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ドロドロセカイ系「サイレントラブ」 感想 第12回

おつかれさまです!雪だるまです。今回は山田涼介主演「サイレントラブ」の感想を述べていきます。全体的には面白いと思いましたが、思うところもあったのでそこも書いていこうと思います。


あらすじ

声を捨て、毎日をただ生きているだけの蒼。ある日、不慮の事故で視力を失い絶望の中でもがく音大生・美夏と出会う。何があってもピアニストになるという夢を諦めない美夏に心を奪われた蒼は、彼女をすべてから護ろうとする。だが、美夏に想いを伝える方法は、そっと触れる人差し指とガムランボールの音色だけ。蒼の不器用すぎる優しさが、ようやく美夏の傷ついた心に届き始めた時、運命がふたりを飲み込んでいく──。
(公式HPより抜粋)

結末をどう納得させるか

恋愛物の作品といっても、その結末は様々である。ハッピーエンドで終わらせる作品もあればドロドロの悲劇になるものもある。そういった多様な作品がある中で本作の結末は中途半端だったと個人的には思う。
最終的に蒼と美夏は互いの気持ちを確かめあって終わるが、そこに至るまでに美夏は夢だったピアニストになり、代わりに蒼は人生を失っている。そのため、その後幸せな人生を送れるのかは観てる側も想像がつかず非常にモヤモヤする。
そういったある種セカイ系な結末にロマンを感じる人もいるだろうが、観てる側としては登場人物たちがここまで傷つく必要がそこまであったのか疑問に思う。

天気の子と比較

あまり他作品と比較するのは好きではないが、同じセカイ系の作品として成功をおさめた天気の子と比較すると分かりやすいと思ったので敢えて紹介させてもらう。
天気の子のセカイ系的結末がなぜ受け入れられたのかは大きく2つの点が関わっていると思う。
1つは帆高の感情の軸が分かりやすい点。言うなれば陽菜か世界かという明確な2軸を基準に感情が広がっているため話が追いやすく、最後の結末も2択のうちの1つという明快な答えなので良い意味で感動しやすい。
2つめは結末の前に、一度お互いの感情を確かめ合うシーンがあるところ。このシーンがないと結局最後は陽菜的には帆高を選んだことが正しいと思っているのか疑問になるうえ、観てる側にも納得感がなく今ひとつスッキリしない終わり方になってしまう。
恋愛を、特にセカイ系の場合はお互いの感情描写の細かさはとても重要になってくる。

では本作は?

前項の天気の子の評論を踏まえて本作を評価してみよう。
まず1つ目の感情の軸だが、本作に当てはめると蒼の人生と美夏の夢という2軸になると思われる。この軸の分かりやすさは良い。だが蒼の周囲の状況がこの軸をブレさせている。
途中の悠真と美夏のデュエットシーンがあるが、あのシーンで美夏の夢の実現に必要なのは悠真の才能であり、自分は金を用意するだけの代えの効く しがない貧乏人でしかないことに蒼は気づく。天気の子では陽菜を救うのは帆高ということに必然性が感じられたが、本作は構造的に蒼に必然性がなくむしろそれは悠真にあるとも言える。
このいびつな状況が先程のシンプルな感情の軸と上手く噛み合わない。そのうえ最終的に多かれ少なかれ登場人物は皆傷つき、更にそもそも蒼が罪を肩代わりすることにもそこまで必然性がないため、観てる側は「もっと他に良い結末があったのでは?」と思ってしまうのだ。
2つ目の感情を確かめ合うシーンだが、本作で該当するのは蒼と美夏のキスシーン、つまり最後の最後のシーンである。途中のコテージのシーンでは?と思う人もいるだろうが、あくまで観てる側からお互いの感情が分かるだけであり、ここではまだお互いの感情がすれ違ったままである。結局最後の最後で感情の昇華シーンを持ってきたため、観てる側としては本当にこれで二人は良かったのかという疑問が残ってしまう。
本作を見た後に残るモヤモヤ感はこれらの要素が原因であろうと私は思う。

悠真は必要な存在

先程の主張を聞いた人の中では悠真を取り除けば全て解決するのでは?と思う人も多いだろう。しかし私は悠真は必要な存在だと思う。
学生の分際で高級車を乗り回し裏カジノに惚けるクズだった悠真が美夏との出会いを通じて、それまで目的もなく弾いてたピアノが誰かの力になれることに喜びを感じそれが美夏への恋心に発展する。三角関係の1角としてこれ程相応しい人間はいないし、単純に人間として面白い。悠真の存在は作品に深みを持たせているのでやはり必要であると私は思う。

もっとシンプルでいい

正直もっと本作はシンプルでいいと私は思った。
何も持たざるものだが美夏への思いだけは純粋な蒼、不慮の事故で夢を半ば閉ざされた美夏、クズな天才ピアニストの悠真…。これだけで必要なピースは揃っている。
蒼が悠真と協力して一流ピアニストになって美夏と結ばれるサクセスストーリーでも良いし、悠真と美夏が結ばれて持たざる者は夢見るな的なNTR胸糞ストーリーでも良い。何だかんだみんな好きじゃんNTR。
だがセカイ系となると、先程から述べているように登場人物の細かな感情描写と最後のアンサーに対する観てる側に対する納得感が重要である。つまり高い構成力が必要なのだが、本作はそこの構成については今ひとつ昇華しきれなかったと私は思う。

何だかんだで楽しめはした

いろいろ言ってしまったが、総合的にみればまあまあ楽しかったと思う。評価的には私が以前感想を述べたHello Worldに近い。面白くなりそうな要素は感じられるが、それらを今ひとつ上手くまとめきれていない惜しい作品である。難しいことを考えなければカップルで見るには十分な作品だとは思った。まあ細かいことをいえば不自然なところはいくらでもあるが(美夏の事故のシーンもあんな感じの轢かれ方で目と手を怪我するか普通?と思ったし、白杖も事故ってそんなすぐ使いこなせねーだろって感じだし、主要人物それなりに傷ついてるのに極悪メンディーと大戦犯無能友達はお咎めなしですか?とか…)、そこらへんはツッコんだところで無意味な気がしたので敢えて今回は盲目と無声の2人の恋というワンアイディアを深堀りするような感想にしました。
ちなみに劇場はカップルと一人客は半々くらいだった。正直もっとカップルが多いと思っていたので意外。ひとりでもまあまあ見やすかったです。

もし、私の感想で見てみたいと思ったのなら是非見てみてほしいと思います。
ちなみに今日名前をだした天気の子とHello Worldについては以前感想を書いているのでよろしければ読んでみてほしいです。以下にリンクを貼っておきます。




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