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日曜日の本棚#27『トータル・リコール』フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫SF)【PKDがSFを物語ることは、哲学を語ること】

毎週日曜日は、読書感想をUPしています。

前回はこちら。

今回は、SF界の巨星、フィリップ・K・ディックの『トータル・リコール』です。タイトルで分かる通り、2度映画化された作品の原作ですが、実は本書は短編集です。なので、『トータル・リコール』もまた短編なのです。
フィリップ・K・ディックについては、前にこちらでも感想を書いています。

作品紹介&収録作品(早川書房HPより)

夜ごと火星に行く夢を見ていたクウェールは、念願の火星旅行を実現しようと、リコール社を訪れるが……。現実と非現実の境界を描いた映画化原作「トータル・リコール」、犯罪予知が可能になった未来を描いたサスペンス「マイノリティ・リポート」(スピルバーグ映画化原作)をはじめ、1953年発表の本邦初訳作「ミスター・スペースシップ」に、「非(ナル)O」「フード・メーカー」の短篇集初収録作ほか、全10篇を収録した傑作選。
[収録作品]
「トータル・リコール」「出口はどこかへの入口」
「地球防衛軍」「訪問者」
「世界をわが手に」「ミスター・スペースシップ」
「非(ナル)O」「フード・メーカー」
「吊されたよそ者」「マイノリティ・リポート」

所感

◆SF界の巨人は、死してなお、PKDのコードで読者と通じ合う

フィリップ・K・ディックは、熱狂的な読者を持ち、マニアの境地に至る人たちは、彼のことをPKDと呼ぶのだとか。マニアには遠く及ばないものの、今回、フィリップ・K・ディックに魅せられた私は、もはや次は何を読もうかと考えている。1982年に没した、SF界の巨人は、私のような新しい読者を創造しつづけている。PKDは、彼とのアクセス・コードのようなものだと感じる。

◆哲学を語るSF

彼の魅力は、SFを通じて哲学を語ることだろう。『アンドロイドは、電気羊の夢を見るか?』は、優れたサスペンスであったがゆえに、彼の哲学性に注意が向かなったが、本短編集では、それを強く痛感する。

◆2大作品は、珠玉の出来。

映画の原作となった、『トータル・リコール』、『マイノリティ・リポート』は、珠玉の出来だ。前者は人間の欲望に絡む資本主義という側面でみると、どこか物悲しい作品ともいえる。メタバースにもともとそこまでの期待がない理由が分かった気がする。Facebook改め、Metaは、巨大な資本力を持ってリコール社を目指しているように見える。ザッカーバーグの読みは正しかったのだろうか。
一方、後者は未来予想好きとしては、楽しく読めた作品。自分の未来を断言されるというのは、どういう感じなのだろうか。最後にタイトルの意味が分かる構成になっているが、そのようなディックの演出力も魅力的である。

◆お気に入りは、・・・

一番の良かったと感じたのは、「フード・メーカー」。フードは、foodではなく、hoodの方。テクノロジーによって、人間の内面を「スキャン」することが可能になった未来。これを妨害するフード(頭環)が突然送り付けられる・・・。
浄化局という役所名からもディストピア感が漂う。
テクノロジーと権力については、SFの方がそのリアルがよく理解できるというのは、いつの時代も変わらないものだと実感する。

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