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[書評]立ち食いって難しくない?

こんにちは!夏木ノキ(@yuugiri_104)です。

のっけからアレなんですが、「立ち食い」って難しくないですか?
立ち食い飲食店ってなんか殺伐としてるし、地域が変わると流儀も雰囲気も全然違う。「気にはなるけどなんとなく入りにくいなあ。まあ今日も牛丼でいっか……」みたいな経験をしたことがある人、結構多いんじゃないでしょうか。

そんなことを改めて思ったのは、『望星』2018年5月号(東海大学出版部)の特集「立ち食い行進曲」を読んだからなのです。
その特集は、こんな感じの記事と執筆陣でした。

東海林さだお「これが立ち食いそばの世界だ!」
原田信男「屋台・料理屋の発達を促した江戸時代」
今柊二「街の空気とともに食べる醍醐味」
鈴木弘毅「『駅そば』は方言同様、個性豊かなのです」
編集部「〈座談会〉我が立ち食い人生に悔いナシ!」
〈ミニコラム〉
川合登志和「〈名古屋 立ち食い事情〉本当に立ったまま食べるのか?」
川村屋・笠原成元「駅そばは奮闘し続ける」
RHYTHM AND BETTERPRESS「肴は活版印刷機がいい♪」

そうそうたる顔ぶれですね。やっぱりこの手の特集では東海林さだお氏は外せないでしょうか。原田信男氏はれっきとした生活文化史の研究者で、流石に読み応えがあります。桜木町駅「川村屋」社長のインタビューも面白いし、変わり種の立ち食い店「RHYTHM AND BETTERPRESS」が紹介されているのも良いですね。
また、鈴木弘毅氏は自らの調査に基づいて関東と関西の駅そばを比較していて興味深いですし、さらに川合登志和氏のミニコラムでは名古屋の立ち食い事情が報告されています。これらを合わせて読むことで三地域の違いがたちどころに把握できます。

そんな中、ぼくの目を引いたのは、「立ち食いそばの難しさ」を強調していた、東海林さだお氏の記事でした。

立ち食いそばの難しさ

東海林さだお氏「これが立ち食いそばの世界だ!」は編集部とのインタビュー記事。『偉いぞ!立ち食いそば』(文藝春秋)で行った「富士そば」全メニュー制覇の話題を軸に、話が進んでいきます。

その中で東海林氏が繰り返し言っているのは、立ち食いそばは難しい、ということ。氏が語るこの感覚は、立ち食いそばが万人にウケない理由を考えるうえで大きなヒントを与えてくれている気がします。

例えば、立ち食いそばでかけそばを頼めないということと、食べているところを見られると上司は威厳を失う、ということ。これらの感覚はどちらも「貧しいな」と思われるだろう、というところに端を発しています。
さらに、立ち食いそばファンは立ち食いそばに通っているとバレたくない、という例も紹介されていました。これもまた、「値段の安い飯屋に通い詰めている」というところに気恥ずかしさを感じるからではないでしょうか。

立ち食いそば店では、中に入ってしまえば、客同士あんまり喋らないということ以外に特にルールなどなく、好きに食べればいいし「ごちそうさま」も言わなくたって構わない。だから別に何を気にする必要もないのだけれど、やっぱり人の目が気になっちゃうんだな。

「一人で飯屋に行くなんて寂しいヤツ」とか「金無いんだなあ」なんて、人に思われたって何でも無いんだけど、でも思われたくない。そんな虚栄心が、人を立ち食いから遠ざけるのでしょう。だから、立ち食いそばに何でも無い顔をして入っていく人は通に見えるのかな。意外とビクビクしながら入ってるかもしれないのにね(笑)

牛丼チェーン店の入りやすさ

似たようなことは牛丼チェーン店にも言えると思うんですが、決定的に違うのは、

① 外から中の様子がよく見えるようになっている(照明もとても明るい)
② 明瞭な注文形態
③ ローカルルールがない

という点じゃないかなあと思っています。

最近思うのですが、牛丼チェーン店の照明ってとっても明るい。しかも外から中の様子がよくわかるから、入店するハードルってめちゃくちゃ低い気がします。
ただ、この点については大手立ち食いそばチェーン店や駅そば店もわかってきていて、入りやすい店舗になるよう工夫することで、女性客や若い客を呼び込むことに成功しています。

さらに、牛丼チェーン店はどこへ行っても同じメニュー・形式で初めての店舗でも何も迷わない
立ち食いそば店も食券形式を導入しているところは比較的わかりやすいのですが、それでもなんだかトッピング別に色々種類があって迷う。
最悪なのは、立ち食いそばのキャッシュオン形式(注文の品とお金を直接手渡しで交換する形式)。これは味があって大変好ましい形式なのですが、慣れていない人だと大いに戸惑うでしょう。
些細なことですが、昼飯に余計なストレスを感じたくないですよね。この当たりは、牛丼チェーン店に一日の長があると思います。

そして、厄介なのはローカルルールの存在。しかし、前にも書きましたが、実は立ち食いそばには特殊な流儀はないと言って良いと思います。
普通に入って普通に食べれば良い。戸惑っていると店員が教えてくれたりもします。
一番面倒なのは、この初心者お断り的空気がチェーン店にも漂っていることがあること。これってなんでなんですかね……。店の様子がくたびれているように見えるからかなあ。
この辺りはもうちょい考えたいですが、それはともあれ、牛丼チェーン店にはローカルルールなんて皆無です。コの字型の席になっていることが多いから、前に座っている人と目を合わせることさえしなければ、気まずい思いなんて全然しなくて良い。
そんな心理的障壁の低さが、牛丼チェーン店の良さですよね。

さて、ここまで牛丼チェーン店は多くの立ち食いそば店と違って、入店・注文・食事の全てに渡ってハードルが低いことを述べてきました。別に牛丼チェーン店に勝つ必要はないのですが、せっかくだから立ち食いそばの楽しさに多くの人が気づいて欲しいなあって思います。
こういう理由で今まで立ち食いそばに行けていない、という方がいたらぜひ勇気を出して入ってみて欲しいです。

これから寒くなるし、そば食べて温まろう!

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