ゴールデングラブ賞・ベストナイン受賞者発表 "球団史上最遅"年俸1億円到達のスピードスター!

 予想を的中させた競馬ファンに、当たった理由を訊くと「パドックで光って見えた」という答えを聞くことがある。僕は競馬をやらないけど、勝負事は好きなので「当たった」とか「勝った」と言っている人に勝因を訊くのが好きだ。

スワローズファンである僕が、そのチームのファンでもないのに分かったようなことを言うと怒られてしまいそうだが…、以前僕も、ピカピカ光り輝いていたわけではないが、「やけに目につくな」と現地で選手を見て感じたことがある。スワローズが好調な年だったから、たぶん2018年のセ・パ交流戦だったと思う。

 2021年シーズンの交流戦はパ・リーグの6チームと3戦ずつ、計18試合が行われた。ホームで9試合、ビジターでその半分が行われ、神宮球場ではファイターズ、イーグルス、ライオンズとの試合を観ることができた。

 2018年のその日は、神宮球場でのマリーンズ戦だった。日差しが強くて日焼けをしたのを覚えているからデイゲームで、確かレディースデイの開催日だったように思う。

当時の記憶だから多少自分の中でうろ覚えとなっているのが申し訳ないのだが、その選手は打席では簡単に終わらない、塁に出れば足が速い、守備も上手い、走攻守全てにおいて隙がなかった。やたらと目立つというより、気付くと目に入っている…、そんな印象だった。

その日の試合は確か勝ったと思うが、勝敗よりも記憶に残っているのはマリーンズファンの応援だった。ホームのスワローズのピッチャーが牽制球を投げると凄いブーイングが飛んだ。牽制1球目からのブーイングを聞いたとき、正直、「ゾゾマリンには行きたくないな」と思ったのをよく覚えている。(笑)

 試合が終わり、デイゲームで時間が早かったので、外苑前駅までの途中にあるバーに寄った。暑い中での観戦だったので、球場内でも飲んだのにさらに生ビールを飲んでいると、マリーンズのユニホームを着た男性に話しかけられた。観戦を終えてからの他チームファンの方々との交流はとても楽しいもので、ナイターの後に盛り上がってしまい、泣く泣くタクシーで帰ったのは一度や二度ではない。

僕が「荻野っていい選手ですね」と言うと、ほろ酔いの彼は"わかってますね"とばかりに僕の肩をポンポンと叩き、「お兄さん、渋いですねー!」と嬉しそうに言った。

このような場では、相手チームの選手を悪く言うようなことはなく、「〇〇いいっすね!」「〇〇怖いですわ」「あんな選手羨ましいですよ」という会話が大半なので聞いているときも言っているときも気持ちがいいものだ。東京に遠征に来たファンの方からは、極々たまに「名古屋でヤクルトの〇〇と飲んだんですよ」なんて話を聞けることもあった。そんなレアな話を聞けたときは、凄く得をした気分になる。

 

 セ・パ両リーグのゴールデングラブ賞とベストナインの受賞者が先日発表された。我が愛するスワローズからはゴールデングラブ賞に捕手の中村悠平選手、ベストナインには同じく中村選手、二塁手で山田哲人選手、三塁手で村上宗隆選手、外野手で塩見泰隆選手が選ばれた。

 日本一となったチームの中心として、一年間活躍してくれた4選手がベストナインに選ばれて嬉しく思ったが、ゴールデングラブ賞に関しては、また山田選手は受賞とはならなかった。カープの菊池選手の壁は高い。菊池選手が動けなくなるまで待っていたら、山田選手はいくつになってしまうのか…。ここまで長きに渡り阻まれると相手の衰え待ちみたいになってしまうから怖いものだ…。いつか必ず超えてくれることを、また期待しよう。

 これらの賞が発表されると、自分なりのベストナインを考えてみたりするのが毎年楽しい。今年はチームとして最高の形で一年を終えられたので、マイベストナインはいつも以上にスワローズの選手ばかりになってしまうが…。

 そんな中、二つの賞のパ・リーグ外野手部門を見てみると、ベストナインには選ばれなかったがゴールデングラブ賞にマリーンズの荻野貴司選手が選ばれていて一気にあの日の記憶が蘇ってきた。グラウンドを翔ける荻野選手と、マリーンズファンの彼の笑顔、そしてマリーンズファンのビジターとは思えない強力なブーイングが頭に浮かんだ。

あの時バーで、彼は僕に対して「渋いですね」と言ったが、調べてみてその意味が少し分かった。荻野選手は2009年ドラフト1位指名、12年目のベテラン選手だ。2018年当時でもそこそこキャリアがあったし、快足・攻守で魅せる選手だったからそう表現をしたのだろう。

2019年にはゴールデングラブ賞とベストナインを同時受賞しているが、この時に何故荻野選手を思い出さなかったかは、一昨年のスワローズの成績を思い出せばすぐに理解できた…。一丁前にいじけて野球から逸れていたのだろう。2020年にも地獄を見るとも知らずに…。

 

 "渋い"とか"いぶし銀"という呼び方は若い選手にはあまり使わないだろう。年齢と共にパワーやスピードが落ちてくるのは仕方のないことで、だから技術を上げ、そう讃えられるのだと思う。派手に活躍をする選手にはあまり使われない表現だ。

しかし、今シーズンの荻野選手の記録を見たらそんなことは言っていられない。169安打で最多安打賞を受賞。そして24盗塁で最多盗塁のタイトルも獲得した。ライオンズの源田選手、マリーンズの和田選手、ファイターズの西川選手、若きスピードスターたちと並んでの同時受賞となった。

走塁がいかに大変で、走り続けることがベテランになるほどどれほど過酷かというのは、現役でもOBでも多くの人が言っているのを聞いたことがある。このメンツに割って入り、滑り込んだ荻野選手は、全く地味なはずがなく、むしろド派手だ。生年月日を見て改めて驚いた。

 

 荻野選手の話題で盛り上がったあの日の彼も、まだ野球が好きでマリーンズが好きで、中村奨吾選手のゴールデングラブ賞・ベストナイン同時受賞も合わせて喜んでいてくれたら嬉しいなと勝手に思っている。

 守備率1.000・無失策という記録はゴールデングラブ賞を受賞したことで目に付く機会が増えるだろうが、"643打席"という数字が両リーグでトップであることは今後どのように知られていくのか…。36歳にして荻野選手は誰よりも多くバッターボックスに立った。

"フル出場・全試合で1番打者を務めた"これがなければ643打席という数字を積み重ねることはできなかっただろう。ベテラン選手が怪我をせず、一年間活躍し試合に出続けた。同年代の僕には、どんなタイトルより賞よりもこれが一番輝いて見える。


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