図書館に入れる本、入れない本。

図書館に入荷する新着図書は誰が選定しているのか?

多くの中小図書館では、そこで働く司書や職員が選定しているはずだ。
明確な調査をしたデータを発見することが出来なかったため詳細は不明だが、月予算20万円以下程度ならば間違いなく司書の選定だろう。雑誌・新聞の購読を除いて20万であれば、1冊1800円に装備費400円を追加しても90冊。文庫や漫画など低価格の本を入れるとしても、大活字本や写真集やその他高価な特殊図書と差し引きすればだいたい100冊に届かない程度が限界なはずだ。
その程度であれば、複数人で選定すればそれほど(といっても人にもよるが)大変ではない。慣れていれる司書なら普段から情報収集しているだろう。

毎月数百冊、予算規模30万円以上の県立・市立図書館でどの用に本を選定しているかは正直分からない。書店が新刊図書を持ち込み、司書がその中から現物をみて選定する見計らい図書を行っている場合もあれば、もしかしたら特定の出版社が出す図書をすべて購入しているケースもありそうだ。
地域の核、礎となる都道府県立図書館であれば、購入する図書は膨大でありいちいち選んでいられないのではないかと思われる。かなりのひと仕事だ。

ちょっとしたデータとして、北海道・東北の道県立図書館の2月19日現在で1ヶ月以内に入荷した新着図書の数を調べてみた。なお、秋田県立図書館に関しては過去2年以内出版、3ヶ月以内でしか検索できなかったため、一月換算に計算した。

北海道立図書館 676点
青森県立図書館 492点
秋田県立図書館 905点(3ヶ月では2716点)
岩手県立図書館 297点
宮城県立図書館 82点(40日以内なので厳密には62点)
山形県立図書館 605点
福島県立図書館 880点

宮城県立図書館のみ異常に冊数が少ないため、検索方法がおかしかったか、蔵書点検や年度末の予算調整でタイミングが悪かったのか、詳細は分からない。少なくともその他の図書館についてはその恐ろしさが分かる。
選定、装備、登録、配架までを考えると、とてつもなく手間のかかる仕事だ。
※ちなみに私がやれと言われたら喜んで2〜3ヶ月はやるだろう。その後は選ぶ図書がなくなってきて苦しくなると思うが。
様々な分野の図書を幅広く、かつ地域性のあるものは特に収集する必要がある。もし一冊一冊選定しているとしたら、間違いなくプロフェッショナルな司書だ。エッセイや論文があればちゃんと調べてみたいテーマではある。

話を少し戻すとして、中小図書館で司書が選定している場合。予算が限られている中で、どんな本を選定するか?

  • 地域の観光や歴史を紹介する本、地域の研究図書、地元出身者の書いた本、更には作中のモデルになったり、地名が登場するなどの『地域関連図書』

  • 文学賞受賞作、本屋大賞ノミネート作品などの賞を取った『受賞作品』

  • 小説や専門書を問わず著者やシリーズで購入している『シリーズ図書』

  • 受賞作品ではないものの興味を引きそうな『新刊文芸作品』

  • 児童文学、絵本、図鑑、学研発行などの『子供向け図書』

  • 大河ドラマや朝ドラを含めた、映画、ドラマの原作などの『映像化関連作品』

  • 図書館の特色として集中的に収集している『収集対象図書』

このほか、各出版社が発行している新書や、エッセイ、各分野の入門書など、ざっと挙げただけでもこれくらいの基準はありそうだ。
もちろん異論はあるだろうし、ほかにも色々な選定基準をお持ちの図書館もあるだろう。今挙げたのは半分以上が文芸作品の基準だし、図書館にある本はもちろん小説だけではない。ただ、基準として挙げやすい候補を考えると、やはり小説ばかり目に付く。

では、それ以外の本はどのように選定しているのだろうか?
予算も限られているとなれば、多くの図書館では選定者、つまり司書の人間性によると思う。言い換えれば趣味や興味の対象、読書歴、接してきた世界観や信念。やっぱり一番しっくりくるのが、人間性という一言だ。

日本十進分類でいうところの0類を取りそろえるのは難しいかもしれないが、その中には、WordやPowerPointや最近ではSNSの指南書まで含む情報学、図書館学、読書についても含むし、書店、出版社、ひいては本そのものもこの分類に含む。
1類では哲学と題しているものの、性格診断もキリスト教も姓名判断も超能力もこの中に含む。神の教えの隣に天の龍の声が聞こえた、なんて本が並ぶのだ。すべてを平等に収集することは難しいだろう。
総務省統計局によれば、令和3年度の書籍新刊点数はなんと69,052点。これでも下降傾向にあるというのだから恐ろしい。日々大量に新しい本が生まれ、そして知らぬ間に消えて行ってしまう中で、図書館に保存し公開する本を選ぶのだから、大変な仕事だ。

では、どうやって本を選ぶか?
その基準は、やはり自分の中にしかないと思うのだ。

例えば料理に関する本を選定するとき。
私であれば料理の歴史や地場産業の本が目に付くし、地域の郷土料理や発酵食品、そこから1次産業のほうへ興味が流れていく。
これがほかの人だと、例えばレシピ本を選ぶ人もいれば、子供向けデザートの作り方、世界の料理紹介、主婦向け、単身者向け、時短レシピに一つの具材をテーマにしたレシピ本などなど。
どの本が魅力的か、どの本を図書館に入れたいか、そもそも選定対象として
目に入るかどうかも変わってくる。

これが良い、と判断するための基準を持っていなければ、そもそも本を選定ることなんて到底できないのだ。
そこにあるのはやっぱり、その人の人間性そのものだろう。

これまで大規模の図書館や、行っても目当ての本だけを探しに行っていた人も、ぜひとも図書館にある本をじっくり見てほしい。
新刊の中にどんなジャンルが多いか、逆になにが少ないか、初学者向けばかりだったり、あるいは特定のテーマだけ専門書が多かったり、寄贈された本を何でも入れている図書館もあれば、高額な図版や写真集を購入していることもある。

そこにあるのは司書の人間性、ひいては図書館の個性ともいえるものだろう。

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