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撮られる人に憑依する

尊敬する大先輩が「勉強にどう?」と撮影アシスタントに呼んでくれた。

その先輩とは結婚式の撮影で一緒になることしかなかったのだが、その日は結婚式でなく、洋館を借り切っての結婚式の前撮りだった。

普段の結婚式撮影はイベントの時間に合わせて時間に追われながらの撮影だが、撮影のためだけに時間を使える贅沢さ、そして全ては自分たち次第という責任を噛み締めて2時間の撮影がスタートした。

その先輩の撮影は今まで幾度となく見させて頂いているのに、その日はより丁寧に被写体に声をかけているように見えた。

撮影の時間を噛み締める

僕はその先輩のことが大好きで、それは「撮影の時間を自分にとっても、被写体にとっても大事なものにしよう」といつも考えにあふれているからだ。場合によっては新郎新婦や親より考えていると思う。

新郎新婦より考えていると言うのは、もちろん撮影現場においての話。
撮影される側は現場ではよっぽど慣れていないとその瞬間を楽しんで感じられるほど余裕がないからである。移動や顔の角度やポージングなどをこなすのでいっぱいになってしまい、ドレスに袖を通せることの喜びや、憧れの空間に自分が主役としている喜び、そのドレスを親に見せてあげられる

相手の気持ちに寄り添い、憑依する

彼の撮影で本当に大好きなのは撮影のアプローチ方法だ。
撮影される人が
「なぜ撮って欲しいと思ったのか」
「そのときの気持ちはどんな気持ちだったのか」
「なぜそのアイテムを持っているのか」
「なんでその場所なのか」
「その写真は映る人や家族にとってどんな意味を持つのか」

その背景や、人が人を思う気持ちを理解し汲み取り、その気持ちを残すことにアプローチをしているのだ。

笑顔の写真や、可愛い写真が撮れれば結果は同じかもしれない。
でも、このことこそが依頼の本質ではなかろうか。
(綺麗な写真を撮ることだけが依頼のケースも増えてきているけど・・・)

その気持ちにアプローチすることを拒絶されたり、恥ずかしがられてしまうこともあるのだけど、撮る側がそれを大事に思っていることが大事なのだと思う。もちろん無理強いはいけないけど。

ここでの相手の向き合い方で、失礼があったり相手の方を100%向けていないと怒られたり逃げられたりすることもあると思うのだけど、相手に敵意がないこと、また当日それまでの撮影で信頼を得られていると向き合ってくれるんだなと感じた。

どうやってかける声やアプローチ(撮影手法)を変えてますか?と聞いたところ、「撮影される人に憑依するんだよ」と教えてくださった。

何が映っているのか

その場の雰囲気を盛り上げれば楽しく、リラックスした写真は撮れるかもしれない。リラックスした状態からはその人らしい笑顔が出るし、その中には満足して貰える写真もかるかもしれない。

ただ、そこにあるのはフォトグラファーと被写体との関係の写真なのではないか。それにはもちろん意味があるし、僕は自分との関係に意味を感じてもらえる人との写真を残していきたい。

でも、初見の人はどうか。
正直撮影者との関係などどうでもいいのではないか。
それなのに、笑っている先にいるのは撮影者とのコミュニケーションをしているときの顔だったりするのだ。

本当に残したいもの

当日は結婚式の前撮りのために洋館を貸し切っての撮影。両家のご両親もいらっしゃっていた。ご両親にとっては結婚式の前ではあるものの、ドレスやタキシード姿をみて結婚の実感が湧いてきて感慨深いタイミングではあったかと思う。

そのために、突飛なことを言って笑わせるようなことはしない。その気持ちに対して真正面から向き合っていく。

「生まれた時、5歳くらいの小さい子供だった時、そして今こうしてウエディングドレスを着ている今日。どんな気持ちですか」

「今から撮るこの写真は10年後も20年後も、ずっと残る大切な写真になると思います」

自分に問いかけ直して、気持ちを作るのに十分な声かけだと思う。それでもどんな声かけがいいのか考え続けるけど。それを伝えているこっちが感動をもらってしまったりしている。

憑依すること

憑依することは、相手のことを思うこと。相手の喜ぶ顔が見たいと思ったら、普段どんな生活をしているのか、何を考えているのか。どんなことで喜ぶのか。その人になり切るのである。

極端なことを言うと相手の仕事について勉強し、同じものを着て、同じ通勤路を歩き、同じものを食べ考えるのです。

服をプレゼントしたかったら相手のタンスを見て考え、一緒に食事にいきたかったらお店の予約履歴を見るのです。

そうしてされるプレゼントであればきっと嬉しいものだし、そうしてされるサービスはもちろん嬉しいものだと思うのです。

大先輩の撮影を見ながら、そんなことを思うのでした。

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