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コロナ以後に現れた私の「分身」が語り出す言葉、声。

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コロナ以後に現れた私の「分身」が語り出す言葉、声。

最近の記事

流れ出した時間、チャイム、生の祝福

子供達の時間が流れ出した。窓の外から、小学校に向かう子供達の声、それを迎える大人たちの挨拶が聞こえる。学校には「おかえりなさい」の垂れ幕が掲げられている。最初はたったの2時間の登校だけれど、それでも子供達の時間は前に進み始めた。 もちろん自粛期間中、子供達の時間が止まっていたわけではない。子供達は子供達なりにこの時間を生きていた。まだ6歳の息子には、時間はリニアに直進するものではなく、無限にやってくる瞬間、瞬間の連続であり、日々の繰り返しの中で、もともと円環しているようなも

    • 慰労と美的経験―「新しい日常」下の「祝祭」の危うさについて

      昼ごろ、同じマンションに住むママ友から「屋上に上がる鍵を貸して欲しい」とLINEで連絡があった。なにやら「ブルーインパルスを子供と見たい」とのこと。へえ、そんなことがあるんだ、くらいにしか思わず、鍵を貸したあともリモートの会議を続けた。やがて飛行機が飛ぶ轟音が聞こえてきたけれど、仕事中だったから窓の外を見ることさえしなかった。すると別の場所で仕事をしていた家族から、ブルーインパルスが飛行する様子の動画が届いた。やはり、へえ、と思っただけで、特に再生もせずにいた。なぜ男は戦闘用

      • Antibodyという神秘

        抗体の英語はAntibody、フランス語はAnticorps。 直訳すると、反身体、抗身体。 身体にアンチなものが、身体の中で自動生成され、身体を守る働きをする。 それが、自分の意識とは全く無関係なところで、絶えず、私の身体の中で起こっている。このとき、私の身体は細胞や遺伝子、ウィルスや、抗体といったミクロなものたちの入れ物でしかない。 この感覚は、妊娠出産を経験した時のことにも体験した感覚だった。自分の意思や意識とは無関係に、身体は別の生命を受け入れるプログラムを発動さ

        • イヤホンする身体、テレポーテーション、幽霊

          5月24日、もう何度目の日曜日だろう。 ここ2ヶ月、イヤホンをしている時間が長い。ワイヤレスの高性能なもので、マイクもついているから、自分の身体の音や、周りの音が、いったんマイクに取り込まれてから耳の奥に届く。こんなにも自分の心臓の鼓動や、肺に気道から空気を吸い込む音、口の中で唾を飲み込む音を、体感し続けることはなかった。 私が長時間イヤホンをつけているのは、同じ空間にいる家族の音を聞きたくないからだ。一人になりたい。思考を邪魔されたくない。私のプライベートな精神の領域を

        流れ出した時間、チャイム、生の祝福

          夢:和解と融解

          2020年5月4日の日常。まだ真っ暗い朝3時。新緑の樹々がざわざわと風に呼応する音が、夢に介入してくる。そして意識の中に、様々な声やイメージが流入してくる。私の夢は普段でも激しいほうだけれど、このところ、夢はさらに賑やかだ。本を読む時間が増えたからだろうか、それとも円環する日常の出口が、夢以外にないからだろうか。コロナ禍において、多くの人が夢をたくさん見るようになった、という記事を読んだ。人類がその日に見る夢の総量、というものを測る技術があったら、きっと面白い結果が導かれるだ

          夢:和解と融解

          円環する時間に出会う、死者たちとの対話

            2020年4月29日の日常。それは「非常事態」と命名された日常だ。家族以外の人と会うことができない。電車に乗り、移動することができない。大都市、東京にそんな日が来るとは誰も思わなかっただろう。そしてそのような「非常事態」はすでに1ヶ月以上も続いている。   そんな「非常事態」によって大きく制限された私の日常の時間は、今までのそれとはあまりに違い、ゆっくりと流れる。いや、それは流れるというよりも、円環している、といったほうが正確かもしれない。昨日も、今日も、明日も、ほぼ同

          円環する時間に出会う、死者たちとの対話