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「Next Industry 4.0」に向けて動き出した世界の潮流

■インダストリー4.0からインダストリー5.0へ

2011年にドイツから始まったインダストリー4.0(第四次産業革命)は、
インダストリー3.0に続く製造業の国家戦略プロジェクトとして
世界各国で提唱され、
-「相互運用性」
-「情報の透明性」
-「技術的アシスト」
-「分散的意思決定」
という4つの設計原則に基づき、主な目標として、
- 製造プロセスのデータ化、
- 工場の完全自動化、
- 人手不足の解消を
目的に各国で取り組みが進められてきました。

そのインダストリー4.0の提唱から10年以上が経過した今、
新たにNext Industry 4.0、つまり次世代インダストリー4.0として
「インダストリー5.0」に向かう動きが始まろうとしています。

インダストリー4.0ではデジタル化とネットワーク化によってIoT(インターネット・オブ・シングス)やAI(人工知能)などの技術を活用して、製造ラインを自動化するスマートファクトリーを構築するといった、産業構造を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)が重点とされてきました。

それらの取り組みは技術中心に効率重視の方向で、
各企業によって個別に進められていましたが、パンデミックや社会紛争といった予測不能の事態が次々に生じたことによって、柔軟な対応やカスタマイズが難しいという課題が浮き彫りとなりました。

そこで、「人間を中心とした産業のあり方を考える」ことを最大のコンセプトとして位置づけ、環境や社会の変化にも対応できる持続可能性のある産業のカタチとして「インダストリー5.0」が新たに提唱され始めているのです。

■インダストリー5.0は「人間中心」が最大のコンセプト

インダストリー5.0でも引き続き先端技術を活用したDXは行われますが、技術の進化と共にその内容は発展しています。方向性としては、業種を超えたサプライチェーンの構築や新たな産業プラットフォームを築くことで、安定した供給や市場の確保による高い競争力を持ったエコシステムの形成を目指すなど、市場の最適化によって産業全体の成長につなげていこうとする動きになります。

出典)インダストリー4.0からインダストリー5.0へ

インダストリー5.0という言葉を最初に提唱したのは欧州委員会で、2021年1月に「Industry5.0」を発表し、そこでは「人間中心(ヒューマンセントリック)」「持続可能性(サスティナブル)」「柔軟性と回復力(レジリエント)」の3つがキーコンセプトに掲げられています。

中でも重視されているのが、技術革新は人々の価値を重視し、利益を最大化することで生活をより良くするためのものであるとする「人間中心」の考え方です。

インダストリー4.0では効率化を重視するあまりに過剰な自動化も取り入れようという考え方だったのに対し、インダストリー5.0は人間の創造力や能力に価値を求め、その上で最先端技術を融合させることで社会全体を活性化しようとしていると言えます。

■世界各国の動き

インダストリー5.0につながる最初の動きがあったのはやはりドイツで、2019年に開催された国際見本市「ハノーヴァーメッセ」において「2030 Vision for Industrie 4.0」が発表されました。

そこでは
「自律性(Autonomy)」
「相互運用性(Interoperability)」
「持続可能性(Sustainability)」が
重要コンセプトとして提唱され、その後に続くNext Industry 4.0の流れにも大きな影響を与えています。

さらにドイツは翌年の2020年に 「Sustainable production: actively shaping the ecological transformation with Indsutrie 4.0(持続可能な生産:インダストリー4.0によるエコロジカル・トランスフォーメーションの積極的形成)」を発表しています。

内容は
-「消費を減らしてインパクトを増やす」
-「大量生産から透明性のあるサービス提供へ」
-「循環型経済システムにおける連携」といった、
これまでの消費社会のあり方を見直そうというもので、そこからインダストリー5.0のコンセプトである「人間中心」という発想へとつながっていったと考えられます。

ドイツや欧州の次ぎにインダストリー5.0に着目したのは米国で、スマートマニュファクチャアリングの推進機関として様々な取り組みを進める国立研究所の米国CESMII(the Smart Manufacturing Institute)は2021年4月、ドイツで同じくスマートマニュファクチャアリングの推進機関であるPlatform Industry 4.0「Sustainable Manufacturing(環境・気候変動に対応した持続可能な製造)」 の領域で連携することを発表しています。

主な活動としては、主要タスクの達成において、データ共有の仕組みを整備したり、労働者のスキルを向上させるなど、いろいろな取り組みを開始しています。

またCESMIIは2021年10月13日、日本のロボット革命・産業IoT イニシアティブ協議会(RRI)と「製造業の未来」をテーマに連携協力することで合意したことも発表しています。

ここでは、インダストリー4.0で大きな課題であったシステムの複雑性やデジタル技術の課題を乗り越え、米国製造業の生産性向上につなげる活動をしていくとしています。

中国において製造業に関する政策としては、習近平政権が2015年5月にスマートマニュファクチャアリングの政策ビジョン「中国製造2025」を発表しています。その内容は2025年までに製造強国へ仲間入りし、2035年までには世界製造強国の中等水準に達することを目指すもので、中華人民共和国成立から100周年を迎える2049年までに製造強国のトップになるという計画が立てられています。

インダストリー4.0とはやや異なるものの政策に力を入れる方向は似ており、始めの動きとしては、次世代情報技術や新エネルギー自動車開発などを重点とする10分野に対して巨額の助成金を投入することでスマート化やDX化を進めています。

パンデミックや米中対立といった様々な要因による軌道修正はしつつも、計画は当初のまま継続されており、まもなく最初の2025年を迎えた後にインダストリー5.0に向けた変革を行うのかが注目されています。

■先行する日本の「Society5.0(ソサエティ5.0)」

日本においてインダストリー4.0は、2017年3月にドイツで開催された情報通信見本市「CeBIT(セビット)」で日本政府が提唱した「Connected Industries (コネクテッド・インダストリーズ)」という概念に基づいて推進されてきました。

また、インダストリー4.0による技術革新を踏まえ、将来的に目指す未来社会として「Society5.0(ソサエティ5.0)」の実現が目標の一つとされています。

ソサエティ5.0とは、
- 狩猟社会(Society 1.0)、
- 農耕社会(Society 2.0)、
- 工業社会(Society 3.0)、
- 情報社会(Society 4.0)に続く、
新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されています。

出典)内閣府Society 5.0より

ソサエティ5.0では、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有されることで今までにない新たな価値を生み出し、課題解決へとつながる社会の実現を目指します。

AIやロボティクスなどの先端技術により社会の変革をうながし、世代を超えて互いに尊重しあい、一人一人が快適で活躍できる希望の持てる社会を目指すことが提唱されています。

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)の構築を目指すという概念はインダストリー5.0とよく似ており、実際にドイツもNext Industry 4.0の提唱において日本のソサエティ5.0を参考にしたとも言われています。

また、災害が多い日本ではレジリエントの考えが製造業の中でも当たり前のように取り入れられており、SDGs活動も早くから浸透しています。

つまり日本はすでにインダストリー5.0に向けて動き始めており、そうした日本の動きに世界が注目し、日本のものづくりが再び脚光を浴びる可能性が出てきました。

そうした中、インダストリー5.0をテーマに日本で開催される「SMART MANUFACTURING SUMMIT BY GLOBAL INDUSTRIE」は、製造業関係者にとって最新情報やトレンドを知る絶好の機会であり、ぜひとも注目しておきたい展示会だと言えるでしょう。(野々下裕子)

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

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