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【二次創作小説】アンパンマン補完計画:破

 ジャムズ本部のエレベーターで地下一○階に行くと、秘密の部屋がある。ロールパンナはアンパンマン号に乗る前、ここに立ち寄っていた。


 秘密の部屋の扉を開けると、中は暗く、闇が広がっていた。

「……」

 ロールパンナは静かに明かりのスイッチを点ける。すると、ガチャっという音と共に一つのスポットライトが一脚の椅子を照らす。

 その椅子には頭のないアンパンマンが座っていた。そして、心臓だけ取り出された形跡がある。

 あの日、テリウム戦でアンパンマンは精神汚染で死んだ。よって新しい顔に変えても元気を取り戻すことはなかった。

 アンパンマンの心臓は無限エネルギーとしてアンパンマン号R型のコアとして組み込まれている。つまり、魂としてはまだアンパンマンは生きている。共に戦ってはいるのだ。しかし、それはアンパンマンとして戦っているわけではない。だから最強のパン戦士・アンパンマンの覚醒と復活が今回の遠征の目的である。

「ん?」

 ロールパンナはアンパンマンの胸のワッペンが落ちているのに気がついた。あの黄色いニコニコマークだ。彼女はそれを拾い上げ、包帯の隙間から見つめる。

「……アンパンマン」

 ワッペンを胸ポケットに押し付けると、そっと胸ポケットにしまい、顔に巻いている包帯を取った。バサッと長く美しい黒髪が露わになる。

 体の重さを壁に任せ、体育座りをしてアンパンマンの姿を眺めた。

「今度は私たちが助ける番だからね」




 ワッペンを眺めながら、秘密の部屋を訪れた際の記憶をリプレイする。するとメロンパンナが隣に座ってきた。

「アンパンマンの?」
「そうよ」
「そっか」

 会話が途切れ、沈黙がやってくる。それを取り繕うかのようにメロンパンナは口を開いた。

「懐かしいね。一緒に戦っていた日々が。テリウムがいなかった時代は平和だった」

 ロールパンナはそれに対し「そうだね」と俯く。

「どんぶりトリオや長ネギマンもいた……」
「おむすびまんにこむすびまんも」
「うん、あの日々に戻りたいな」

 ロールパンナはメロンパンナの方を向く。

「だからこそ、私たちはテリウムを、ばいきんまんを倒さなくちゃならない」

 その刹那。

『何あれ?』

 バタコの声であった。一体何があったというのだろうか。

『すごい大きな木がある』

※ ※ ※

「ったくだりいよ。何だよ調査って」

 カレーパンマンがぼやく。しかし一同も全く共感できないわけではなかった。大木の周囲には背の高い草が生い茂り、湿気も酷かった。そのような場所に放り込むバタコの考えがわからない。何より、雲で太陽が隠れており暗い。

「ここにバイキンマン一味の隠れ家があるかもしれない。可能性がゼロでない限り、調査するのが私たちの仕事ですよ」

「でもちょっと暗くて怖い」

 メロンパンナの怯える声に答えるように、ロールパンナは手の平ほどの大きさの光の玉を作った。

「お姉ちゃんナイス!」

 ロールパンナのおかげで辺りが明るくなり、探索が早く進み出す。気づけば大木の根元まで来ていた。

「でけえな」
「目測ですが、百メートルくらいでしょうか」
「うん、それくらいだろうね」
「本当におっきい!」


 メロンパンナは楽しそうにぴょんぴょん跳ねていた。四人がしばらくその大きさに圧倒されていると、インカム越しにバタコ司令から指示が来る。

『はい! 調査! 調査! まず根本の周辺をよろしく頼むよ!』
「司令、これ補完計画と何か関係あるんすか?」

 またもやカレーパンマンが本心からの疑問をバタコにぶつける。

『うーん、関係があるかないかって言われたらないと思うんだけど。ここはバイキンマンの領土だからね。関係がないことを確かめるのも立派な調査だよ』

 食パンマンが、言った通りだろ、と言いたげな顔をした時、メロンパンナが何かを発見した。

『どうした?』
「隠し扉があります!」

 バタコは数秒考え、中に入るよう四人に命じた。

 隠し扉には鍵がかかっており、カレーパンマンと食パンマンのダブルパンチで扉を粉砕した。

 中に入ると、上へと続く階段が一つだけあり、その階段の先は暗くて見えなかた。

「行くか」

 カレーパンマンを先頭に、メロンパンナ、食パンマン、ロールパンナと続く。階段の幅は人が一人通れるか通れないかくらいで窮屈であった。

 階段を上り終えてもまだ暗かった。しかし、次第に目が慣れてきていくつか木の扉があることがわかった。さらによく見ると、一つの扉からわずかに光が漏れていた。

「入るの?」

 不安そうな目でメロンパンナが三人を見る。誰も首を横に振らなかった。そして、ロールパンナが一歩踏み出す。

「「ロールパンナ?」」

 カレーパンマンと食パンマンの声が重なる。

「お姉ちゃん?」

 メロンパンナの顔も青くなっていた。

 当のロールパンナは手をその扉のノブに伸ばす。手の平で展を包み込み、力強く回し、引いた。木の軋む音と共に、四人の顔が明るく照らし出された。

「っ!」

 瞬間的にロールパンナを除いた三人はすぐに戦えるように構える。しかし、中には誰もいなかった。

「何だよ……」

 彼女も安心感からか、感想を口にした。

 その部屋は十畳ほどの小さな部屋で両サイドの壁に立てかけられている棚は大量の本で埋められていた。奥も机とデスクライトがあり、その上にも本棚がある。もちろんそこもぎっしりだった。机の上には書類が散らかっており、全体的に乱雑としていた。

 カレーパンマン、ロールパンナ、メロンパンナが本棚の本を手当たり次第に調べるが、食パンマンは机の上の紙を一枚手に取った。

「……これは」

 その紙は、かつてアンパンマンが敗北したテリウムと同じ種類のものの解剖資料だった。

「皆さん、見てください!」

 食パンマンは三人を集めた。すると三人も食パンマンのように表情を曇らせる。

「こんな事をしている奴がここにいる。つまり、ここはバイキンマンらのアジトということか?」

 カレーパンマンの呟きを、ロールパンナが否定する。

「それはないね。バイキンマンのアジトは変わらずバイキン城であることがわかっている。それにこの大木からかなり離れているしね。バイキンマンの関係者のものである可能性は高いが、奴はここにいないだろう」

 食パンマンは「持っていてください」と言って、その紙をメロンパンナに渡し、新たにもう一枚の紙を取る。

「!」

 それは今朝彼らが倒したテリウムと同種の個体の解剖資料だった。

「これ、やっぱりやべえやつじゃないか?」

 その瞬間だった。

「あんたたち、やっぱり来たのね」

 どこかで聞いたことがある声に、四人は扉の方を振り返る。

 入り口に立っているのはあの人だった。朱色の皮膚に、一本の角、悪魔のような尾を持つ女の子。

「ドキンちゃん!」

 カレーパンマンが声をあげる。

「私もいるよ」

 ぴょこっとドキンちゃんの後ろから顔を出したのはかの嘘泣き名人コキンちゃんであった。

「ここは私たちの研究所。それで−−」

 突然、ドキンちゃんは話を止める。そして、

「食パンマン様あっ!」

 食パンマンに飛んで抱きつくドキンちゃん。彼の顔は若干引き攣っていた。

「お久しぶりですっ! 私のこと覚えていてくれました? もう超かっこいい!」
「あ……ありがとう」
「今度デートしてください!」
「え、……は?」
「お願いしま−−」

 最後まで言い終わらないうちに、ドキンちゃんはその場に倒れる。 

 パン戦士一同は驚きを隠せず開いた口が塞がらない。なぜならドキンちゃんは胸から血を流し、倒れていたからだ。

 そしてコキンちゃんの手には小銃。たった一瞬の出来事だった。
 コキンちゃんがドキンちゃんを撃ったということだ。

 コキンちゃんはまだ煙の出ている小銃の銃口を天井に向けながら、ドキンちゃんの死体を見下ろす。

「……本当に使えないお姉ちゃんだね」

 そして、ドキンちゃんの腹を蹴り上げる。パン戦士たちは黙って見ていることしかできなかった。

「食パンマンも敵なのに。……ヘラヘラしてんじゃねえよ」

 コキンちゃんがそう叫ぶと、外から大きな爆発音が聞こえる。四人は反射的に体を構えた。

「あれ? お目覚めかな」

 コキンちゃんは涼しい顔をする。そんな彼女にロールパンナが尋ねる。

「……何をした?」

「テリウムだよ。私とお姉ちゃんのとっておき」
「!」
「だけど、奴らを倒したいなら、まず私を倒しな」

 コキンちゃんはそう言って扉の前に立ちはだかる。すると食パンマンが。

「君の相手なら私がします。だから他の仲間はテリウムと戦わせてください」
「うーん、そだね」

 コキンちゃんは少し考える素振りを見せる。

 少しの沈黙。

「いいよ」

 扉を開けるコキンちゃん。そこをカレーパンマン、メロンパンナ、ロールパンナが通り過ぎる。

「頼むよ、食パンマン」

 食パンマンはコクっと頷く。
 
※※※

 体に似合わない大きさの機関銃を乱射するコキンちゃん。食パンマンはそれらの弾を次々に跳ね返していく。もう何分かこの状態が続いていた。食パンマンの体もそろそろ限界だった。

「!」

 急にコキンちゃんが撃つのやめたかと思うと、ナイフを構えて飛びかかってきた。完一発のところでそれを躱し、食パンマンも近くにあったカッターナイフを取る。

「さすがはパン戦士。そこらの奴らと反射神経は違うわね」
「……それはありがとうございます!」

 食パンマンはコキンちゃんにカッターを投げつける、しかし、ナイフで弾かれてしまった。

「……でも、もう終わりだね」

 食パンマンは隅に追いやられ、ナイフを突きつけられた。

「それはどうかな?」
「何言ってんの? この状況でのあなたの勝算はゼロでしょう?」
「いいえ。パン戦士としてこの世に生きている限り、悪を滅ぼさなければなりません」

 食パンマンは手榴弾を取り出した。



「ロールパンナ! メロンパンナ! お前らはそっちを頼む! 俺らはでかい方をやる!」
「了解」

 カレーパンマンはテリウムの頭上まで飛び上がると、火炎級を出現させ真下に落とした。火球が直撃したテリウムはバランスを崩し、その場に倒れた。

「これで終わりだ!」

 カレーパンマンはテリウムの顔面に拳をぶつける。

「カレーパンチ!」

 その時、例の大木が大爆発を起こした。カバオが『テリウム撃破!』と発した直後だった。

「……食パンマン。さようなら」

 ロールパンナとメロンパンナもそれを察したようで戦いを一時休止していた。

 バタコも画面越しに食パンまんに別れを告げた。

『お疲れ様。食パンマン。ゆっくり休んでね』

 食パンマンという一人の仲間を失った三人のパン戦士はテリウムとの先頭を行なっていた。仲間を失い、複雑な心情であるにもかかわらず、自分の使命を全うしようとしていた。その姿はまるで勇者であり、悪魔のようにも見えた。

「メロンフラッシュ!」

 メロンパンナはテリウムの視覚を奪う。続けてロールパンナが、

「ロールウィップ!」

 と、飛ばした包帯でテリウムの姿勢を崩した。

「火炎球・辛!」

 カレーパンマンも攻撃。

 これを数回繰り返していると、やがて二体目のテリウムも力尽き、カバオの撃破報告が来る。

 何とも言えない、腐敗なる勝利だった。


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