうか。「運勢が定着するのに時間がかかる」という表現も、例えば「常時意識して口角を上げ目を見開き眉尻を下げ続ける」ような行為を「意識しないでも本人が持続できるようになる(体がその形を覚える)」までの「時間がかかる」ということなんじゃないかなーと思って。そうして体の方が「新しい形を覚える」途中、つまり「元の形を忘れた」状態でスタンド能力による更新を行わないと体の組織が、なんていうか、迷子の状態で放り出されるというかな、戻るべき「元の形」を喪失しているので維持できずに崩壊していく、ということなんじゃないか。
 で、吉良と彩の対峙に話は戻る。彩の店に死んだ男を連れて突然現れた吉良が「私の顔と指紋をこの男のものにしろ」と脅してくる。この時彩はまず吉良を一目見てどれくらいの強運を持ち、いかなる悪行をなしてきたかを最初に悟ったんじゃないか。
「シンデレラ」は戦闘に不向きなスタンドだし、顔を変えるためだけに自分と背格好の似た人間をためらいなく殺したような男が言うこと聞いたくらいで見逃してくれるとは思えない。しかし「人を幸せにする魔法使い」としてのプライドがある彩にとって、この凶悪な男を野放しにするわけにもいかない。この凶悪犯に対して自分ができることは何か、顔や手相を変えることで運勢を変えることが出来る。吉良を撃退することはできなくても、吉良を守る強運をその顔と手相ごと引っぺがして、死んでしまった不幸な男の人生に縛り付けることはできる。
 川尻浩作は、お世辞にも幸運な人間とはいいがたい。気の合わない嫁と結婚してしまったばかりに、必死に働いて帰ってきても顧みられることなく夕食をカップ麺で済まされ、子どもも自分を尊敬せず、仕事場でも頭を上げられない。何より普通に出勤してるところで吉良に目をつけられて殺されてしまうとか、人生の貧乏くじの一等大当たりを引き当ててるとしか言えない。この人の乗った飛行機は落ちたりはしないだろうけど大体毎回大雪だの雷雨だのストだので遅延してるとかしてても全然不思議じゃない。
 吉良吉影という人は己の才覚と強運と親バカに守られて生きてきているので、どうにも傲慢で少々脇の甘いところがある。冷静な時ならその甘さに対する自覚もあるだろうが、苛立ったり激昂したりしていると康一くんに財布をスられた時のような視野狭窄を起こす。そんな人から強運を取り上げて川尻浩作の不幸をつければ、ボロを出す可能性を少し上げられるかもしれない。
 何より「変えたい顔の持ち主を殺して死体を店に持ち込んだ」ということは「顔の持ち主になり替わって生活する時間を持つつもりである」ということでもある。一般市民が突然ただ行方不明になっただけじゃ怪しまれるからね。この時点で原作辻彩の知るスタンド使いが由花子と康一だけだったとしても、「自分の身の上に何が起こったか」を正しく理解できる人間が杜王町には最低二人はいることを彩は把握していたわけだ。それなら少しでもこの凶悪犯を杜王町に留め、強運によるガードを剥いでしまうのが「シンデレラ」というスタンドを持つ自分にできる一番大きな貢献である、という判断を彩さんは下したんじゃないだろうか。

まとめと余談

 吉良は自分が彩さんを脅して言うことを聞かせたと思っているが、実はこの全てが彩さん渾身にしてベストなファインプレーであった、という可能性に最高にロマンを感じるわけです。何だろな、チェスでビショップがクイーン取っちゃったのを見たくらいの気分だよ。いやもうちょっと正確に言うなら「自陣に入ってきたクイーン(「杜王町の殺人鬼」の正体)をナイト(康一くん)が取った後、他狙いで進出していたルーク(吉良の強運)をポーン(彩さん)が自爆覚悟でもぎ取った」みたいな感じだろうか。クイーンとルーク取ってもゲーム自体は終わんないんだけどさ、キャスリングもできなくなってかなりの戦力を削ぐことになるじゃないですか。じんわりと胸が熱くなる。
 で、こっからが余談。今ちょっと4部キャラをチェスの駒に例えてみたけど、真面目に例えるなら仗助サイドはキングが仗助、クイーンが承太郎、ナイトが億泰と康一、ビショップがジョセフと露伴、ルークが由花子と噴上、とかどうだろう。重ちーと彩さんはたぶんポーン。ルーク由花子のキャスリング、キングの仗助じゃなくてナイトの康一に寄りそうな気がするけどそれキャスリングちゃうで。康一くんはポーンからのプロモーションでクイーン化してもカッコいいけど、むしろあれか、ポーンからのプロモーションは早人の方が似合うかもしれない。
 吉良サイドはキングが吉良でルークが吉良父でかなり早い段階からのキャスリング陣形っぽい気がする。猫草とチープ・トリックはナイト。鋼田一はなんか、鉄塔暮らしだしルークで良いのでは。宮本辺りはビショップだろうか。

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