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夜逃げに至る失態(モラトリアム期間3)

ブランド品の卸小売業者の我が家がお客様へ直営店で買うよりは少しだけ安く販売して節約に喜んで頂く。そうして僅かばかりの利益の積み重ねを大きくし私の生活が成り立っているつもりだった。

実際には、言葉を悪くすると、いや、その通りなのだがブランド品の偽物をお客様に本物を思わせて、騙して不当に高額な利益を多く積み重ねて我が家は他のお客様よりも恵まれた生活を謳歌する。

恥ずかしかった、情けなかった。嘘から産まれた存在のように思えてしまった。まだヤクザとして銀座のクラブ一帯の用心棒でやっている仕事のほうが全然綺麗に思えたほどだ。世界に対して申し訳ない気持ちで一杯だ。今でも正直そう思っている。

スーパーコピー品と聞いて私は怒り混じりに父に夜逃げに至ってしまった背景を聞いた。もう全てを話してくれ、今は母も弟もいない。父はまるで被害者のような口調で教えてくれた。
「テレビで有名な城南電気の宮地社長に一杯喰わされた。大口の現金取引のため、ヤバイ筋から大金を借りてでも大量の仕入れを行い卸した。コピーとバレてしまい支払いがなされず商品も返してくれないので負債のみが膨らんだ」

偽物を売る嘘付きの父が発する内容のそこには嘘がないようにスッと腹に落ちた。商品だけでも返品してくれれば他に卸すなり店で売るなり再起は出来るのだろうが、偽物だけに司法に頼るわけにもいかず完全に泣き寝入りの詰みの状態なのだ。商売が魑魅魍魎の世界ように恐ろしいと震えたのは父から無料で手に入れたコピー品を丸儲けで売っている城南電気だ。これが商売なのか?きっとどこか間違っている。しかしもう声高に言える身分でもないことも知った、詐欺師が詐欺師に騙されて誰に泣きつこうというのだ。

そこから不渡りだの、債権者だの聞くのだがもうどうでもよくなった。復活の狼煙はないのだ。終わりをどう迎えていくのしか頭になかった。「捨てられるのか」それとも「一家心中」なのか、または私の知らない父のマジックがあるのか。目を見ると父の目はまだ死んでいない、それを信じるしかなかった。

夜逃げして20日目ぐらいか、父から新しく店を出すからそこの店番をするように指示を受ける。綺麗に生きていくことは諦めた、生きるために黒に染まることに覚悟を決めた。医師や弁護士を目指していた私の心の中で何かが割れた音がしたような気がする。最低と知った上で最低なことをしていくには腹を括ることが肝要と知る。

※倒産している会社と故人のため社名を上げさせて頂いております、悪しからず。


次回 夜逃げ中の商売

メンヘラで引きこもり生活困窮者です、生活保護を申請中です。ガスも止めてスポーツジムで最低限の筋トレとお風呂生活をしています。少しでも食費の足しにしたいのが本音です。生恥を重ねるようで情けないのですがお慰みを切にお願いします。