月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第16回 企業の設備投資

月刊「まなぶ」2024年4月号所収

景気を左右する設備投資動向

 設備投資というのは、一般的には企業による建物や設備、つまり、生産手段の購入を指します。企業にとって事業活動を行うのに欠かせないものであり、企業のバランスシートの資産(※1)の大きな部分を占めるものになります。設備投資を行うかどうか、どのような設備投資を行うべきかを決定することは、企業の重大な意思決定になり、収益性を決める元になるとも言えるでしょう。

 資本主義経済において景気循環を引き起こす大きな要因は、設備投資の変動です。企業の設備投資は各企業が収益性や需要動向を予想して行うものです。それ自体は長期的で計画的なものだと言えます。しかし、経済全体で見ると、じっさいには循環的な変動をしていることが観察できます。

企業の投資のもう一つの在庫投資も景気変動の要因になりますが、設備投資に比べるとその影響は小さく、短期的なものだと言えます。

 設備投資には大きく建設投資の部分と機械設備の部分とに分けることが可能です。建設投資の場合には、一度建てた工場やビルの耐用期間は長く、数十年と考えることができるでしょう。これに対して機械設備の場合は10年程度で更新されることが多く、コンピュータなどは進歩が速いため、短い期間で更新されていくことが普通になってきました。

投資循環のメカニズム

 景気が良く需要が大きい場合、企業 部門は設備投資を増やし、生産能力を積極的に増やしていきます。その結果、需要の増加を上回る能力の増加が起き、需要の増加に比べて生産の増加を抑えなければならなくなります。

 設備投資を行えば全体の生産能力は高まりますが、その伸びには限界があります。生産能力を増やすための設備投資自体が限界に達するのです。また、労働力にも限りがあります。好景気になると、雇用が増え失業が減り、失業率が下がりますが、失業率がマイナスになることはありません。労働力が不足してくると賃金に上昇圧力がかかります。企業収益が削減され、設備投資を控え出すというメカニズムが働く場合もあります。

企業部門が設備投資を減らそうとすると、産業連関(※2)を通じて多くの部門で設備投資の削減につながり、さらに需要全体の減退を引き起こします。その過程では遊休設備が発生し、さらに設備投資が減り、生産の減少が起きます。こうした不況局面をストック調整期と呼びます。

設備自体の耐用期間の経過も能力の減少、あるいは更新の必要につながります。その結果、かなり大きく生産を削減したところで、生産能力の十分な減少に達し、次第に生産を回復させることができるようになります。これが設備投資の循環のメカニズムです。

 建設投資と機械設備投資では耐用年数にかなりの開きがあるため、じっさいの設備投資循環は、この2種類の期間の違う波が絡み合ってやや複雑になっているのが現実です。 

日本の設備投資動向

 さて、日本における企業の設備投資はどのように推移してきたでしょうか。

 戦後の高度成長期においては、設備投資のGDP比率は20%を超える時期もありました。1961年、1971年は20%超えるブーム期でした。そして1980年代後半のバブル期にも設備投資は大きく盛り上がりましたが、61年、71年を超えることはありませんでした。その後は長期の停滞期に入ったわけですが、徐々に回復している様子が図に現れています。

 国全体の設備投資の水準が適切であるのかどうかの判断を行うにさいしては、長期的な成長率と設備投資による生産能力の増加との間のバランスが取れているかどうかという観点が大事です。設備投資は更新投資の部分も含むので、能力の拡大につながる部分は、設備投資から減価償却(固定資本減耗ともいう)を差し引いた純投資で捉える方が良いでしょう。

 日本の場合、近年の減価償却費の増加は大きく、純投資の水準はかなり低いままでした。非金融法人企業で見ると、2022年の設備投資(固定資本形成)は97兆3416億円でしたが、減価償却(固定資本減耗)は93兆6944億円で、純投資は3兆6472億円でした。実質ストックの伸び率は前年比0・3%にとどまっていました。

 今後の景気動向を見る上で、ストック調整が起きるかどうかは、実質ストックの増加が過大になってくるかどうかがキーポイントなるでしょう。

 

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