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夢を売る話

あなたは鬱屈した生活を送る独身ないし既婚者の社会人だ。
日々のストレスをどこかにぶつけようにも、表面上は真面目で大人しい人間のあなたはいつの間にか周りに話を聞いてくれる人間が一人もいなくなっていることに気付く。家族でさえも。
不可抗力で溜まる性欲も、周りに女性がいなかったり妻は思い返せばこの数年性の対象からは外れている。いちいち注文をつけられ機嫌を取りながら今更セックスなんてしなくても、携帯と右手でサクッと済ませる方が楽だからだ。

あなたは軽く絶望し、少し考えたあと今までは軽蔑の対象であった男女の絡みを得意とするSNS──つまり出会い系サイトに決して軽くはない気持ちで登録する。
そんなものは詐欺の温床だし、TVやネットでは時折そういった業者がしょっぴかれているのが報道されている。
だが、万に一つでも本物が登録しているかもしれない。業者だけならそもそも有料サイトなど運営できないのだから。

あまりにも淡すぎる希望を抱いたあなたはどこの誰が作ったとも分からないフォームにニックネーム、年齢、住まい、自己紹介を書き込み、顔写真も登録してしまう。
警戒するあなただが、画面が進んでもいきなり「登録完了しました今すぐに𓏸万円下記口座に振り込んでください」というようなポップアップやメールなどは来ない。
少し安堵し、案外普通の運営なのか?などと考えながらホーム画面に戻ってみると今さっき登録したのにもう数十人の異性からメッセージが届いておりあなたは面食らう。

「はじめまして♡プロフ見て気になったのでメッセージしてみました!
私は都内で看護師をしている28歳です🫣
一応写メも載せときます!ぜひお返事ください♡」

「初めまして。突然失礼致します。私はバツ2の現在人妻ですが、夫との関係は冷めきっております。このまま女として終わっていくのはあまりにも惨めすぎます。性欲のはけ口でもいい…私を使って頂けませんか?私自身、会社を経営しておりますので金銭面でも負担はさせないつもりです。よろしくお願い致します。」

「急にごめんなさい。今彼氏と喧嘩して家出中で…𓏸𓏸さん優しそうな人だからいきなりメッセージしちゃった…今日泊まるとこもなくてお腹すいてて…こまってるの…」

全部、だいたいこんな感じのメッセージだ。あなたは10件目くらいからげんなりした気持ちになり始め、全てに目を通すことをやめる。冷静なタイプであるあなたは登録してから数分で来る量ではないことを察し、それでも一応先頭にいた2人くらいとやり取りをしてみる。相手は脅威の返信スピードである。

まるで24時間見張っているような。

「初めまして。よろしくお願いします」
「えっ!本当にお返事きた!嬉しい…♡他にもいっぱい女の人から来てるだろうから諦めてたんです!よろしくお願いします♡」
「まずはお食事からと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「もちろん行きたいです♡𓏸𓏸さんは何が好きですか?」
「僕はアレやらコレやらが好きです」
「私も好きです!好み合っててよかった♡あ、ちなみにどこに住んでるんですか?」
「そうなんですね♡近くて嬉しいです♡♡お休みは土日ですか?」
「何時までお仕事ですか?」「残業はありますか?」「結婚とかはしてますか?」「今何人くらいとやり取りしてるんですか?」「初めてでお泊まりってやっぱり嫌ですか??」

もうやり取り風に書くのがめんどくさいし長いので端折るが、この手のまとめて聞けばいいことをわざわざバラしたメッセージが延々と続き、いつの間にか登録時に受け取ったポイントは底を尽きる。

あなたは相手にLINEやメールアドレスを交換しようと提案するが、会ってからがいいと話が元に戻ったり、"閲覧するには本登録を行ってください。URLはここを…"と記載された画像を送り付けられ(それを開くにもポイントが倍かかる)更に課金を要求されたりする。

あなたは自嘲気味にフッと笑い、静かに退会処理を行う。その晩は久しぶりに妻が好物のおかずを作っていたり、少し気になっていた職場の女性から連絡があったりしてあなたは先程とは違う笑みを浮かべる。


※これは、サイトを運営していた当時新規登録してきた迷える子羊を見つけた時の「こうだったらいいのにな」という私の妄想を書き連ねたものです

※当記事は犯罪行為を助長する意図はありません

※出会い系のご利用は自己責任で。いつもいつもオマワリや弁護士が助けてくれるわけじゃありません

おわり

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