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諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド③

前回、各国で進む「インダストリー4.0」への対応が加速する「5つの理由」を紹介させて頂きました。また、同時並行的に「インダストリー5.0」への動きも加速しているのも事実です。

さらに、日本の製造業における「インダストリー4.0」の担う役割として、「インダストリー5.0」に向けて、海外と日本の技術的、思考的なギャップを埋めることである旨をご紹介させて頂きました。

このような状況に中、今回の投稿では、「インダストー5.0」に向けて「インダストリー4.0」への対応が、今後の競争力を占う上でいかに重要かをご説明させて頂きます。

※ 前回の記事をご覧になりたい方は、こちらをご覧ください。
諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド①
諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド②

インダストリー4.0への対応が、競争力を占う上で重要な課題

経済産業省の2019年版ものづくり白書によると、2017年の諸外国のGDPに占める製造業の割合で、ドイツが24%、米国が11%、日本が22%となっており、中国は40%であった。日本はドイツと並んで高い水準であり、製造業での付加価値を高めることが経済成長につながる構図がうかがえます。

一方で、各国の実質GDPベースによる付加価値では、ドイツが3兆8,839億ドル(世界に占める割合は4.9%)、米国が17兆3,486億ドル(同21.8%)、日本が6兆1,577億ドル(同7.7%)となり、中国が10兆1,589億ドル(同12.8%)となっている。ものづくり大国と呼ばれるドイツや日本の付加価値は、米国や中国と比較すると低くなっており、「インダストリー4.0」への対応が両国の2030年代以降の競争力を占う上で、重要な課題であることがわかります。

以下では、世界全体での「インダストリー4.0」の進捗状況を概観します。

1.グローバル・ライト・ハウス(灯台)の地域分布

製造業における先進性を評価する軸として、しばしば用いられるのが、「グローバル・ライト・ハウス」(灯台)として認定される手本となるような最先端工場の数です。世界経済フォーラムでは、2023年1月時点で合計132の工場を選出しています。

選出されている工場の取り組みとして、共通していることは、デジタル技術を活用することによる、企業の壁を越えたサプライチェーン全体の最適化を通じて、生産性の向上、市場ニーズをとらえた柔軟な製品、エネルギー効率性の向上と温室効果ガス排出量の削減などを実現している点にあります。

このように製造業における先進性の評価軸としては、経済的効率性だけではなく、DXやGXといった全体最適性を実現する能力を重視する国際的な潮流を認識し、DXやGXによる全体最適化の実現に取り組む必要があります。

2.開発委託(ESO)や製造受託(EMS)の世界的トレンド

世界で進む企業の壁を越えたサプライチェーン全体の最適化を支える仕組みとして重要なのが、開発委託(ESO)と製造受託(EMS)というサービスです。

ESOは設計、試作、システム統合、テストといった製品開発業務全体を一括で請け負うサービスで、欧米のグローバル企業では一般化しています。設計段階では大量のデジタルデータを活用してエンジニアリングを行います。委託を行う企業のメリットとしては、設計・開発コストの圧縮やリードタイムの短縮などがあります。ESO市場は2021年から2026年の5年間で年率平均22%の成長が見込まれています。

EMSは、従来からの下請けの仕組みであるOEMやODMとは異なり、受託会社はひとつの工場で複数の企業の受託生産を行います。また自ら開発・設計を行い、複数社との契約に基づいた大量ロット生産を行います。特にエレクトロニクス分野では、トレンドの移り変わりが早く、製造工程も迅速な設備投資が求められています。委託会社は、EMSの仕組みを利用することで、最新の製品を低リスクかつ低価格で調達することができます。EMS業界の市場規模は年々増加しており、2024年までに1兆4,000億ドルに達すると見込まれています。

ESOとEMSともに、デジタルデータとIT技術をフルに活用して、企業間の連携でサプライチェーンの最適化を図る試みです。小宮昌人氏の製造業プラットフォーム戦略によると、ESOやEMSなどの外部企業を活用することによって、ものづくりの80%の部分は可能であると指摘しています。つまり、多くの企業が長期間にわたり蓄積してきた技術、設備、人的資本、ノウハウなどを持たない企業でも、外注を活用することで一定の品質の製品が作れてしまうということです。それだけ製造業技術のサービス化が進んでいる証左と考えられます。

残り20%は、ものづくりを行ってきた企業が持つ、暗黙知となっている技術やノウハウになります。これらをデジタル化したデータを活用していくことが、日本の製造業が世界をリードする上で鍵となるでしょう。
(山縣敬子・山縣信一)

いかがでしたでしょうか?

これまで3回に分けて「インダストリー5.0」に向けての「諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド」をご紹介させて頂きました。
一方で、Japan as No.1とされてきた日本の「ものづくり」が近年地位を失いつつあります。次回は、「ものづくり」先進国の地位を失いつつある日本の原因について投稿させて頂きます。

「日本の製造業の歴史を紐解いてみる」に続く

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