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アラフィフからのアイドリッシュセブン25「先輩」

先輩という存在

アイナナを楽しんでいらっしゃる方は年齢的にはどの辺りが最年長になるだろう。
親子で楽しんでいらっしゃるという話も聞くので私のような中高年の存在はそんなに珍しい話ではないのかもしれない。

私のような親世代の者がここに書いているのはこの物語に共感できるからであり、
この歳でアイナナに触れられたからこそ見えてくるもの、感じられるものがあって良かったと心底思っているからだ。


アイナナはグループ4組16人の群像劇で、年齢的には26歳から17歳までいる。平均年齢は20歳くらい。
歳は取らない設定。
アイドルの高年齢化というか、年齢でアイドルの寿命は決まらなくなった現代だけれど、アイドルと言って何となく納得するのはこの年代だと思う。

彼らは先輩後輩の区別が割と厳しい。

1年でも先にデビューしていれば先輩グループだし、先に生まれている者には目上として呼び方も変えている者は多い。
年齢で飲酒や男女交際の制限もあることから、成年未成年を自称などして見ているファンやマネージャーにも自覚させるようにしているように思う。

(ただ、呼び方は色々で、17歳18歳の者を見ても、
誰にでもさん付けのIDOLiSH7和泉一織、あだ名で呼ぶ四葉環、同グループの未成年までは呼び捨てで他にはさん付けの七瀬陸、他グループの人間は敬称なしのフルネーム呼びというTRIGGERの九条天もいるので、それぞれの人の名前の呼び方もまとめると面白いと思う。)

なんとなくだが、先輩後輩を重んじるのは男性ならではという気はする。
自分は女性だから思うのだが、女性はライブイベントで働き方を変えるのが珍しくなく、終身雇用で同じ会社に勤務することは多いとは言えない。人間関係では年齢の上下や勤務年数で敬うというよりは、どれだけ仲良くなるかが何より大切なところがある。
だから、女性からは、男性のそんな素振りは心をかなり律したものに見える。

実際アイナナでは同年齢には気兼ねなく話もするが、基本的には上下関係を大切にしているので、気さくさよりは上から下への配慮で動いているようだ。

先輩のRe:valeの2人は後輩のために下へ下りていくことが出来る柔軟性があり、TRIGGERは仕事の完璧を目指す精神を示せる存在。それに甘えていくIDOLiSH7と反抗心を持ちながら関係を徐々に結ぼうとするŹOOĻ、という配置。

人生を長く生きて来た人間の中には、自分を犠牲にして人に尽くす者や逆にふんぞり返るような輩も居るが、助けるのが趣味、と言い合える軽さや風通しの良さを持っていて見てて清々しいと思う。


Re:valeの場合

ストーリー第2部とアニナナ2期で描かれたのは、「アイドルを苦しめるのはいつだって好きの感情」というセリフで現された苦悩だ。

このセリフは、今は賞レースを総なめにし、芸能界の王者として君臨するRe:valeの百からもたらされる。
頂点に上り詰めた彼らにさえそれまでの苦しみがあった。
仕事の出来で悩み、ファンからの言葉で落ち込み、メンバー個人の問題が立ち塞がり、メンバー同士のスタンスの違いが表面化する。

それは、お互いの「好き」が交差しているからだ。皆が自分の、相手の好きなものを大事にしたい。しかし、表し方は人それぞれだし、それを否定して自分を通す訳にはいかない。

その言葉の通り、IDOLiSH7のメンバーはもれなくその複雑な感情に飲み込まれていく。
当のRe:valeの2人もお互いに放った言葉に囚われ、問題が再燃して苦悩していく。

(根本の問題に手をつけない限りそれは形を変えて自分に降りかかってくるもので、どうしようもなくなった時点で人は動かざるを得なくなる。)

優しい世界を取り戻せ

自分の苦労を人に繰り返させたいかと言われれば、恐らく否だ。己の苦労を労り守りながら、それでも人を癒すのは辞められない。

アイドリッシュセブンはしんどい物語だが、本当は優しい世界なのだ。
本当は存在するのに、別れや手放し、与えられなかったもののせいで優しく見えない世界。
それを自分に取り戻す物語。
起きることは避けられない。それは時に人生をも変えてしまう出来事だ。
しかしそれを乗り越える力をお互いに与え続ける。

自分だって完璧ではない。しかし、人に直接語りかけ、時には見守ることは出来る。
こんな自分でもやれる事はたくさんある。
それに気付いていく物語だ。
そしてそれは先輩たち率先して気付きを与えてくれてもたらされるものでもあるのだ。

やれることをやるだけ

私たちの多くにとってアイドル(アーティストでも役者でも)は実際は画面越しや紙面、webを通して見るだけの存在。
ステージの上の姿を見ることが出来ても、距離があるのには違いない。
好きがあるから嫌いが生まれる。
近くに居てもその嫌いを消せないかもしれないのに、距離があれば余計にその心理は深くなる。
それでもその距離を縮めようとしてくれるのがアイドルという存在なのだろう。

そしてその彼ら彼女たちも、今の姿を永遠に見せていくことはできない。

私たち世代はそんな流れをたくさん見てきた。その度に寂しく思い、その度に残念に思い、時にはブーイングも浴びせて来た聴衆の中に自分たちもいた。

やがて、
ひとりひとりがやれる事は思ったより少なくて、
もしかしたら人の感情をせき止めるような影響力を持つことはできないかもしれない。
だからこそ、やれる事をきちんとするだけ。
と気がつくようになる。

画面の向こうのアイドルたちは、それを実践しているのだと感じられる。

百に大切な言葉を託されたマネージャーの紡は、大切な時にIDOLiSH7のメンバーを鼓舞する。TRIGGERは直接言葉をなげかける。
そしてRe:valeの2人は、自らの弱さをさらけ出し、他の者の力を借りながら乗り越えて行き、背中を見せていくことで感謝や導きを示す。

それぞれ、出来ること、表現の仕方に違いはあれど、やれることをやっているだけだ。

人は施しを受けてもすぐには動けないし、心もついて行かないことが多い。

ただ、人への作用は確実になされているのだ。

その過程を丹念に描いているからこそアイドリッシュセブンのメンバーやスタッフに共感し、リアルを感じられるのだと思う。
そして、優しい世界を取り戻せるかもしれない、という期待を抱くことも出来る。

人との距離を取るのが下手だった自分は、世界にはトゲがあると思っていた。
人に委ねることを覚えてからは、なんとなくトゲが丸くなっているように見えて来たように思う。

人生の先輩と呼ばれる立場になって来た。
後輩には堂々と、楽な生き方を示そうと思っている。


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