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【二次創作小説】アンパンマン補完計画:Q

 しばらく走ると砂漠に出た。そこには謎の建物とパラボラのようなものがあった。


 日は既に落ちており、もう暗い。夜が訪れたのだ。

「あれは……」

 バタコが呟き、チーズがブレーキをかける。アンパンマン号R型は走行を止めた。

「アンアーン(何?)」
「……バイキンマンの研究所だ」

 入り口と窓が一つずつある箱のような建物。玄関扉にはバイキンマンのマークがあった。

「行く、か」

 あのカレーパンマンが少し怯えている様子だった。それもそのはず、今全盛期を迎えているバイキンマンだ。あの頃の比ではない。

※  ※ ※

 カレーパンマン、メロンパンナ、ロールパンナは研究所の扉を開け、中に入る。中は暗く、色々な器具があるがバイキンマンの姿は見当たらない。

「いねえのに鍵かけてねえとか不用心過ぎるだろうよ」
「……そうだね」

 ロールパンナも相槌を打つ。

 バイキンマンがいないとわかったメロンパンナは部屋の明かりを点けた。すると、そのメロンパンナがあるものを見つけた。

「また扉」

 カレーパンなとメロンパンナは無線で、その扉の先を調査するかバタコに尋ねた。すると彼女も、

『そうだね……。ただならぬ気配を感じるから、開けない方がいいような気がするけど。開けないと何も始まらない気がする、ってチーズが言ってる。私もそう思うよ』

 と言い、少し間を開けて続ける。

『カレーパンマン』
「ん?」
『あんたの判断に任せるよ。今後の判断も全て任せる。あんたがチームのリーダーだ。どうしようと私は何も言わん』
「俺?」

 突然リーダーに指名されたカレーパンマンは驚きを隠せない。

「わかった。だから少し考えさせてくれ」

 しばしの沈黙。

 急にカレーパンマンは歩き出し、一気に扉を開けた。

「うわ!」

 メロンパンナは大声をあげる。すると、ロールパンナがメロンパンナの頭を撫でた。

「何もないのに大声を出さないで」
「……ごめん」
「地下室だ」

 扉の向こうには地下へと続く階段があった。

 ―ったく、上への階段の次は下か。

 ロールパンナが行くだろ? と目で尋ねる。それに対し二人は頷いて答える。

※  ※  ※

 階段を降りると、また扉があった。その扉は鉄の扉のようなので、光は漏れていない。しかし、今回は鍵がかかっている。

「ちっ」

 カレーパンマンは舌打ちをすると扉にカレーパンチをぶつけた。すると扉に簡単に穴ができた。鉄と言っても薄かったようだ。

「よく来たな」
「……ようやくラスボスの登場ってか?」

 三人のパン戦士の前には黒い体に白衣。メガネに二本のつの。紫色の大きい鼻。バイキンマンが立っていた。

「何しに来たんだ? ここに来たということは、ドキンちゃんとコキンちゃんを倒したってことだよな?」
「……ああ。一人の仲間を犠牲にして、ここまで来た」

 それを聞いたバイキンマンは三人の顔を見て、

「食パンマンか」

 と呟いた。それに対し、カレーパンマンは首を縦に振って答えた。

「その通りだ」
「で、何しに来たんだ?」

 バイキンマンは冷酷かつ氷のような鋭い目でパン戦士たちを見た。すると、メロンパンナが前に出て、

「アンパンマンの補完よ」

 と、胸に手を当て言った。

「補完? ハハッ、とんでもない嘘を!」

 バイキンマンも一歩前に出てきたので、メロンパンナは再び後退した。

「アンパンマンは俺様が倒した。もう死んでるんだ・生きていない奴の補完なんでできまい」

 バイキンマンはどうだと言わんばかりに腕を組み仁王立ちした。しかし、次はロールパンナが一歩前に出た。

「あんたを倒せば、アンパンマンは補完できて、完全体として蘇る」
「仮に俺様を倒せたとしてもだ。俺様がいなくなったところで、完全体のアンパンマンが何の役に立つというのだ」

 バイキンマンは耳をつんざくような大きな声で笑い出す。

「アンパンマンはみんなの希望だ」

 カレーパンマンも一歩前に出た。

「ハハハッ! お前らは本当に笑わせてくれるな! 愛と勇気しか友達のいないボッチが何故皆の希望なのだ!」

 カレーパンマンは拳に力を込め、言い返す。

「わかっていないな、バイキンマン。愛と勇気だけが友達ってところがミソなんだよ」
「ほう……聞かせてもらおうか」

 バイキンマンは不思議そうな顔をして、腕を組むのをやめた。

「愛と勇気だけが友達。だから他に何もない? そこがもう違うんだな。つまりだ。愛と勇気以外はそれ以上に素晴らしいもので尊重すべきもの。愛や勇気以前の問題で、それらは友達以上で『あたりまえ』だからなんだよ」

 はい、論破。と、カレーパンマンは付け足しそうになった。

「なぜそう思う? 証拠は?」

 バイキンマンがカレーパンマンに尋ねる。

「俺らパン戦士たち。故郷のみんな。そしてアンパンマンだ」
「……」
「アンパンマンはさらにこう言ってたぜ? 『僕なんか変なこと言った?』ってな」
「……」

 バイキンマンはずっと黙ったままなので、カレーパンマンは話を続けた。

「俺は本心からじゃない綺麗事は嫌いだ。けどな、あいつは天然すぎて本心から言ってんだ。生命かけてる。やべえよな」
「……」
「だから、悪があってもなくても、バイキンマンがいてもいなくても。あいつは正義を語り続けるぜ・それでみんな笑顔になれるんだ。どうだバイキンマン。これが『アンパンマン補完計画』の目的だ」

 バイキンマンは後ろを向き、一台のパソコンの前に立つと、

「志だけは評価しよう。けど、お前らはここで終わりだ。アンパンマン補完などさせん」

 そしてバイキンマンは人差し指でエンターキーを叩きつけたのだった。

※  ※ ※

「うっ!」

 一体のテリウムにマントを掴まれ、ロールパンナはそのまま地面に自由落下して行った。

「ようやく、死ねるのか」

 ドスンっ! という衝撃が直に伝わり、とてつもない痛みを感じた。しかし、今のロールパンナには痛がる気力も残っていなかった。

 ロールパンナは、アンパンマンのワッペンを取り出し眺める。

「ごめんね、アンパンマン。補完できなかった。

 つまらない人生だった。そうやってロールパンナは今までの人生を振り返った。

 ツーと一筋の涙が頬を流れる。

 今のロールパンナの心情は複雑であった。やっとこの人生に終止符が打てるという嬉しさと、どうしてこのような死に方なのだという公開。

 彼女はそうして、ゆっくりと目を閉じた。

−−ピキン—

 最後に黒い影のようなものが見えたが、ロールパンナは気にしなかった、

 彼女の意識はそこで切れてしまう。

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