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「Sgt. Pepper's~」のジャケットに出てくる6人の作家(ビートルズと私⑦)

 The Beatles and Me Ⅶ

ビートルズには夢中になる感じではない距離感の私が、ビートルズについてのアレコレを ”note” します!


 ビートルズについて、いろいろ書いてるシリーズなんですが、今回は「音楽カテゴリー」の記事であると同時に、「読書カテゴリー」の記事でもあります。

 そして、今回、テーマとなるのは、こちらのアルバムジャケットです。

「Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band」

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 史上初のコンセプトアルバムと呼ばれた「Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band」は、長らくビートルズの最高傑作として君臨していたアルバムです。
 その内容もさることながら、ピーター・ブレイクとジャン・ハワースの夫妻によるアルバムジャケットも、最高に凝っていて、まさに時代のアイコンと呼ぶべきジャケットとして音楽史に刻まれているのです。

 ジャケットの中央には、架空のバンド ”サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド” に扮したビートルズのメンバーが写っているのですが、周りには、たくさんの有名人が集められています。

 ちなみに判別できる人物はどれくらいいるでしょうか?

 ボブ・ディラン、マリリン・モンロー、マーロン・ブランド、カール・マルクスあたり以外は、誰だろう?って感じじゃありません?(私はそうです。笑)
 ただ、この中には、たくさんの作家や著作家もいたりして、読書好きの私としては、どんな作家がチョイスされてるか、ちょっと気になったりするんですよね..

 今回は、そんな ”気になる作家” について ”note” していこうと思っています。

 ちなみに、紹介する作家は、次の①~⑥の人物なんですが、さて、誰でしょう….

※全ての人物に関する解説ページは、記事の下の方でリンクをはってますので、気になる方は、そちらへどうぞ!



■ ■ ■ 1人目の作家 ■ ■ ■

04エドガー・アラン・ポー

 1人目は最上段の真ん中に位置する髭の人物なんですが、けっこう有名な肖像なんで、ご存知の方もいるかもしれません。
 この人物はミステリ小説の始祖と呼ばれるエドガー・アラン・ポーです。
 そうです。あの ”江戸川コナン” 君の名前の由来となった江戸川乱歩の由来となった、あのエドガー・アラン・ポーです。(しつこい!)

エドガー・アラン・ポー

Edgar Allan Poe
1809.1.19 - 1849.10.7

 エドガー・アラン・ポーはアメリカの小説家です。
 今回、紹介する6人の作家の中では、もっとも古い時代の作家さんなんです。
 いろんな短編小説を残しているのですが、一言で言うなら「ダークな幻想的ゴシック小説」って感じです。
 ホラーチックな『アッシャー家の崩壊』や『黒猫』、世界初のミステリと呼ばれ探偵小説の礎となった『モルグ街の殺人』など、1830年代~40年代という時代に、ホラーやミステリ、SF、ファンタジー小説を残したすごい作家さんなのです。

 ポーについては、いろんな発行者から、いろんな傑作集がリリースされてるんですが、お薦めは、新潮社がテーマ別に編纂した3冊組の短編集です。
 1冊目は ”ゴシック編”、2冊目は ”ミステリ編”、そして3冊目が ”SF&ファンタジー編” としてまとめられています。
 今、読んでも面白い作品が多いので、時空を超えて、ポーの空想力に触れてみてください!



■ ■ ■ 2人目の作家 ■ ■ ■

 さて、2人目は上から2列目に位置し、マーロン・ブランドの上にいる人物なんですが、この方については、名前を知ってる人も少ないかもしれません。
 この人物はオルダス・ハクスリーというイギリス人の作家さんなのです。

オルダス・ハクスリー

Aldous Leonard Huxley
1894.7.26 - 1963.11.22

 オルダス・ハクスリーといえば、1932年に、”自動車王フォードが神として君臨するディストピア小説”「すばらしい新世界」という本も書いてるのですが、何よりも”人の意識の拡張”を研究して1954年に出版された「知覚の扉」という本が有名なんです。

 幻覚剤メスカリンが、かつての幻視者、芸術家たちの経験を蘇らせる。知覚の可能性の探究を通してハクスリーが芸術を、文明の未来を語り、以後のさまざまなニューエイジ運動の火つけ役ともなった名エッセイ。

 けっして読みやすい本ではないのですが、この本はハクスリー自身が被験者となって、幻覚剤であるメスカリンを用いたサイケデリック体験を考察した本なのです。
 否定的な見方をする人もいるでしょうが、高次の ”知覚の扉” を開こうとしたこの体験記は、つまみ読みでも興味深いんです。
 ジム・モリソンのドアーズの由来となった本でもあるんですが、ビートルズの曲を思い浮かべても、かなりの影響が感じられますよね。



■ ■ ■ 3人目の作家 ■ ■ ■

 3人目は、エドガー・アラン・ポーの斜め下に位置して、マリリン・モンローの横にいる人物です。
 この人物はウィリアム・S・バロウズという作家です。

ウィリアム・S・バロウズ

William Seward Burroughs II
1914.2.5 - 1997.8.2

 今回の6人の中では、唯一、ビートルズと同時代を生きたアメリカの小説家で、メンバーとも親交があった人なのです。
 アルバムジャケットの写真はその当時のものなので、私たちにとってはソフト帽をかぶった、この姿の方がしっくりきます。
 アレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックとともに50年代アメリカのビート・ジェネレーションの代表的作家と呼ばれています。

 一応、SF作家ということなんですが、自分はあまりSFとして読んだことがなくて、むしろ「実験小説」という名の方が相応しく感じます。
 バロウズは80年代後期~90年代に日本で再評価された時期があって、自分もけっこう読んでいるのですが、お薦めは非常に悩みます…
 でも、やっぱりアメリカで発禁処分になったという「裸のランチ」が基本ですかね..

 クローネンバーグが映画化したW・バロウズの代表作にして、ケルアックやギンズバーグなどビートニク文学の中でも最高峰作品、待望の文庫化。麻薬中毒の幻覚や混乱した超現実的イメージが全く前衛的な世界へ誘う。

 ウィリアム・S・バロウズの小説では、一度書いた文章をバラバラに切り刻んで、それを適当に繋げ直す「カットアップ」という手法が使われていて、読んでも意味が分からないとこだらけです。笑
 また、とにかく下品な表現が多いのですが、この本は物語として読むのではなく、現代アートとして味わうのが正しいと思います。
 ビートルズの作品にも、逆回転やテープを継ぎ合わせたような実験的な曲がありますが、この時代はそういう流れがあったんですよね。



■ ■ ■ 4人目の作家 ■ ■ ■

 4人目はボブ・ディランの斜め下、マルクスの横にいる人物です。
 この人物は、ジュール・ヴェルヌとともに ”SFの父” と呼ばれるイギリスの作家 H・G・ウェルズです。

H・G・ウェルズ

Herbert George Wells
1866.9.21 - 1946.8.13

 H・G・ウェルズといえば、1895年の「タイム・マシン」や、1898年の「宇宙戦争」など、科学空想小説みたいな本が有名です。
 私の場合、有名作を読んでるだけなのですが、その中では1896年の「モロー博士の島」が好きでした。

 絶海の孤島の秘密を覗き見た青年。
 そこでは消息を断った老天才科学者が、神をも恐れぬ実験を進めていた。獣を改造し、新しい人間を創造するのだ。

 もう、タイトルだけでもゾワゾワするんですが、もともとウェルズ自身、生物学を研究していた人でもあるので、さまざまな動物を知性化する実験を繰り返す博士をノリノリで描いています。



■ ■ ■ 5人目の作家 ■ ■ ■

 さて、5人目は、”ホルンを持ったジョン・レノン” の肩上に位置する人物ですが、この人物はアイルランド出身の詩人、作家、劇作家であるオスカー・ワイルドです。

オスカー・ワイルド

Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde
1854.10.16 - 1900.11.30

 ビートルズの中でも、特にジョン・レノンが敬愛した作家ということが知られていて、ジョンのインタビュー等でも時々登場します。

僕はマーロン・ブロンドになりたい自分と、繊細な詩人、つまりオスカー・ワイルドのようにしなやかで女性的な自分とに引き裂かれていた。

ジョン・レノン 『ダブルファンタジー ジョン&ヨーコ展』より

 多分、もっとも有名なのは、児童小説の「幸福な王子」だと思います。
    また、戯曲「サロメ」も有名なんですが、ここはやっぱり唯一の長編である「ドリアン・グレイの肖像」を紹介したいと思います。

 19世紀末、ロンドン。画家のモデルをつとめるドリアンは、若さと美貌を映した自らの肖像画を見て、自分自身はいつまでも若々しく、年をとるのは絵のほうであってほしいと願う――。
 快楽に耽り悪行に手を染めながらも若さを保ちつづけるドリアンと、かれの魂そのままに次第に恐ろしい醜悪な姿に変貌する肖像画との対比を描く。

 新潮や光文社の版もありますが、自分が読んだのが岩波版なので、こちらを紹介してます。
 耽美的で退廃的と呼ばれる作風は読む人を選びますが、ジョンだけでなく、その後のデヴィッド・ボウイやT・レックスのマーク・ボランら、グラムロックにも大きな影響を与えたといわれる本なのです。



■ ■ ■ 6人目の作家 ■ ■ ■

 最後の6人目は、H・G・ウェルズの下あたり、比較的目立つ感じで配置されてる人物です。
 この人物は、今回、紹介する中では、最も有名な作家さんかもしれないルイス・キャロルです。

ルイス・キャロル

Lewis Carroll
1832.1.27 - 1898.1.14

 ルイス・キャロルといえば「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」の作者として有名ですが、この記事を書くにあたって調べてみると、なんと数学者や写真家の一面もあったみたいです。
 ルイス・キャロルって、偏執的な少女趣味があったことも知られてますが、少女の写真もたくさんあって…    そのイメージがアリスに集約されていったんでしょうね。
 「不思議の国のアリス」等に、どこか怖さを感じるのは、そういうルイス・キャロルの性質が影響してるように思います。

 アリスの迷い込む世界が奇妙過ぎで、たくさんのユニークなキャラクターや言葉遊びなど、大人が読んでも面白いんですよね~。
 この2冊も、ジョン・レノンが偏愛していたことが知られていて、ジョンの書くヘンテコな言葉が出てくる歌詞は、きっとルイス・キャロルの影響だと思うんですよね。


+  +  +  +  +  +


 ということで、「Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band」のアルバムジャケットの人物の中から、6人の作家を並べてみました。
 なんか時代を感じさせると同時に、今でも読めるラインナップだと思いませんか?
 一応、ビートルズの記事なので、その影響が感じられる曲も、最後に紹介しておきます。


 まず1曲目は、1967年のシングル『ハロー・グッドバイ』のB面だった『アイ・アム・ザ・ウォルラス』(「Sgt Pepper’s~」からじゃないんかい!笑)

『アイ・アム・ザ・ウォルラス』

 ジョンの魔術的マジカルな曲の一つですが、タイトルのWalrusセイウチというのは、「鏡の国のアリス」の中の「大工とセイウチ」に由来してます。
 また、歌詞の中では ”eggmenエッグマン”(おそらく”ハンプティダンプティ”)も登場するし、"goo goo g'joob" の部分も言葉遊びっぽいです。
 そういう意味で、この曲はルイス・キャロルの世界に耽溺した曲なのです。
 ちなみに曲の最後らへんにはエドガー・アラン・ポーも登場します。

Semolina pilchard, climbing up the Eiffel Tower.
Elementary penguin singing Hari Krishna.
Man, you should have seen them kicking Edgar Allan Poe.
I am the eggman, They are the eggmen.
I am the walrus, goo goo g'joob goo goo g'joob goo goo g'joob.Goo goo g'joob goo

『アイ・アム・ザ・ウォルラス』の歌詞より


 で、2曲目こそは「Sgt Pepper’s~」から…

『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』

 ビートルズの中でも、その幻惑的なサウンドから、特にサイケデリックな1曲と言われていて、まさに「知覚の扉」を開いた世界のようです。
 幻想的な光景を描いた歌詞は「不思議の国のアリス」に影響を受けたと公言されていて、”marmalade skies(マーマレードの空)” や ”kaleidoscope eyes(万華鏡の瞳)” など、不思議な言葉が並んでいます。

Picture yourself in a boat on a river
With tangerine trees and marmalade skies
Somebody calls you, you answer quite slowly
A girl with kaleidoscope eyes

『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』の歌詞より


 そして最後は、1967年の『ペニー・レイン』との両A面シングルだった『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』を… (本当は「Sgt Pepper’s~」に収録される予定だった曲です。)

『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』

 多くのテイクを重ねたため、多大な時間をかけてレコーディングされた曲で、様々な楽器が登場して、これも幻想的な曲です。
 最終的には、テンポもキーも楽器も違った2つのバージョンをミキシングで繋いだという…  実験的でありながらも奇跡のように美しい曲なんです。
 ”ストロベリー・フィールズ” というのは、ジョンが子どもの頃、家の近所にあった施設の名前で、その庭で遊んだことの思い出を描いた曲なのです。
    難解と言われるジョンの詞は、ルイス・キャロルの影響とされることもありますが、自分的には、むしろオスカー・ワイルドのひねくれたロマンシズムに近いと思っています。

Living in easy with eyes closed
Misunderstanding all you see
It’s getting hard to be someone
But it all works out
It doesn’t matter much to me

『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』の歌詞より

    と、以上、3曲を紹介しました。



 …あ、あれ?
 よく考えたら、全部、ジョンの曲だ




※ ジャケットに登場する全ての人物について解説してくれてるページがありますので、他の人物も気になる方はこちらをどうぞ


<「ビートルズと私」シリーズ>
①ビートルズと私
②「ノルウェイの森」の第十一章を聴く!
③ジョージ・ハリスンを聴いています。
④気になるアルバムランキング
⑤"永遠のポップ・スター" ポール・マッカートニー
⑥近くて遠いジョン・レノン