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問いを深めるための特別講義 「コミュニティ」×「IKEUCHI」 Social Mirai Design 2021(3期) 第6回

SMD2021の中で初めての取り組みとして、参加者のリクエストから選出したテーマに合わせたゲストに話を伺う取り組み。
今回の特別ゲストは、多くのファンとのコミュニケーションやイベントを展開している、今治タオルのIKEUCHI ORGANIC 株式会社、池内計司さんに、ものづくりとコミュニケーションについて伺いました。
(IKEUCHI ORGANICのロゴがあしらわれている背景画像は、同じ愛媛出身の企業である「サイボウズ」で講演する際に特別に作ってもらったものを使い続けているそうです)

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池内さんのベースはTechnics(テクニクス)での ものづくり

池内さんのお話は、仕事に対する姿勢やノウハウ蓄積に繋がる、前職の経験から始まりました。
大学卒業後、松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社)に入社し、Technicsという音響機器向けのブランドの普及に尽力。池内さん自身がビートルズ大好き、オーディオマニア。大大切望が叶って、ステレオ事業部担当になったそうです。
ちなみに当時、ステレオ事業部門は社内で人気ワーストだったとのこと。やる気にあふれた池内さんは、部門からもぜひにと乞われたのではないでしょうか。

オーディオは、電化製品ですが嗜好品。その人気奪取には1)著名な評論家による評価 2)オーディオ専門誌の評価 3)マニアの会 が重要ということで、池内さんはそれらに対するアプローチ活動をしておられました。

当時、テクニクスブランドへの評価は決して高くはなく、音響の評論家などからは「釜をつくっているところでいい音だせる品ができるわけがない」のように言われることもあったようです。
(実際にはそんなことがないのに、イメージで伝えられていた)

それらに対して、池内さんはそのような評価をする方に直接会いに行って、真摯なコミュニケーションで機器のよさを伝えていかれたそうです。特に言及されませんでしたが、その当時の活動から池内さんの外への情報発信力、コミュニケーション力は培われていたのではないでしょうか?

Technicsでモノづくりにおけるモットーとして「論理的な裏付け」を持ち、「しっかりつくる」ことを体感・経験されました。そして結果的に「ストーリー」になっていく。伝える内容が生まれる「ものづくり」と、「伝えるブランディング」の経験が、池内タオルに戻ってから生きているそうです。

池内さん、Technics時代の経験は下記のリンクからも見ることが出来ます。
イケウチとオーガニックの20年間。
 (「IKEUCHI ORGANIC 公式note」2019年5月17日)
『ストーリーを売る』への僕の違和感
 (「IKEUCHI ORGANIC 公式note」2019年7月19日)

※先代の父親が亡くなられ突然2代目になったいきさつの話は、生き方、家族と「今できることは今しよう」、という重要性も伝えておられます。

その後、社内でいろいろあった末、松下を退社し、ご実家の池内タオルを継ぐことに。
当時はデザイナーズブランドを作る時代でした。いかに良いブランドをキャッチするかが、タオル会社の実力のようなところがありました。一方、池内タオルは海外向け輸出専業企業でしたが、オイルショックを境に国内向け商品にシフトしようとしていました。成り立ちが輸出専業でしたので国内競争に強くはなく、加えて海外からの格安工場で製造された輸入品との競合にさらされ、生き残りの道を模索していました。

OEM生産を続けながら、新しい軸を手に入れる

池内タオルはジャガード織りの高い技術を持っていたことで、高いデザイン性を生かしたハンカチタオルとOEM生産で生き延びてはいましたが、それだけでは会社の発展は難しい。。
池内さんは、タオル組合で販売や広報の責任者もしていたことから、1999年のしまなみ海道の開通に合わせて今治がタオルの街であることをPRする旗振り役として、顧客とのコミュニケーションに繋がる、ブランド構築が必要を感じていました。
ではどんなブランドにする?
池内さんがご自身を表現する言葉のひとつに、「私はとにかく新しもの好き」。1989年に生まれたエコマークをいち早く取得し、環境配慮型商品に向かおうとしました。
 工場が面している瀬戸内海は、瀬戸内海環境保全特別措置法によって世界的にも非常に排水基準が厳しいエリアでした。この規制に応えるために、池内タオルを含め今治企業7社で排水処理施設を建設。染色工場からの排水は「海の水より透き通っている」とまで言われ、その評判を聞いたデンマークのノボテックス社の社長、ライフ・ノルガードさんが今治を訪れました。

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「オーガニック120」を通じて、世界でいちばん安全なタオルを目指す

池内さんは、これから価格競争ではなく、本物のエコ商品とは何か、学び、新たなコンセプトを立てるため、最大限の安全と最小限の環境負荷を追求したタオル「オーガニック120」を1999年の第1回今治タオルフェアで発表しました。

世界的な認証機関が認定した綿花、糸を紡ぐ紡績工場も認定紡績工場からのオーガニック・ヤーンを使用したもので、こだわりぬいたタオルの値段は3,200円と高く(当時、百貨店のバスタオルの平均価格が2,000円~2,500円)その理由も価値も伝えきれていませんでした。

そこでネットの通販モールへ出店したり、自社サイトで販売したり、新たな販路を立ち上げようとしていました。(もともと国内に卸している数が少なかったので、卸会社からの反発はほとんどなかったとのこと)

イケウチとオーガニックの20年間。
 (「IKEUCHI ORGANIC 公式note」2019年5月17日)

ブランドを構築にむけて、タオルの需要が異なる海外に販路を拡大

高価格の意味・理由を伝え、ブランド構築が欠かせないと考えていました。ブランドとして認識されるために、先に海外で認められることで、逆輸入の形で国内ブランドが立ち上がると計画して、海外販売を視野に展示会出展を試みました。
そこで気づいたのは日本の贈答品需要とは異なること。海外ではタオルは自分で買うし、バスルームにあわない派手なデザインは受け入れられません。残念ながら池内タオルの得意分野、ジャガード織の技術は生かせず、タオルの風合いで勝負しないといけません。
池内さんは展示会での反応、売れ行きを製品づくりに反映させ、オーガニック120を洗練させていきました。「IKT」という名前でオーガニック120はひろがり始めました。

自社ブランド確立か、思った矢先の民事再生
届けられたIKTファンからの声

オーガニック120のこだわりは、織機が使用する電力もグリーン化に取り組みました。2002年から100%風力発電による電力を使用することで「風が織るタオル」という分かりやすくキャッチーなコミュニケーションが可能になりました。

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海外から高い商品評価も得ることができ引き合いが増え、国内マスコミにも取り上げられ国内でも引き合いが増えてきました。IKTはブランドとして独り立ちできるのではないかと、期待に胸膨らませていたタイミングで、一番の取引先が破綻。
池内さんたちはIKTを諦めてOEM生産一本で融資を受けながら生き延びるか、民事再生法の適用を受けてIKTに絞って再スタートを切るか。その場合は当然、人員整理など大きな痛みを伴う改革も必要です。
そのとき池内さんたちを後押ししたのは、ファンたちからの応援メッセージ。「タオルを何枚買えば池内タオルは存続できるますか?」といった声もあったそうです。

コンセプトを育てるコミュニケーション
「IKEUCHI ORGANIC」誕生

たくさんの応援、投資により企業再生が進みます。そんな中、
・ブランド名: IKT
・会社名  : 池内タオル
・顧客からの愛称: 風で織るタオル
と呼び名が混在している状態でした。
2013年の創業60周年を機にブランドとしては統合が出来ないかと考え、ナガオカケンメイさんに依頼して、2014年に「IKEUCHI ORGANIC」社名を変更しました。

社名にオーガニックが入ったことで、オーガニックの割合を100%にする決意ができたことである。その結果、今治タオルの産地ブランドは使わないことになりました。社名で市民と対話し、約束をしている決意。
企業が顧客と対話する、最初の一言は社名ですね!
イケウチオーガニックはその名前どおり多くのことを実行していきます。
一例として
〇契約農家から70%以上を買取るという安定契約をはじめ、教育事業など産地の地域貢献にも寄与
〇「赤ちゃんが食べられる」という次の目標を自ら設定
 (赤ちゃんはタオルを口にもっていくことから)
 2015年に、食品工場に対するISO22000を取得して、製品にトレーサビリティQRコードを添付
○ボジョレーヌーボーならぬ「コットンヌーボー」を提唱。自然風合いを楽しむ視点で提案していますが、自然は毎年変化するもの。なので単一年からの綿でつくるのではなく、3年位混ぜてつくる手法を考案

「イケウチの人」と「イケウチな人」

現在、IKEUCHI ORGANICはさまざまな接点を持って、顧客≒市民→社会と対話しています。自社メディアを持ち
イケウチをつくる人(イケウチの人)による仕事事を通した製品の話
・イケウチのファン(イケウチな人)の生活を通した製品の話
を届けています。

それはIKEUCHI ORGANICの文化をつくっているように感じました。それがひとつのコミュニティだったりするのかも?

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※上記:『ファンベースな人たち』(佐藤尚之、津田匡保著、日経BP、2020年)に掲載されている会社の事例から、事務局の丸毛が独自の読書会などを踏まえて編集した編集より

イケウチのヒト
イケウチな人たち。

みんなで育てる「IKEUCHI ORGANIC」

「なぜデザイナーズブランドよりも高いのか」という疑問に真摯に答え続けてきたIKEUCHI ORGANIC。
店舗を構えてからは、店内で説明会を始めました。コロナ前の2019年、京都ストアでは13回説明会、実施(平均したら月1回以上!)営業時間終了後、1時間半かけてお客さんに説明する時間は、IKEUCHIファンにとってもIKEUCHI ORGANICにとってもお互いを知る、信頼を育む大切な時間になっているのではないでしょうか。コロナ禍の現在は、オンラインで続けています。

コミュニケーションの始まりである「発信」に、 IKEUCHI ORGANIC は労を惜しみません。最初は池内さん自身がブログ、Facebook、Twitterで届けていましたが、もっと多角的に伝えようと、現在は社員がそれぞれ発信。オウンドメディアの「イケウチの人」を通じて、ものづくりに対する考え方を伝えています。

常に人が介在してファンになっていただき、ファンが新たなファンを紹介してくれ、 IKEUCHI ORGANICはブランドとして成長。そんなファンが今社員になってきており、社員の半数程度は愛媛県外から転職してきたファン。
(京都ストアの店長の益田さんも、ファンから社員になった当人)

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わたしとイケウチ。 (ストアマネージャー 兼 京都ストア店長・益田 晴子)
(「IKEUCHI ORGANIC 公式note」2018年12月5日)

9月13日(SMDの開催日翌日)が京都ストア7周年記念ということもあり、特別に益田さんを含めて、参加者の質問にお答えいただきました
(下記、質疑応答の一部)。

池内さんQA

SMDのインプットの最後として、会社が取り上げられている書籍のタイトルでもある「ファンをベースにしたコミュニティ」の実践を伺うことが出来ました。
さぁ、いよいよ次回9月26日は最終回。個々人が問いを立てた内容から、どんな探求が進んだのかを発表・双方のフィードバックを行います。

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