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碧く、どこか不気味。 「佐々木、イン、マイマイン」 感想第10回

こんばんは、雪だるまです。第10回は「佐々木、イン、マイマイン」です。先日スタンドバイミードラえもん2を観に行った時にポスターが目に止まり観てみました。感想書いていきます。(ネタバレあり)

バランスの良い見せ方

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本作のストーリーは端的に言えば、売れない俳優の主人公、悠二が友人である佐々木との青春時代を振り返りながら自分自身の気持ちと向き合い前に進み始めるというストーリーである。
映画的にはかなりやり尽くされているがウケはいい、ベタなジャンルだ。この手の作品で重要なのはベタでありながら、いかに作品として個性を出していくかが重要になっていくと思う。
この作品はまず話の構成が絶妙で、過去と今の時間軸を不自然のないようにうまく行ったり来たりしている。
悠二がたまたま再会した多田との飲みから回想が始まり、それと同時に後輩の須藤との舞台練習を見せることで徐々に悠二の気持ちが明るくなっていく様子がとても分かりやすく表現されていた。
PVの映し方からなんとなく論理的ではなく感情的に訴える作品と思われるかと思われるが、実際は感情的に見せつつ構成は論理的な作品で非常に見やすかった。

不気味さを表現するうまさ

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本作、不気味さの表現がとても上手い。象徴的なのは悠ニのバイトシーン。
工場のような場所で周りは機械だらけだが、一切動いている様子がない。そんな中で悠二たちは箱詰めという単純作業を淡々とこなす。
機械に囲まれた中で機械にでもできそうな作業を淡々とこなすその様は、人を映しているのにかなり退廃的で、まるで廃墟を映しているようだ。
こういった不気味さが作中の暗いシーンで際立っている。このセンスは素晴らしいものだと思う。

佐々木の人物描写

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本作の重要人物である佐々木。佐々木は、普段はおちゃらけて、囃子立てられると教室で全裸で踊り狂うようなバカだが家は貧乏で父親はごくたまにしか帰って来ず、孤独な時間を過ごしている。
要するに人前では明るいのに実は誰よりも暗い影を持つ人間。設定的にはベタベタである。
だが、このベタベタなキャラ設定でも本作では持ち前の不気味さで、かなりシリアスなキャラに仕上げている。
特徴的なのは父親が帰ってくるシーンである。本作では父親が家に帰ってくるシーンが何回かある。
最初は佐々木がみんなと遊んでいる時に突然帰ってくる。このときの佐々木は突然父親が帰ってきたことに明らかに戸惑っていた。2回目は夜中、佐々木が目を覚ますと父親はゲーム機で遊んでいた。このときの佐々木は笑顔でどこか恥ずかしさを隠すような素振りでゲームをいっしょにしようと父親に提案している。その後も父親との再会シーンを挟み中盤で仲間が「最近父親は帰ってきているのか」と佐々木に質問する。それに対して佐々木は「帰ってきてない」と答えている。
これまでに何回か父親との再会シーンがあったのにこの回答は不自然だ。その後、佐々木が仲間たちと神社でおみくじを引いているときに偶然、佐々木が群衆の中に父親の姿を目撃する。そのときの佐々木の様子は明らかに落ち着きがなく、宥める悠二を振り払ってしまうほどだった。このあたりで視聴者はふと思い返すことになる。
佐々木が父親に対して戸惑っていたのは最初の再開だけで、あとは比較的落ち着いて対応していた。もしかしたら、本当に父親と再会していたのは最初だけで、あとの再会は佐々木の父親に対する思いが生んだ虚像なのではないかと。虚像だから佐々木は落ち着いて対応できたのではと。そこに気づいたとき、佐々木という人物の底が知れない深い影が鮮明に際立ってくる。ある種ホラーだ。
結局佐々木が本当に父親と再開したのかははっきりと分からない。それが余計に佐々木の影を不気味に際立たせている。

最後はもう少し明るくしてもよかったかも

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作品のラスト、悠二が中学生当時に仲間たちと通った帰り道とは逆の道順で走るシーン。悠二の気持ちの昇華につながる重要なシーンである。
見せ方としては悪くないし、悠二のセリフも映像も昇華を表現するには十分だったと思う。
だが、前半であれだけ巧みに暗さを表現できたのだから、個人的にはもっと極端に明るく見せても良かったような気がした。ミュージカルとはまた違うが、静かな空間からあるきっかけで舞台がぱっと明るくなり一気に華やかになるあの感覚。あのようなものがあれば前半の不気味さが活き、より強い衝撃が生まれたかもしれない。
もしかしたら、明るさの表現は最後の死んだはずの佐々木が霊柩車から出てくるシーンなのかもしれないが、あれは逆に茶番くさくなってしまっているので、もう少し真面目に明るさを表現したほうがよかったような感じがした。

脚本と映像美がうまくまとまった良作

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ベタな題材を映像技術で魅せた、とても映画らしい映画だと思った。小説でもマンガでもこの作品の魅力は表現できない。映画だからこそ表現できたと思う。
とくに悠二の心情をそのまま画に反映させたような演出と画作りは素晴らしく、邦画に興味のない人でもひきこませるポテンシャルを感じた。
その独特な画に対して話はシンプルで、個性的なのに観やすい。うまくまとまった作品だと思う。
欠点らしい欠点が見当たらなく、万人に勧めやすい作品だ。少しでも興味があったらぜひ劇場に足を運んでほしい。アニメ映画の波にのまれて埋もれてしまうのはもったいない作品だ。

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