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ニューヨークで1日目のレコーディングを終えて

ただいまニューヨークは4/30(日)
4/19(水)に到着して11日が経過した。
その間に4回の世界的サクソフォニストとのリハーサル、1回のレコーディングを通して大量の気付きがあったので感じたこと起こったことを乱文ではあるがまとめておきたい。

演奏メンバーについて

今回の渡米の目的の一つにジャズジャイアンツと宮嶋みぎわサックス四重奏曲をレコーディングするという予定があった。
みぎわさん監修の元、共演したいミュージシャンとレコーディングの曲数とスケジュールを調整し、二つのサックス四重奏グループが形成された。

一つ目のカルテットは
S.Sax : Dick Oatts(ディック・オーツ)
A.Sax : Naomu Soeda(副田整歩)
T.Sax : Ron Blake(ロン・ブレイク)
B.Sax : Carl Maraghi(カール・マラギ)

二つ目は
S.Sax : Steve Wilson(スティーブ・ウィルソン)
A.Sax : Naomu Soeda(副田整歩)
T.Sax : Quinsin Nachoff(クインシン・ナチオフ)
B.Sax : Carl Maraghi(カール・マラギ)

作編曲・コンダクターにMigiwa Miyajima(宮嶋みぎわ)

もしここに記載された面々を知らなければそれぞれの名前でググっていただきたいが、全員が凄まじい演奏能力のお化け、信じられない経歴の持ち主、世界のA代表のその中でもトップオブトップである。

彼らとのファーストインプレッション

私が初回のリハーサルに臨んだ時、彼らの音の大きさ、表現の熱量に圧倒された。
いくら頑張って吹いていてもアンサンブルの中で自分の音が居なくなってしまうように感じるほどだった。
実際に俺の音だけ小さいとみぎわさんから言われた。
私はもともと大きい音を出すスタイルではないが、日本で多くの現場で仕事をしてきて音が小さいと指摘されることはなかった。
しかし、彼らの中に入るとかき消されて”いなく”なってしまう。

しかも彼らの音は大きいのに歪んでいない、非常に豊かで太くあたたかい。一般的に音量を上げていくと倍音を含んでザラザラジリジリした音色に変化していくのだが、彼らの音は音量は非常に大きいのに対して音色は柔らかい。
そのため音色面では大きく聞こえないというあまり体験したことのない感覚だった。

このような状況で一週間後にレコーディングが迫っており、彼らの音の出し方を可能な限り解明し同じベクトルでアンサンブルするために彼らの音から感じ取ったことを奏法に取り入れる日々がはじまった。

演奏面で変えたこと

まずリードを変えた。
レコーディング用にアルトはBoston Sax Shopの3を用意していた。
非常にクリアに良く鳴る品質も安定している銘柄だ。
演奏しやすく繊細なコントロールも容易なので気に入っていたのだが、彼らのアンサンブルの中では音のズ太さと響き・空気感が不足していると感じた。
そこで日本から持ってきたD'addario Select Jazz unfiled 3Mを試した。
音色的には良い感じになったパワーが不足したので、プリマ楽器経由で米D'addario Woodwindsから送っていただいたSelect Jazz unfiled 3Hが現時点でのベストチョイスとなった。
リード自体に音色の豊かさがあり、自分が楽器に送り込むエアのパワーを十分に受け止められるだけのキャパシティ(硬さ=重さ)のリードにすることで腹筋のパワーをしっかり楽器側が受け止められるセッティングになった。
マウスピースはセルマーのヴィンテージソロイストショートシャンクのオープニングDである。

奏法面でのアプローチ

そして奏法については、彼らのサウンドが大きいのに歪んでいない点に着目した。
経験上、力ずくで大きい音を出そうとすると音が歪みノイジーになって逆に鳴らなくなってしまうという認識があった。
しかし彼らはそういったノイジーさを感じなかったので、驚くほど力まずに想像を超えるリラックス状態で超効率的に音を出しているという仮説を立てそれを指針に準備をはじめた。

まず効率的に音を出すためには当然だが倍音練習。
管楽器を演奏する際の体内部で行われていることは外から見えないが非常に重要な要素であることは熟練の奏者なら誰もが知っていることだと思う。
その最適化を行うのが倍音練習だが、ただ同じ運指で倍音列が出せれば良いだけではない。
常にオープンで豊かなサウンドを出すことに注力して、今までよりも上の精度を目指した。
この練習は短期間で成果を出すようなものではないが、ずっと続けている練習なので彼らのサウンドを頭に描きながらこの練習することは非常に意味のあることだった。
倍音練習は下のテキストを使っている。

加えてリードを口で締め付けないために練習中はダブルリップ奏法を取り入れた。
あとジャズジャイアンツたちの演奏中の下半身が、まるで武道家のような絶対的安定感であることに着目して、姿勢と腹筋・丹田周辺の使い方も調整。
下半身を安定させた上で倍音練習とロングトーンで喉・口腔内の最適化を行い、ダブルリップでリードの振動を最大化することを試みた。

これらの準備をしてサウンド面での差を縮めることができたという認識を持ちつつ、しかし挑戦者のつもりでレコーディングに向かった。

レコーディング当日に感じたこと

スタジオに演奏メンバーのディックオーツ氏、ロンブレイク氏、カールマラギ氏が揃ってサウンドチェックがてら吹き始めた瞬間、リハーサルとは全く別次元の気迫、熱量に吹き飛ばされそうになった。
四人でアンサンブルしているのに個々の存在感が半端ではない。
誰も良い意味で他者に合わせない、自分の音で、自分の表現に責任を持って、全集中して、信じられないほどの熱量を音一つ一つにブッ込んで、そのまま倒れてしまうのではないかというぐらい真っ赤になりながら演奏するのだ。

その時に自分の間違いを完全に理解した。
”うまくやろう”としていたのだ。
彼らの気迫の前では、その程度の演奏に対する姿勢では消えてなくなってしまうのだ。
心を全開にして湧き上がる感情を爆発させてうち震えながら全力で叫び続ける、そんな感覚で演奏できるようになった頃、彼らと同じところに音を並べることができたように思う。

そして彼らがすごいのは(みぎわさんの譜面が無茶苦茶難解なのにも関わらず)基本的に間違わないし音程もズレることがなくハモらない瞬間なんて全くないことだ。
そして誰もが独自の感性を全力で表現していてとにかく熱量がすさまじい。
リハーサル時点で凄い演奏がレコーディング当日でもう一段も二段もパワーアップするとみぎわさんから聴いていたが正直これほどまでとはという感覚だった。
誰かと合わせようとか、良い塩梅に落とし込もうとか、作為的なレベルでは到底追いつけない、且つ演奏時に自分のMAX以上の感情的な熱量を注ぎ込まないと彼らとのアンサンブルは成り立たないのだ。
(音量の話ではない。感情の話だ。)

↓はレコーディング時の全ての項目を録り終えた瞬間の映像。
iPadで収録したブース内部のリアルな音を聴いてほしい。

とりあえず本日のnoteはここまで。
最後までお付き合い感謝。
また思いついたことは今後書いていこうとおもう。

みなさま良いGWを!

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