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寡作の人、多作の人



 小説家さんたちで著作が少ない場合、「寡作な作家」と呼ばれることがありますが、どのくらいから「寡作」って呼ばれるのでしょう..
 逆に「多作」と呼ばれる方もいますが、その場合、どのくらいから「多作」といえるのでしょう...

 今回は、この「寡作」と「多作」について、その定義を考えてみようと思います。


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 本来、何をもって「寡作」「多作」とするかは非常に曖昧です。

 "少ない" や "多い" は、比べるものがあって成立するものだし、その感覚は人によってそれぞれですよね。
 そのことを念頭に置きつつも、自分の感覚を基に、その基準がどのあたりか考えていきます。

 基準を考えていくには、一定の数値があると分かりやすいので、単純に○年に1冊というペースを "平均年間作品数" として表してみます。

1年に1作ペースだと<1.0作/年
2年に1作ペースなら<0.5作/年
3年1作ペースになると<0.33作/年
4年1作ペースで<0.25作/年
5年1作ペースで<0.2作/年> という感じです。

 この "平均年間作品数" を、作家キャリア年数を分母としながら、1年あたりの作品数を算出するのです。
 今回、分子となる作品数は、巻数ではなく、上下巻は1作品としてカウントし、短篇は短編集となってるものでカウントすることとします。(エッセイ等は含みません。)


 では、実例を示しながら検討していきますが、まず、何かと基準にしてしまいがちな村上春樹さんの場合で考えてみます。

 村上春樹さんは1979年に作家デビューしてますので、キャリアを42年とします。これまで14作の長編と17作の短編集(掌編集含む)があるので、対象を31作品とすると、平均年間作品数は<0.74作/年>となります。

 村上春樹さん=<0.74作/年>

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 村上春樹さんは本が出るたびに話題になる ”新作が待たれている作家” なので、「多作」とはいいませんが、決して「寡作」な感じではないですよね。
 比較的、コンスタントにリリースしてくれている印象なので、この数値は標準的なものとして考えられるのかもしれません。
(まあ、エッセイやノンフィクション、翻訳作品を含めると、むしろ「多作」になるのかもしれません。)


 次に、宮部みゆきさんについて考えてみます。
 自分的には、宮部さんは著作数が多いので「多作」のイメージなんですよね。
 その状況を数値化してみると、宮部さんは1987年に作家デビューしてますので、作家キャリアを34年とします。その間、リリースされた小説作品を数えると74作品(短編集を1作品とし、上下巻等は1作でカウント)なので、平均年間作品数は<2.27作/年>となります。

 宮部みゆきさん=<2.27作/年>

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 年間2冊以上のペースなので、やっぱ、「多作」って言ってもいいと思うんですよね。
 この宮部さんの数値を参考にすれば、「多作」のラインって、この<2.00作/年>のあたりに引けそうな感じなのです。


 もう一人、キャリア年数は長くないのですが、それを考慮しても作品数が少ないんじゃない? と、私が感じている作家さん、「村上海賊の娘」の和田竜さんも数値化してみます。
 和田さんは、2007年のデビュー後、14年間で4冊の長編しかありません。

 和田竜さん=<0.29作/年>

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 3年に1作ペースには足りない、4年に1作ペースぐらいなんですよね。
 この後、刊行ペースが上がるかもしれませんが、現在の和田竜さんを「寡作」な作家さんとすれば、<0.30作/年>あたりに「寡作」のラインがあるような感じです。


 国内では1年1作以上という方は少なくありませんが、日本で翻訳されるような著名な海外作家さんだと、もう少しゆったりとしたペースです。
 人気シリーズを持っているジェフリー・ディーヴァーやマイクル・コナリー等は例外として、人気作家さんの "平均年間作品数" を挙げてみると

J・K・ローリング=<0.50作/年>

ポール・オースター=<0.48作/年>

カズオ・イシグロ=<0.21作/年>


 どうでしょう、ローリングやオースターみたいな2年に1作ぐらいのペースは標準っぽいのかなって感じです。
 ただ、カズオ・イシグロみたいに5年に1作のペースになると、やっぱ「寡作」な感じがしますね。


 ということで、"平均年間作品数" で言うと

「多作」は<2.00作/年>を超える場合
「寡作」は<0.30作/年>を下回る場合

 ぐらいになるんじゃないですかね。

 自分の感覚だと、2・3年に1作品ぐらいのペースだったら待てるけど、4・5年に1作品のペースになると、ちょっと我慢できないような感じなので、<0.30作/年>というのは、「寡作」のラインとしては悪くないと思うんですがどうでしょう。

 ただ、海外作家のジョン・アーヴィングを調べてると、もうひとつ条件を付け加えたくなったんですよね。
 アーヴィングは、作家キャリア54年に対して邦訳されてる作品が16作品なんで、"平均年間作品数" で言うと<0.29作/年>になるのです。
 数値上は、十分、「寡作」ラインなのですが、"16作品" もあれば、なんか「寡作」って感じでもないんですよね。

 なので、

 全作品数自体も少ないこと

 ということも「寡作」を定義づける要素だと思ったのです。


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 以上の定義を踏まえて、私が、特に「寡作」だと思ってる作家さんを紹介していきます。


(国内作家)

原尞さん=<0.21作/年>

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 大人気ハードボイルド小説、探偵:沢崎シリーズを描き続けている作家さんです。
 1988年にデビューして、これまでの33年間で6冊の長編と1冊の短編集をリリースしています。
※ 原尞さんは2023年5月にご逝去されました。これまでの感謝とともにご冥福をお祈りいたします。

『そして夜は甦る』1988
『私が殺した少女』1989
『天使たちの探偵』1990
『さらば長き眠り』1995
『愚か者死すべし』2004
『それまでの明日』2018


飛浩隆さん=<0.15作/年>

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 数々の賞を受賞して、国内屈指のSF作家である飛浩隆さんなのですが、1982年のデビュー後、これまで39年間で2作の長編と4冊の短編集をリリースしています。

『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I』2002年
『象られた力』2004年
『ラギッド・ガール 廃園の天使II』2006年
『自生の夢』2016年
『ポリフォニック・イリュージョン』2018年
『零號琴』2018年


(海外作家)

トマス・ハリス=<0.13作/年>

 ハンニバル・レクター博士を創造した作家として有名ですが、2019年に13年振りの新作を発表してビックリしました。 
 ハリスは、1975年にデビューし、これまでの46年で、6冊の長編をリリースしてます。

『ブラック・サンデー』1975
『レッド・ドラゴン』1981
『羊たちの沈黙』1988
『ハンニバル』1999
『ハンニバル・ライジング』2006
『カリ・モーラ』2019


テッド・チャン=<0.07作/年>

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 深い、深すぎるSF小説を書く作家さんです。
 1990年に、短編『バビロンの塔』でデビューした後、これまで31年の中で、短編集を2冊リリースしています。

『あなたの人生の物語』2002
『息吹』2019



 いずれも、なかなか「寡作」な作家さんだと思うのですが、どの作家さんも新作が待ち遠しい方たちなのです。
 それにしてもテッド・チャンの<0.07作/年>って数値は低すぎだと思いませんか? 10年に1作のペースも割ってますから💦
 待ってるファンのことも考えて欲しいのですww


 ただ、こうして、あらためて「寡作」の定義を考えてみると、「寡作」と感じられる作家さんは

 新作が待たれている作家であること

 ここが、まず、前提としてあるんでしょうね。うん。


 皆さんが思う「寡作」な作家さんがいたら教えてください!


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