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20230219広島旅行

 今日は朝から小雨が降っている。全国の天気予報によると、関東を除いてどこも天気が悪い。どこかへ行きたかったが、この天気ではと思った。ふと、天気が悪いのなら大和ミュージアムはどうだろうと思った。天気が悪くてもミュージアムの中なら関係はない。午後からは持ち直すようだ。呉の大和ミュージアムを見て、それから尾道を見て帰ってこようと計画を立てた。
 朝、6時頃に新神戸から新幹線に乗る。姫路まで在来線で行ってから新幹線を使ったほうが安いのではないかと調べたが料金にほとんど変わりはなかったので、鼻から新幹線にした。駅の南側、神戸の街は雨に濡れている。姫路、岡山、福山ときて、広島に停まる。広島で降りて、山陽本線に乗り換える。どんより曇った空の下、私が乗ったのは古い赤い色の電車だったと思う。数年前まで大阪環状線でも同じような電車、ただし緑色だの黄色だのの電車が走っていた。少し古い型の電車だろう。もしかしたらすごく古い電車かもしれない。広行きに乗る。普通電車で45分ほど。その間、車内アナウンスで何度も「この電車は広行きです」という言葉を聞いた。ひろゆきという人がyoutubeなどですっかり有名人になっているので「広行きです」という言葉が自己紹介の言葉のようで少しおかしかった。
 沿線は途中から瀬戸内海に沿って走ることになった。雨に濡れてはいるが島々を浮かべた内海は美しかった。
 呉到着。駅の電車の発着チャイムは「宇宙戦艦ヤマト」だった。この街には海上自衛隊の呉基地がある。そして呉と言えばかつての大軍港であり、戦艦大和は呉海軍工廠で建造された。呉はだから戦艦大和の町である。駅を出て大和ミュージアムへ向かう。ずっと屋根付きの歩道橋のようなものを歩いていった。駅から直接雨に濡れずに行けるようになっている。今日のような日は助かる。途中ショッピングセンターの中を通り抜けた。レストランも入っているようなので後でここで食事を取ろうと思う。通り抜けるとミュージアムが見えてきた。その道路を挟んだ反対側には大きな潜水艦が展示されていた。てつのくじら館、海上自衛隊呉資料館の展示物のようだ。




 そして呉港にはとても大きな変わった船が停泊していた。

無料休憩スペースがミュージアムに入る手前にある。その中で少しお茶を飲み、それからミュージアムに入館した。入館料は500円だった。中に入り、まず企画展を見る。企画展は戦艦にまつわる小説などを書いた作家を紹介するものだった。「戦艦大和」の吉田満、「軍艦長門の生涯」の阿川弘之、「戦艦武蔵」「陸奥爆沈」の吉村昭。三人の作家が細かく紹介されていた。作家の人生というのは面白いものだと思った。戦艦大和の生き残り、吉田満は、戦後すぐに「戦艦大和」を書き上げる。しかしGHQの検閲などありなかなか出版できなかったようだ。彼は専業作家ではなく、銀行で働いている。阿川弘之はその書斎が再現され、遺品などが展示されていた。彼の小説「軍艦長門」が紹介されていた。長門は八八艦隊構想の旗艦として建造され、国民的に非常に認知度の高い戦艦だった。そして第二次大戦を生き延びた唯一の日本艦隊だったそうである。だが、戦後はアメリカ軍に引き取られ、核兵器の実験のために使われ轟沈したようだ。吉村昭は「関東大震災」を読んだことがある。「戦艦武蔵」の作者だが企画展では戦艦陸奥がクローズアップされていた。戦艦陸奥は呉の近くの柱島で停泊中に原因不明の爆発事故を起こし爆沈したそうだ。事故調査により原因が乗務員による故意の爆発だった可能性があるとの見方もあるそうである。
 この企画展は面白かったが、常設展はそれほど私にとって興味のある内容ではなかった。元々、戦艦にも戦闘機にも戦車にも興味がないのだから仕方がない。資料は豊富で、説明も丁寧だった。興味のある人が行けば十分に楽しめると思う。映像による解説も豊富だった。明治維新、横須賀、舞鶴、佐世保とともに一大軍港となった呉の歴史。時代背景などが丁寧に説明されている。戦後は戦中に培われた技術力を生かして工業都市として復興していく。そんな感じだった。
 途中トイレがなかった。私は興味が薄かったので1時間ほどで出たのだが、好きな人は2時間も3時間も楽しめるところだろう。しかし展示を回る順路の途中に腰を下ろせる場所はあったが、トイレがなかったように思う。あれは少し不便だろう。
 ミュージアムを出て、ショッピングセンターに入る。ショッピングセンターで食事をし、駅に出て、また広島行きの電車に乗る。少し新しいタイプの関西でもよく見かける電車だった。宇宙戦艦ヤマトのテーマ曲が流れ、出発し、次の次の駅かでもなんだかアニメっぽい曲のテーマが流れていた。何かのアニメの聖地なのかもしれない。よく知らないが。


 広島に着く。
 広島市は何度か訪れている。だから広島市内の観光は今回はいいやと思っていたが、次の目的地である尾道に泊まる新幹線はこだましかない。こだまは1時間間隔のようで次の便まで少し時間が空いた。原爆ドームを見て帰ってきても間に合うかもしれないと思い、駅を出て、バスに乗った。結果から言えば全然間に合わなかった。記憶していたよりも平和公園も原爆ドームも駅から離れていた。バスは平和公園に留まった。丹下健三の平和記念館を見る。中を見る時間はない。原爆ドームに歩いていく。外国人観光客が慰霊碑で写真を撮ったり、手を合わせたりしている。私も手を合わせ、それからまた原爆ドームに向かった。

 原爆ドームについても原爆の被害についても私は何も語ることはできない。私は時々Twitterに「日本も核武装したほうがいい」と書いてしまうような人間だ。基本的に私は、再分配の拡大を支持し、労働運動を支持し、格差是正と温暖化防止を支持する左翼である。選択的夫婦別姓も支持だし、LGBT法案も支持である。昨今話題のCOLABO問題でもCOLABO側支持である。でもただ二つ、原発推進と防衛費増額及び改憲については私は左翼政党と意見を同じくしない。しかしそんな私でもこの場所に立つと神妙な気持ちになる。「日本も核武装したほうがいい」などと考えることが後ろめたいことに思えてくる。
 もうこれ以上原爆ドームについては書かない。
 広島駅を2時過ぎのこだまで経った。新尾道まで案外時間がかかった。こだまは途中駅でのぞみやひかりに道を譲る。そのためにここで7分、次で8分と割と停車時間が長くなる。
 新尾道で降りて調べると尾道の観光の中心地までいくバスは25分後だ。歩いても30分。歩いて行ってもバスで行っても到着時間は変わらないようだから歩こうと思った。ちょうど雨も止んでいる。尾道の観光の中心地、千光寺公園まで歩いた感想だが、脚力に自信のない人はやめたほうがいい。3キロほどの道のりだが坂の町だけあって起伏がある道のりだった。途中歩いていて眺める景色もそれほどいいものではない。ただの地方都市である。途中で1箇所展望台があったが展望がひらけているだけで、特に美しいわけではない。市街地が遠望できるだけだ。
 途中で小高いところから犬が私をじっと見ているのに気づいた。野犬だろうかと思った。しばらく無視して歩いて振り返ると犬はまだじっとこちらを見ている。嫌な気分だった。30分ほどで千光寺公園についた。駐車場にはたくさんの車が止まっていた。人も多い。人気の観光地だ。若者が多いように感じた。女性が多いように感じた。大和ミュージアムとは対照的だ。あちらは中高年が多かったし男性が多かった。しかし何より尾道はカップルが多い。嫌な雰囲気だ。
 駐車場から坂道をさらに登って眺望のひらけた広場に出る。いくらかけて作ったのかわからないが立派な展望施設があったのでそれに登ってみた。市街地の向こうに瀬戸内海の島々が広がり美しかった。なかなかいいと思った。
 展望台を降りて、文学の道とかいうのを歩いた。ところどころにというか非常にたくさん尾道にまつわる作家や俳人の碑が立っている。覚えているのは林芙美子、正岡子規、徳富蘇峰、志賀直哉。正岡子規は尾道の句をいくつか読んだようだ。碑に刻まれた文字だけではわかりにくい。隣に説明がきがあった。そこに若い頃の子規の写真が載っていた。いつも死の少し前のような時期の写真しか見たことがないので新鮮だった。道は舗装されておらず狭く、ぬかるんでいて少し歩きにくかったが、道を両側にある苔むした、そして風化されて角の取れた巨石の数々が苔の落ち着いた緑の色をして美しかった。巨石同士がもたれかかって間にトンネルができたところをくぐり抜け、時々、巨石の向こうに瀬戸内海を見つつ歩くうちに千光寺の境内についた。斜面の巨石群に張り付くように立つ本堂など趣のあるお寺だった。お参りをした。200円出して線香と蝋燭を買って、お供えし、手を合わせてさらに50円お賽銭をした。周りを眺める。やはり若い人が多い。女性が多い。尾道は多くの映画や小説、ドラマの舞台になってきた。でも私の覚えている限り、その最新のものは10年近く前のアニメ「時をかける少女」だったのではないかと思うのだが、それを見た世代が来ているのだろうか?しかしあのアニメは女性向けというわけでもない。さらに前にはNHKで「ふたり」という尾道を舞台にしたドラマがあった。石田ひかりだか石田ゆり子だかどちらか忘れたが、どちらかが主演をしていた。もう一人中嶋朋子が出ていた。私は中嶋朋子のファンだった。あれは20年以上前の作品のはず。来ている女性は若く見えるがもしかしたら単なる若造のおばさんなのかもしれない。私自身が五十を超えたので、もう女の人を見ても20代なのか30代なのかそれとも40代前半なのか年齢がよくわからなくなっているのかもしれない。それでも尾道はいい、そう思った。



 千光寺をすぎてさらに降りていくと、何かしらの団体がドローンを飛ばして撮影していた。ブーンという音が響いていた。ドローンというのは雄蜂という意味らしい。あのブーンという音が蜂の羽音に似ているからドローンと呼ばれるそうだ。少し降りると趣のある喫茶店があった。大正時代くらいの古い建物のようだ。古びた黒い瓦もくすんだ白い壁もいい味を出していた。さらに降ると三重塔があった。その周りに猫がたくさんいた。猫を撮影する人がいた。そういう名所になっているのかもしれない。その下に外から見ただけでは何かわからない建物があった。随分と古い。旅館っぽかったが見える窓の中には本棚が並んでおり、図書館のようでもあった。案外漫画喫茶か何かかもしれない。


 下まで降りた。そこから随分歩かされて尾道駅に出た。尾道駅から福山へ出て、そこで新幹線の乗り関西に帰って行った。

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