ペダルコンプ for bassists リミッターとは

これまでにあまり書いてないことを今日は話します。というかスレッショルドとトーンについて語ったからレシオかなと。ペダルコンプはサステイナーと呼ばれるけれど、もう一つ、リミッターという呼称もあります。コンプレッサーとリミッターは原理は一緒ですが役割の違いに伴い、パラメータセッティングが変わってきます。それがレシオです。

入力の増加に伴い、圧縮する、つまり音量を下げる割合の設定です。スレッショルドまで入力と同じリニアな出力があり、それを超えた時に、入力の増加分の何割が出力に反映されるか、それが圧縮比として示されるのです。

レシオノブの設定範囲は設計者の任意ですが、全ての動作を網羅するならば1:1から∞:1となります。1:1ならばスレッショルドを超えてもリニアに出力があり、動作点を超えているのに動作していない状態です。比率が高まるにつれ、出音の音量が抑えられていくので∞:1となったときは、それ以上の音量にならなくなります。ですから1:1はある意味クリーンブースター(メイクアップボリュームでブーストできるから)であり、∞:1をリミッターと呼びます。機種のジャンルとして、コンプ・リミッターと言っていたのは、同じ機材でも用途によってセッティングが異なることを含んでいるためです。

リミッターが必要なのは、録音の現場がまず考えられます。昔はアナログテープに録音してて、そこに収めることのできる信号が小さかったから、楽器音がそれを超えないために制限を掛けていた、そのためのツールでした。デジタルとなってもレベル制限は依然としてありますが、まずテープの場合再生する際に無録音状態であっても既にノイズが乗っており、SN比が相当悪かったのです。大音量のマージンをとって低入力でテープに入れてしまうと、再生時にノイズが耳に付くのです。ノイズ成分をマスキングするためにも大入力でいれたい、しかしピーク時に破綻するのを防ぐため、予め大きい音を自動的に抑える装置が必要だったというわけです(昔はエンジニアがハンドパワーで、つまりフェーダーの上げ下げで入力レベルを調節したりもしました)。

デジタル録音が普及した際に我々が歓迎したことは原音への忠実性よりもむしろSN比の良さでした。小入力で入れても再生時にノイズに埋もれることがありません。デジタルならば原音のダイナミックレンジを保つ録音が可能です。アナログではテープに録音できる信号量の上限を超えない範囲でできるだけ大きな音で入れて、ノイズ成分を目立たなくさせる工夫をしました。そのために登場したリミッターは、またそれによって加わるキャラクターが愛され、ソース(元音)を魅力的に変えるブラックボックスとして重宝されました。ボーカルに艶を、バスドラムに迫力を、ベースに太さを加えるイメージです。

昨今のペダルコンプレッサーは、これらラック型のプロ機、即ちビンテージリミッターの音質改変効果が内包される潮流があり、そこが古いMXRと同時代とは言え、全く異なる方向性となっています。ギターに特化したペダルコンプはエレキギタリストにロングサステインを与え、レコーディングスタジオ常備機材であるリミッターは音像の質感を上げるためのツールとして求められものです。コンプとリミッターは、原理としてはレシオの違いなのですが、もはやひとつの回路で両方を兼ねることは難しいのでしょう。

そこで同じカテゴリーの製品にターゲットの異なる別種のものが混入する事態となります。最近、原音忠実系とかスムースで自然などと形容される製品(その文言が正鵠を射ているかどうかは怪しいが)にはリミッターの名器を意識したものが多いように観察しています。そのようなものの中にはエレキベースに使用して良い結果が得られるものが潜んでいるかもしれません。


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