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コロナ対策を踏まえた2020徳島市長選・候補者SNSの比較分析と活用ポイント

 かつてない新型コロナウイルス感染の影響を大きく受けた徳島市長選挙戦。候補者は外出を控える有権者との接触をさけつつ手探りで行う選挙戦は接戦でした。

今回、戦い抜くために欠かせなかった一つの手段としてSNSの活用があったと候補者はのべています。今回は、両候補者の”SNS活用”のみに焦点を絞って、コロナの影響を踏まえたネット選挙活動について考察します。

(※ここでの”コロナ対策を踏まえた”としての定義は、ネット選挙活用し外出困難な有権者に情報を発信することを定義しています。またネット選挙自体の効果性や地上戦でのコロナ対策については触れていません。選挙の当落には様々な要因があり、あくまで一つの可能性としてご拝読いただければと存じます。前提として4/6時点でのデータ取得・対象は選挙期間内です。両陣営を批判する記事ではありません。)


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2020年の徳島市長選に立候補者したのはいずれも無所属で、新人で会社役員の内藤佐和子氏(36)と、再選を目指す現職市長の遠藤彰良氏(64)の2名。結果は、内藤佐和子氏41,247票、遠藤彰良氏39,248票となり、内藤佐和子氏(36)が当選した。全国最年少の女性市長の記録を更新。

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NHKの最新出口調査・当確情報・投票率によると、以下の通りである。

告示日:2020年3月29日
投票日:2020年4月5日
定数 / 候補者数:1 / 2
執行理由:任期満了
有権者数:209,983人
投票率:38.88%

今回、当日有権者数は20万9983人。投票率は前回(2016年)を6.82ポイント下回る38.88%で大きく下回りました。投票所へ足を運ぶ人は少なかったと報じられています。2020年徳島市長選挙は、2名の候補者の一騎打ちとなり、現職遠藤氏と新人で政界初挑戦の内藤佐和子氏が争う形となりました。従来より徳島で続く対立構造も絡み前回に引き続き保守分裂で複雑な支持構図となった今回の市長選。両候補者のSNS活用のポイントに焦点を当てていきます。

今回当選した、内藤氏のプロフィールはこちら↓

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名前:内藤 佐和子(ないとう さわこ)
現年齢:36歳
性別:女性
党派:無所属
肩書き:会社役員、まちづくりグループ代表
学歴:徳島文理中学校・高等学校、東京大学法学部政治コース卒業
職歴:応神鉄工取締役、徳島活性化委員会代表、徳島県・市各種審議会委員

東京大学卒業後、家業の応神鉄工取締役を務めるかたわら徳島県・徳島市の観光・男女共同参画・障がい者・教育振興・総合政策・規制改革・社会教育委員・子ども子育て会議等の審議会委員を歴任している。

「SNSうまくいった」徳島市長選、当選の内藤さん語る:朝日新聞デジタル  https://www.asahi.com/articles/ASN463G95N46PISC00F.html

↑こちらの記事でも触れられているように内藤候補者は、今回の勝因については、「スピード感をもってやる若さへの期待、SNSを活用した選挙がうまくいった」と振り返えられています。ネット選挙が得票数に直接的な影響があったかどうかのエビデンスは一度おいておくとして、内藤候補者のSNS活用についてポイントをまとめていきます。


【当選した内藤候補者のSNS運用について】

◆FaceBookの活用 (facebook フォロワー1083人:4/6時点)  

ポイント①自身のfacebookページを中心に発信を続けていた点

本来であれば国政選挙や組長選挙などには、facebookの公式ページを作成しPRする立候補者たちが従来は多いのですが、内藤氏は今回作成せずに自身のfacebookページを中心に発信を続けています(毎回のいいね数は300-500ほどついている)➡本来のfacebook公式ページを作成すると自身の過去の投稿と結びつけないことを可能にし、一からブランディング戦略をページ内で図れます。そして、個人ページからフォロワーを誘導してこなければならない手間を省くメリットがあります。

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ポイント②コロナ対策の一環でZoomアプリを活用しオンラインコミュニケーションを図る(※開催中止)

新型コロナウイルス感染の確認を受け、接触をさけるためにzoomアプリを活用し、有権者とのオンライン会議を何度も開催していました➡有権者とのネット上において直接的対話を行う接触回数を生み出している

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ポイント③facebookの投稿についた返信は候補者本人がすべて返事を行っていた点

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また批判的意見について投稿し、誹謗中傷をうけている事実には負けないと力強いメッセージ化を行い共感を呼び、Facebookにて選挙期間中に1000いいねを獲得している記事となっています。

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◆YouTubeの活用について

次にYouTubeについてです。チャンネル登録者数 396人 (4/6時点) 
現時点では29個の動画がアップされている。選挙選一カ月半前からのスタートにもかかわらず、最高再生回数は約5000回数を誇っています。またGoogle動画検索では、”徳島市長選”のキーワードを入力すると内藤氏の動画で埋め尽くされていました。検索した際には、目に止まりやすい検索上位に候補者の名前があることはポイントになります。

ポイント①YouTuberのように視聴者を意識したタイトルのつけ方と内容も3分以内に集約されている

ポイント②サムネイルの統一感があることで動画コンテンツの質が全体的に高く見えます。また視聴者へのための動画編集者の配慮と想いがそこにはありました。どの年齢の視聴者にとっても見やすく、聞き取りやすい。このYouTubeの活用の仕方は地方市長選において有益なロールモデルともいえます。

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ポイント③候補者が掲げる公約を動画のタイトルにつけて詳細と想いを動画の中で語るスタイル。三人体制で番組形式の放送を行っていることで候補者へのインタビュー形式となっています。選挙期間中はほぼ毎日動画を投稿。再生回数に惑わされずに選挙終了まで軸をブラさずに継続していました。

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◆Twitterの活用について 

最後にTwitterをみていく。内藤候補者は2009年10月にTwitterを開設しており、Twitterは、フォロー470 フォロワー2451 (4/6時点) 現在までに1365ツイートしている。平均RTは114RT。

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ポイント①Twitterはあくまでサブであり報告型手法をとっている

FaceBookよりはエンゲージメントは劣るもののハッシュタグを活用し2020年に入ってからは毎日投稿しています。投稿内容は主に、(演説風景、自身の想い、公約説明、お子さんや家族について等)。ここで注目したいのは、従来の選挙で使うTwitter活用の使い方をしておらず、サブとしてTwitterを使用していたことです。

従来のネット選挙でのTwitterの使い方として、今年の京都市長選に立候補した福山氏のTwitterを例にすると、インフォグラフを作成し、街頭演説や討論会のスケジュールをシェアを使用目的とした告知型をとる候補者が多いです。


しかし、今回の内藤候補者は演説日程スケジュールをアップしておらず告知型ではなくタイムリーな更新または事後を発信する報告型であることが以下の投稿からもよくわかります。

ポイント②“候補者自らが投稿していますよ!”という特徴を表現し有権者に向けて対話する姿勢を見せている

一貫して内藤候補者の文章には絵文字が多く使用されていたことに注目です。本来のネット選挙戦では、あまり絵文字が使用されることはなく、わかりやすい図やインフォグラフを持ちることがメインです。なによりSNSを投稿する文章の中には、投稿者の候補者の人間性、感性、教養すべてが現れます。激戦中は、スタッフが候補者に代わって投稿していることも珍しくはありませんが、ネット選挙においては、候補者アカウントを運営する際には、文章にはブレがないように一貫性を持たせる言葉選びと投稿が常に重要です。しかし、今回の内藤候補者は本人のスタイルなのか無意識なのか、常に文章に絵文字が特徴的に使われていたこと、やわらかい言語が多いことで、陣営の別の誰かに代理投稿させているイメージを抹殺し、候補者本人が心からのお願いをしているように感じ取ることができます。

実際にアカデミックにおいては、絵文字や顔文字の使用が非対面型コミュニケーションにどのような影響を及ぼすのかについては,これまでさまざまな観点から研究されている。東洋大学社会学部の北村氏と東洋大学大学院社会学研究科の佐藤氏が行った『携帯メールへの絵文字付与が女子大学生の印象形成に与える効果』という研究報告には、“絵文字の付与は,親近感,ポジティブさの印象を全般に増すことが示され,誠実さとていねいさの評定においては,予測していた文体との有意な交互作用が得られた”という調査報告があります。(引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre/17/2/17_2_148/_pdf)

顔文字についても立命館大学人間科学研究所の荒川氏らが研究した『顔文字付きメールが受信者の感情緩和に及ぼす影響受』の中でも“信者が不安、 怒り、悲しみといったネガティブな感情を感じている際には、適切な顔文字を用いる場合の方が 、顔文字を付与しない場合に比べて、 よりネガティブな感情を緩和する効果がある”と報告されています(引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre1993/13/1/13_1_22/_pdf)

ポイント③どの投稿でも候補者のオリジナルハッシュタグを作成  #みんなでいっしょに前へ !#ないとうさわこをかかしていない。

ここで対立候補者であった、遠藤氏のTwitterと比較してみます。遠藤氏のTwitterは2020年1月にTwitterを開設していました。

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前投稿数は134件。選挙期間中のTwitter投稿数は29件。平均RT数は3RT。ツイート履歴を調査すると最も多いツイート数は、1日10件ほどで選挙前は一日平均1ツイートです。

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遠藤氏のSNSのスタイルは、従来の選挙選らしく、写真の撮影に仕方、色合い、文章も非の打ち所がないネット選挙使用です。市の広報課が担当しているような当たり障りのない公共発信に適した文章で、動画のクオリティもアーティストPVのような仕上がりです。このような世界観になるのは、現役市長という立場であるがゆえに公共発信に対する影響はあったようにも考えられます。(※遠藤氏のFaceBookも同様の世界観で投稿しています)

遠藤氏は、FaceBookやTwitterで有権者から寄せられていたコメントやリプライに対して直接的に返事を返しておらず反応がないことが見られました。またFaceBookの投稿にもコメントもたくさん寄せられていたが、いいねだけをして直接的返事をおこなっていません。選挙期間中の優先順位としてはさほど高くないかもしれませんが、有権者の中には、候補者のネットでのコミュニケーションのやりとりの場面を通じて、候補者がどのような人間か、有権者に対してどのように接する人なのかを直視していることを忘れてはなりません。陣営がどのような方針で投稿していたかまではデーター上ではわかりませんが、SNSの特性を活かしきれていないことは勿体ないです。YouTuberの動画に人気があるのは、芸能人でもないけど一般人でもない、どくとくなサムネイルと企画に共感が持てることで視聴者との距離を縮めるものであり、動画のクオリティが高いからと言って、有権者が親近感をもち、それが共感を呼ぶものとは限らないからです。国政選挙だったら、このぐらい公益性が高く国民と距離間のあるイメージの発信が求められるのかもしれませんが、地方選挙になればなるほど、市民への日常生活にどれだけ落とし込んだメッセージを送れるかが重要だと考えています。

ちなみに両者のテキスト分析をみると両者の世界観がよく表れています。文字の大きさとツイート上での出現回数と比例します。

遠藤氏↓

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内藤氏↓

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【最後にまとめと考察】

◆両候補者のSNS活用ポイント

内藤氏➡メイン発信源:FaceBookとYouTubeを活用。YouTubeでは選挙期間中にわかりやすく政策や有権者の疑問を紐時ながら政策をPR。YouTubeのエンゲージメントを見る限りでは、ニーズを察知し有権者の目線に近いメッセージ化を行いました。またGoogle動画検索では、”徳島市長選”のキーワードを入力すると内藤氏の動画で埋め尽くされています。検索した際に、目に止まりやすい検索上位に候補者の名前がありました。

遠藤氏➡メイン発信源:HPを中心に情報を分散。https://endo-akiyoshi.jp/ TwitterとFaceBookはあくまで業務的サブであり、動画は自身の想いとプロモーション動画のみ、政策の具体的内容についてはあまり触れていません。またInstagramも同時に開設されていましたが、ハッシュタグの使用はなく効果は半減していたと考えられます。

(※Googletrendによると以下の検索数結果 赤:内藤氏 青:遠藤氏)

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最後に

この記事では、ネット選挙が直接的に得票数にどのような変数が及ぼしているかは研究段階のため、ここではネット選挙自体の効果性には触れずに、候補者のSNS活用を行うことのみに焦点をあててきました。

(※繰り返しになりますが、ここでの”コロナ対策を踏まえた”としての定義は、ネット選挙活用し外出困難な有権者に情報を発信することを定義しています。またネット選挙自体の効果性や地上戦でのコロナ対策については今回は触れていません。選挙の当落には様々な要因があり、あくまで一つの可能性とご拝読いただければと存じます。両陣営を批判するものではありません。)

日本では元来得票に対しての効果が希薄であるとされていることから、各議員のネット広報戦略の手法にはあまり注目されてきませんでした。ネットだけで選挙に勝てるかというと、そうではありません。選挙においては、地上戦と空中戦を融合させることが重要であり、戦術としてのSNS等の利用を想定しておらずバーチャルの接触だけでは、”ファン”(支持者)はつくれないでしょう。しかし、新型コロナウイルスの影響によって、今選挙のあり方が日々変わってきています。今回のコロナ自粛の中では、外出自粛にあった有権者の立場を考慮した中で接触回数を増やせるかをどの選挙区も日々奮闘しています。ネット選挙を活用することは、不要不及を気をつけている有権者のために今求められていることであり、こうした有権者にとっての利点をさらに考えていく必要があります。事前にバーチャルな接触をすることによって、その後のリアルでの接触の価値が高まる可能性は高いと考えられます。SNSの利活用によっては、直接的に会う時間を短縮できる要素のほかに、会ったことのない有権者との距離を気軽に縮める作用をもつからです。今後も、候補者が有権者にアピールする手段として、これまで以上にネットを使った手法が広く活用されることは間違いないでしょう。

しかし今後の大きな問題として、この緊急事態宣言の中で投票率の低さをどうやってカバーしていくかという問題があります。今回の市長選挙は前回の選挙よりも大きく下回る結果となりました。しかし安倍首相は、緊急事態宣言の中でも、民主主義を維持するために選挙は実施する方針です。(ある意味ネット投票の試験を図るいい機会でもあると思うが。。。)今まで以上に官公庁や政府は、国民に対してアカウンタビリティを果たしながら、合意形成を進めていかなければならない現実があるでしょう。「有権者の視点」に立った施策やサービスを提供するためには、具体的に市民が行政に対して、何を期待し、どんな不満をもっているのかを把握するための対話を行い、相手に応じたメッセージ化を行った発信と分析がそこには必要になるし、オンラインで対応可能な新しい環境整備が必要です。

災害時やこういった緊急事態の中だからこそ、政治家は立場を活かして行政には発信できない注意喚起呼びかけなどを積極的にシェアのお願いするとともに、前向きに情報発信を行う姿勢がさらに広がっていってほしいと感じます。

そして、有権者である我々の中には、今回のコロナショックにより政治は他人事ではないと感じている人たちも多いはず。今は、スマホ一つで気軽に情報を取得し、政治に参加できるサービスもたくさん増えています。政治の自分事化を進める機会としても、政府からの情報に耳を傾けていきましょう。

一日でも早い終息を願って。










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