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武藤敬司引退試合を観て

日本プロレス史上最大の夜


2月21日、それはプロレスファンにとって、熱く、そして涙腺が崩壊する日となった。

日本プロレス界の天才(ジーニアス)、武藤敬司の引退試合だ。

武藤は90年代は新日本プロレス、00年代には全日本プロレスにて、団体の看板を背負う選手として、常に第一線を走ってきた誰もが認めるスーパースターだ。

私がプロレスファンになった2010年代になっても、長年の疲労により膝の状態が悪い中、それを逆手に取ったテクニカルなファイトスタイルで常にファンを魅了し続けていた。

数々の伝説を残し、プロレス界の象徴として駆け抜けた男が昨日、ついに最後の時を迎えたのだ。

相手は、武藤に憧れプロレスラーを目指し、現在は新日本プロレスのトップ選手として活躍する内藤哲也だった。

舞台は、武藤が数々の名勝負を展開してきた東京ドーム

全てが整った、まさに”日本プロレス史上最大の夜”だった。


「今の状態では試合ができない」


しかし、武藤はある”爆弾”を抱えていた。

引退試合が行われる1ヶ月前、両足大腿(だいたい)部の肉離れで「全治6週間」と診断されたのだ。

時期的にも、引退試合までに完治しないことになる。

とてもじゃないが、試合できるようなコンディションではなかったと思う。

いや、日常生活ですら支障が出るレベルだ。

直前のインタビュー動画でも、「今の状態では試合ができない」と語った武藤敬司。

これまで幾多の修羅場を乗り越えてきた男が、珍しく弱音を吐いた。

ファンの間でも武藤の容態を心配する声が多くあがった。

・もう無理しないでほしい
・内藤とリング上で向き合うだけでもう十分だ
・肉離れがなくても、もう膝は限界だろう
・歩くの辛そう、見てて辛くなる

ネット上から

私もこの動画を見て、「武藤さん、もう限界なんだろうな」と思った。


復活したジーニアス


誰もが諦めかけた引退試合。

しかし、プロレスLOVEの精神で武藤は立ち上がった。

引退試合が行われる前日の記者会見に出席した武藤の口から、

「まだ4週間しかたっていないけど、ある意味レスラーはヒーローじゃないといけない。超人的なところを見せないといけない。もう大丈夫です。多くのファンや内藤選手に泣き言や愚痴を言っていたが、もう言わない。明日は思い切りぶちのめします」

前日記者会見より

全治6週間と診断されながらも、堂々の「復活宣言」をしたのだった。

もちろん絶対に無理をしているとは思う。

でも、やっぱり武藤敬司は最後の最後まで”スーパースター”だなと思った。

両足肉離れという、絶望的な状況から、試合ができるコンディションまで戻してくるなんて、

普通の人の予想を遥かに上回る、まさに”ジーニアス”だ。


最後まで貫いた”プロレスラー武藤敬司”


2月21日当日、私は早々と仕事を終わらせ、ABEMA PPVにて引退記念大会を観戦していた。

そして、

メインイベント、武藤敬司vs内藤哲也の一騎討ち。

正真正銘、武藤敬司の最後の戦いだ。

解説には、武藤と同日デビューで、新日本プロレス時代には武藤、橋本真也と共に「闘魂三銃士」として活躍した蝶野正洋がゲストとして登場

戦前、「自分の足でリングを降りてください。もしリングの上で燃え尽きたら俺が運びます」と語った蝶野。

やはり同世代の絆は固い。(これだけでもう泣ける)

武藤の入場で蝶野が感極まって、目が潤んでいたシーンでもうダメだった。

でもそんなことは関係なく、武藤は試合で躍動する。

両足肉離れで、完治まであと2週間とされている人間の動きではない、いつもの武藤敬司の姿だった。

武藤の代名詞と言われる、足4の字固め、フラッシングエルボー、ドラゴンスクリュー、シャイニングウィザードなど、次々と技を繰り出す。

また、解説席の蝶野が得意とするSTF(関節技)や、もう1人の盟友、故橋本真也の袈裟斬りチョップ、垂直落下DDT、本大会を主催するプロレスリング・ノアの創設者である、故三沢光晴のエネラルド・フロウジョウを繰り出すなど、

引退試合を行っていない同世代の思いを背負って、戦った。

しかし、相手は令和の現在において、プロレス界のトップを走る内藤哲也、

一筋縄ではいかない。

内藤は独特の間合いのとりながら、武藤の膝を徹底的に攻撃した。

その度、武藤の辛そうな顔が映し出され、「うわ、やっぱり相当悪い状況には変わりないんだろうな」と思った。

なんとか武藤も低空ドロップキックからのドラゴンスクリューで、ペースを引き戻し、
必殺技でもあるシャイニングウィザードを叩き込むがカウント2

そしてコーナーに登りムーンサルトプレスを試みる動きを2回行ったが、”プロレスリングマスター”が宙を舞うことはなかった。

なぜなら、両足の肉離れ関係なく、武藤の膝はとうに限界を超えており、両膝に人工関節を入れているからだ。

それを知っているから、みんなむしろ「飛ばないでくれてよかった」とホッとしたかもしれない。

本当にもう歩けなくなるかもしれないからだ。

ムーンサルトプレス敢行を諦め、コーナーを降りたが、逆に内藤にドラゴンスクリュー、足4の字固め、さらにはシャイニングウィザードを決められるなど追い込まれる。

自らの得意技で動きを封じ込められ、最後は内藤の必殺技であるデスティーノ(運命)を決められカウント3。

39年間のプロレス人生に終わりのゴングを聞いた。

その後、マイクアピールで解説席の蝶野を呼び出しサプライズ試合を敢行。

引退はしていないが、事実上セミリタイアしていた蝶野の久々のリングインに会場がどっと湧いた。

自分も蝶野に関しては、プロレスに興味を持つ前から知っていたが、「ガキ使の方正ビンタの人」と言うイメージが根強い。

そんな蝶野もリングインすると闘う男の表情になり、「やっぱりこの人はプロレスラーだな」と思った。

試合は蝶野のSTFでギブアップ負け。

武藤は引退試合、蝶野との特別試合共に敗れ、完全燃焼でリングを去った。

でも、最後の最後まで勝利を諦めずに戦う武藤の姿を見て、誰もが感動しただろう。

試合が終了し、リングを離れて去るまで、武藤敬司は”プロレスラー”だった。


最後まで忘れなかった"闘う魂"


闘うことさえ難しいと言われた戦前

ファン、業界関係者、選手

みんなが不安を募らせた。

しかし、闘うことを諦めなかった男は、見事に引退試合を素晴らしい形で終えることができたのだ。

どんなに苦しい状況だろうと、どんなに困難な状況だろうと、

諦めないことの大事さを教えてくれた。

プロレスは魂と魂のぶつかり合い、倒れても倒れても立ち上がり、さらにファンが熱狂する。

引退試合の最後までファンを熱狂させる白熱した試合を展開してくれた。

"闘う魂"が武藤敬司には備わっていたからだ。

体は思うように動かないかもしれない、

全盛期のようなスピード感あふれる攻防はできないかもしれない、

けど、心に秘めた闘魂が、彼を突き動かしたのだろう。

精神論じゃないけど、人生も同じだと思う。

思うようにいかなかったとしても、絶対に闘う魂だけは捨てるな。

弱い自分と闘え。

闘いの中で、武藤敬司はそう教えてくれたように見えた。


多くの人に良い影響を与えれる人になりたい


武藤敬司の戦いは、プロレスファンだけでなく、間違いなく世の中の人々に勇気と希望を与えた。

武藤が頑張っていたから、私も明日からも頑張ろう」と自分を奮い立たせる人も多いのではないかと思う。

私自身も、最後までプロとしての生き様を見せてくれた武藤を見て、自分も分野は違えど一流を目指さなければいけないと思った。

もちろんそれは、人間としても、

武藤選手のように、「多くの人に良い影響を与えれる人」になりたいと思った。

これから先、どんなことがあるかわからないけど、

武藤選手が教えてくれた「一流の生き方」を胸に、これからも生きていきます。

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