板の上がいいのに。

 

 眠れない夜はもう人生で何度目だろうか。エアコンの音が定期的に大きくなったり小さくなったりしている。それをひたすら聞いて、たまに呻く。寝ているんじゃなく布団の上に乗せられているような感覚になって、いろいろ姿勢を変えてみても効果はなく、ニトリで買った一番安かったマットレスの中途半端な反発をただ感じる。
 ざわざわ。雑木林が風で擦れるような、そんなざわめきが心臓の辺りで起こっている。あくびをするとその辺りがググググッと震えて、しばらく感覚が残る。こんなに眠れないのに、面倒くさいほどあくびが出る。体はとっくに眠りたいのに、心なのか脳なのか、そういう独立した何かが眠らせてくれない。
 漠然と泣いてみたくなって、過去の悲しいことやこの先起こったら嫌なことを思い浮かべてみてもちっとも泣けなかった。そしてその泣けなかったという事実と、ネガティブな思考回路だけが僕のなかに残っている。未来が不安である。
 僕は何もしていない。ひとの衣食住に関与していない。最近よく考えることだ。極端な話、「今ご飯を食べないと死ぬ」ということはあっても、「今芝居を見ないと死ぬ」ということは絶対にない。生まれた環境の豊かさに頼って、ひとの「余裕」の部分に寄りかかって生きていこうというのだから、より険しい道のりを強いられて当然なのだ。もちろん、才能も大事だ。一目見ただけで「この人は何かが違う」と感じさせられてしまった経験が確かにある。その度に、「俺はそっち側じゃない」という自覚を突きつけられる。そんなことを部屋の暗闇がわざわざ思い出させてくる。
 ぐるぐる。思考が巡るというよりは、同じ考えが頭の中を渦巻いている。果たして自分にそんな覚悟と才能があるのかと自問自答して「まあまあ、一旦置いときましょうよ」と逃げて逃げて、夜が開けそうになる。
 「もう」その枕詞の先に繋がる結論に辿り着くのが怖くて。そしてどうしてか、心はいつかそこに辿り着いてしまうことを予見していて。なんとか朝まで逃げ切る。
 今日もギリギリで逃げ切って、夜が明けると同時に疲れ果ててようやく眠る。自分の内にある深層に、真相に、沈んでいくように眠りに落ちていく。身体は鈍く重いまま、やっぱり布団に乗せられている感じがしている。どうせ乗せられるんだったら、板の上がいいのに。

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東京都在住の22歳。俳優。エムキチビートラボメンバー。 CLipCLover所属。
「川﨑志馬」と書いて「かわさきしま」と読みます。

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