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放浪者のモチーフ考察[原神]

今回は放浪者のモチーフ考察を行いました。
日本の伝統芸能である能の要素が全面に出たキャラだと思います。
彼の命の星座は、1つの劇を表します。

名前

形骸(人形時代)
聖遺物である華館夢醒形骸記に、形骸(人形)としての話が載っています。
形骸とは、精神や生命を別にした体や骸のことで、人形として捨てられた時を表した名前だと思います。

傾奇者
歌舞伎者と書くこともあります。戦国時代から江戸時代初期にかけて、一風変わった派手な身なりをし、普通ではない行動をする者のこと。溢れ(あぶれ)者を意味する言葉でもある。

国崩
歌舞伎の役柄の一つ。
国を転覆させて手に入れようとする悪人を意味します。

散兵(スカラマシュ)
軍隊に所属している兵を散りじりにすること。
軍隊=ファトゥスだと考えられますね。

天賦

・通常攻撃「幡舞鳴弦」は神楽(神に捧げる舞)の名前から来ているようです。

幡舞…六本の旗を使い平和を祝って舞う神楽。
鳴弦…穢れ(けがれ)を払うために、弓弦に矢をつがえず弦を引き鳴らすこと。

・元素スキル「風姿華歌」は能楽(こちらも神事と芸能を合わせた舞を含む劇)の書「風姿花伝」から来ているようです。

・元素爆発「狂言・式楽伍番」は名前の通り能楽(能と狂言)の上演形式五番立から。

・固有天賦「拾玉得花」は風姿花伝と同じく能楽の書「拾玉得花」から。

・固有天賦「夢跡一風」は能楽で有名な世阿弥が後継を亡くした悲しみを書いた文「夢跡一紙」から。

・固有天賦「廻色雲弦」は島廻色為朝 (歌舞伎の外題)+源氏雲弦月(江戸時代の小説)を組み合わせたものだと思います。

いずれも日本の伝統芸能に関するものが多く、中でも能に関係するものの割合が高いです。

命の星座

放浪者の命の星座は1つの劇(能)となっています。

前提知識

〈放浪者の凸効果の名前〉
① 初番・茂風流羽行
② 弐番・箙島廓白浪
③ 参番・久世舞夕顔
④ 肆番・花月歌浮舟
⑤ 末番・今昔渡来殿
⑥言祝・霞幕傾松風

能の舞台では、
一日の一番目に演じられるものを一番目物、二番目物、三番目物、四番目物、五番目物…という順に数えていき、この「五番立て」の後に祝言能をします。

放浪者の命の星座の最初の2文字はその流れを表します。

さらにもう一つだけ知っておいてほしい前提があります。能において、

①神(脇能物 )
②男(修羅物 )
③女(鬘物)
④狂人(雑能物)
⑤鬼(切能物)

というように主人公が一番目物から五番目物まで変化するということです。

1凸 初番・茂風流羽行(一番目物・脇能物)

一番目物は神の物語です。

舞台上映前に神聖な祈祷が行われ、脇能物(神が主人公の話)が演じられます。

「茂」は一番目物として能で演じられる加茂の事だと思われます。

加茂…神が白羽の矢を立てた女性が急に子を産み、生まれた子が3歳になった時、「父はこの矢である」と言いだした。すると矢は雷神に変わった。神=雷電影、子=放浪者。

金色の羽をつけています。

「風流」とは風流能という、脇能物の前にある神への祈祷のことです。

「羽行」とは何でしょうか。
英語版だとOstentatious Plumage(派手な羽)という名前になっているので、放浪者が胸元につけている金色の羽のことだと思います。

これは影からもらった物であり、聖遺物でもストーリーが語られています。

「茂」も影から生み出された話を表すようなので、

影に捨てられた(と感じている)時の出来事が、
この一番目物(1凸)の名前になっているのだと思います。

2凸 弐番・箙島廓白浪(二番目物・修羅物)

二番目物は男の物語です。

「箙島廓白浪」は能の二番目物である「箙」と歌舞伎の演目「都鳥廓白浪」を合わせた名前だと思います。

箙…一人旅の僧侶と、亡くなった武士の物語です。

都鳥廓白浪…仕える家の嫡男をそうとは知らずに殺してしまった男が、罪悪感から代わりにもう一人の跡継ぎに殺される物語です。
誤解から始まる悲劇です。主人公はずっと真実を知らずに誤解し続け、真実に気がついた時に死ぬことになります。

能と歌舞伎、どちらも死を連想させる話になっています。

大きくストーリーが似ているわけではありませんが、丹羽の物語をここと少し関係させているのかもしれません。

二番目物は修羅の道に落ちて苦しむというのが定番なので、修羅物と呼ばれています。

3凸 参番・久世舞夕顔(三番目物・鬘物)

三番目物は女の物語です。
原神では女ではなく名もなき少年との物語に置き換えられています。

「久世舞夕顔」は
久世舞(能に取り入れられた歌舞)と

能の三番目物にもなっている源氏物語の夕顔のエピソードを合わせたもの。

源氏物語の夕顔は、名も知れぬ美人な女性でした。
主人公の光源氏は、夕顔と共にいたいと考えるようになりますが、夕顔は物の怪にやられて簡単に死んでしまいます。

この夕顔が亡くなった少年に見立てられているようです。

4凸 ④ 肆番・花月歌浮舟(四番目物・雑能物)

四番目物は一般的に狂人の物語を表します。
精神が揺れ動き、苦しみ狂う物語が語られることが多いです。

「花月歌浮舟」は能の四番目物とされる花月と、同じく能で四番目物とされる、源氏物語の浮舟のエピソードを合わせた物です。

花月…生き別れた父子が再会するまでの苦悩が演じられる。

浮舟…二人の男性に迫られて、浮舟は苦悩した末に自殺しようとする(ギリギリ命は助かりました)。その後、僧に拾われ、出家して仏教の信仰に励みます。

苦悩が襲ってきて大変な場面ですが、
おそらくファデュイに入った頃がここに当たるのかと思います。

5凸 ⑤ 末番・今昔渡来殿(五番目物・切能物)

五番目物は鬼の物語です。鬼畜物とも言い、フィナーレを意味します。

名前の通り、鬼が出てきます。鬼退治です。

今昔…今昔は恐らく、今昔物語からとってきています。五番目物に今昔物語を参考にした羅生門の話があるので…。

渡来殿は渡来+来殿(来殿は能では五番目物として演じられています)
渡来は外国から海を超えてやってくることを意味するので、鬼が海を超えてやってきたと言いたいのだと思います。

来殿…冤罪をかけられて亡くなった菅原道真が、雷神となって復讐に来る話。来殿は雷電とも書きます。

能では鬼の面をつけます。

まさしくスメールにスカラマシュがやってきたという場面だと思います。
正機の神の姿のスカラマシュは、面を被って鬼の角を生やしています。

顔は白地に赤い模様で歌舞伎の化粧を施してあります。
肩には仁王襷という、歌舞伎で荒ぶるときにつけられる綱がついてますね。

6凸 ⑥言祝・霞幕傾松風(祝言能)

五番目物が終わった後は、祝言能になります。基本的に五番目物が荒々しいので、祝言能はめでたい感じで終わります。

命の星座「霞幕傾松風」は霞幕(歌舞伎座や浄瑠璃で下げられる幕)+能の三番目物である「松風」(源氏物語のエピソード)から。

祝言能は五番立の後に行う物ですが、三番目物を演じるということが多いです。

つまり松風(源氏物語では故郷を懐かしむ風)がフィナーレを迎えた劇の幕を揺らすという意味?

苦悩を乗り越えて、放浪者になったことを意味すると思われます。

能には僧がよく出てきます。
特に能では僧侶が苦しむ過去の霊を成仏させるという定番の流れがあります。
また、仏教には出家といって俗世の苦しみも喜びも脱ぎ捨てて仏教に励むという考えがあります。

スカラマシュが真実を知る回「伽藍に落ちて」の伽藍とは、僧侶が集まり修行する場所なので、ここでスカラマシュの苦しみが浄化されることを表していると思います。

放浪者の命の星座はちゃんと心を持っています。

「お主は人形などではない、人間なのだ。違いと言えば、心が一つ少ないだけではないか。」

「でも、もしかしたら、灰の中から心が生まれたのかも。」

出会いと別れは、スカラマシュにとって決して良いことだけではありませんでした。

けれど、悲しみを知り、少しでも歴史(過去の運命)を変えたいと思うことで、この命の星座の結末に辿り着かせたんですね。

心を持つ放浪者

ボス戦のラテン語歌詞

スカラマシュのボス戦で流れる曲の歌詞(ラテン語)では、

天理の秘密に近づいたことと
雷電に捨てられた悲しみ、捨てて欲しくない、僕の手をとって欲しいという願いが表現されています。
(関係があるか不明ですが、誕生日ボイスに「僕の手をとって」というセリフがありましたね。)

「六輪一露の狂詩曲」

Domina praeteritae peribitur et sculpitur crastino
過去のものとなった女主人は、滅ぼされるだろう。そして、彼女は明日に刻まれるのだ。

Canonem gnosis inscribit inclinabimini  non iam ad caelesti
教訓は神の心に刻まれ、もはやセレスティアにひれ伏すだろうよ。

Ecce premeris quoniam iuvenis sanguinum es derelicte
見よ!抑圧され、若輩故に、血縁者に棄てられた僕を。

A malo pressa voces iterum conquiratis quam manui sis
もしキミが望むなら、掻き消された言葉を悪から取り戻そう。

tenere etiamsi
それでも守れ!

(Nolite me relinquere ir in finem etiamsi)
(僕の手を離そうとするな!例え最後であっても。)

Qui formaret falsum deum
誰だ虚構の神を形作ろうとしたのは

(Vae cui formavit deum)
(ああ 誰がこんな神(僕)を形作りなんてしたんだ)

Ad nihil utile
無こそ好都合なのに…。

Poesis eis letis recto fatus tecum fallis deperdite
彼らへの詩は破滅に導かれる運命 。
キミと共に偽りによる破滅を迎えるよ。

Estris vae falsatis quod ad propinquavit
星々に ああ キミたちは騙されるんだ。近づいてしまったが故にね。

※注釈
ボス戦タイトルの「六輪一露」は無に始まり無に終わるという、能に禅を取り入れた天や空といった概念、更には世界(宇宙)に関する考え方なので、歌詞もそんな感じ。

放浪者の結局、無、捨てられる運命なんだという絶望感が伝わってくるようですね。

「三千娑界の御詠歌」

こちらは全部訳す気力がなかったので、1部だけ…。

Vosmet vetat res coelica
お前(僕)の存在は天から禁じられている

Iam premet letum vastum te
今に打ち殺される お前(僕)のような廃棄物は

ごやのすゑなぞながされ(ここだけ日本語)
名前もつけられずなぜ捨てられた?

Nunquam genitus desiderem
(僕は)生きたいなんて1度も思ったことは無い

※注釈
三千娑界の御詠歌とは、この広い現世で放浪者が詠む仏教の歌という意味だと思われます。
生まれた日に「僕の手をとって」というのはやっぱり、誰かに手をとって拾って欲しかったという意味でしょうか。

衣装デザイン

能の定番のお話として、僧に供養される悪霊の話があります。また、先述した考察を見た方なら察しがつくかもしれませんが、放浪者自身も修行僧をモチーフにしているふしがあります。

なので、衣装も修験者モチーフです。これはちゃんとゲーム内の衣装に関する説明に記載されていますので、確定です。

中でもおそらく神道ではなく仏教の修験者です。

夜鷹は私の世界の放浪者の名前です。宮沢賢治の「よだかの星」という物語が好きなので、この名前をつけました。

まず、笠を被っていますが、これは修行僧や旅行者のように少し遠出をする人がよく被っていたものです。

蓮の模様がついていますが、これは仏教において極楽浄土に咲く花です。

笠から垂れ下がっている金属のものは、修行の際に僧侶が持つ錫杖ですね。
本当は杖の形をしているものなんですが、笠につけたのはユニークです。

画像出典https://kotobank.jp/word/%E9%8C%AB%E6%9D%96より

着ているものは僧侶が着る袈裟です。
袈裟は左肩にかけるのが通常で、ちゃんと放浪者も袈裟を左肩にかけています。
袈裟の形は大分アレンジされていますが、一応分かるようになっています。

足には脚絆(きゃくはん)と、草鞋(わらじ)をアレンジしたものをつけています。

白いのが脚絆。脛を保護するもので、江戸時代以降よく使われるようになりました。
足は草鞋(現代のサンダルに似ている)を黒にアレンジしたもの。

手は黒い布の手甲をつけていますね。
放浪者は首に鈴の形をしたものをつけています。修行僧は鈴を持ち歩くことが多かったので、それに基づいているとは思うのですが、鈴の中央は経典の形をしているのが面白いです。

横から見ると、法衣にぐるっと円形の模様が入っており、そこに繋がるように金色の鈴がついています。

放浪者はトゥライトゥーラと同時に実装されました。
トゥライトゥーラの見た目は、仏教(中でも密教)の法鈴である、金剛鈴をモチーフとしており、もしかしたら放浪者は金剛鈴を少し意識しているのかもしれませんね。

右側の画像出典https://kotobank.jp/word/%E9%87%91%E5%89%9B%E9%88%B4-67218より

ちなみに雷電将軍は同じく密教で扱う金剛杵(こんごうしょ)をボス戦で出してきます。詳しくは雷電将軍の考察の方をご覧下さい。▶︎🔗コチラ

風神雷神

雷電将軍の考察の時にも述べましたが、風神雷神は厄災をもたらす神であるとともに、厄災から人々を守る神でもありました。
雷電将軍と放浪者が、厄災をもたらす1面と、そこから浄土(一切の煩悩やけがれを捨てた清浄の地)に辿り着く1面を持っているのは、こうした日本の神様の特殊性が反映されたからだと思います。

特に、スカラマシュ(雷神要素が強い)から放浪者(風神要素が強い)へと、伽藍に落ちて(僧侶が修行する清浄な場所を伽藍という)変化するところはよく出来ています。

福岡の櫛田神社には雷神にあっかんべーをする風神がいますが、放浪者もあっかんべーをします。


※今回の考察はXにて先行公開していたものを、再編(加筆修正)しました。普段モチーフ考察はXにて投稿していますが、これからnoteにもまとめていこうと思います。(Hanaの🔗Xアカウント)

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