模試の現代文で泣く男

浪人生という身分であるので、やはり現代文を読むことが多いのですが、それはもっぱら問題を解く為であって、決して娯楽としてそれを読むわけではありません。

しかし、問題とは言ってもやはり人が書いた文章で、小説問題になるともう本を片手に読んでいるような感覚になってしまうのです。

そしてついに、この前受けた河合塾全統プレ共通テスト模試で出題された小説を解いている最中、何故かマークシートの上に涙が一滴………

そこで出題されていたのは、連城三紀彦の「紅き唇」。直木賞を受賞した彼の代表作である「恋文」の中の一節です。

あらすじは次の通り。

「結婚三ヶ月で妻の文子を亡くした和広は、文子の母・梅本タヅと同居している。文子の死から二年、浅子という新しい交際相手ができた和広だったが、タヅと浅子の折り合いが悪く……。」

という、なんとも奇妙な設定の物語です。
問題として本文を読み終わった後は、トムブラウンの布川ばりに「この後、どうなっちゃうんだぁ〜!?」と、気になってしまって仕方がありませんでした。

というわけで、次の日曜日に予備校をサボって朝から図書館にその本を借りに行きました。(ダメー)

いくら本棚を探しても見当たらないので、PCで蔵書検索をすると書庫の方にあるらしく、司書さんに取りに行って頂きました。
(後で貸出履歴を確認したところ、なんと最終貸出日は1990年でした!歴史を感じますね。)
受け渡しの際、「古い本ですけど大丈夫ですか?」と言われ、(本に大丈夫もクソもないだろ…)と思いながらも「あっ、大丈夫です。ありがとうございます。」と頭を下げてその場を後にしました。

流石に受験生という立場上1日まるまる勉強しないわけにもいかないので、閉館する夕方5時まで勉強をして、あたかも予備校で勉強してきたかのようにして家へ帰りました。

結局借りてきた本が見つかって親にバレましたが、それよりも私が図書館で本を借りてきたのが珍しかったのか、今までにないくらい驚かれました。心外でした。
と言っても私自身あまり活字は得意ではなく、本をあまり読まない子供だったので仕方ないのかもしれません。

その夜、おそらく小学生ぶりに読書灯に光を灯して本を読みました。雰囲気もあって心地よかったです。
内容もやはり素晴らしくて、期待通りの面白さ。さすが直木賞受賞作!と感嘆しました。

面白いと感じたものは人に勧めたくなる性分なので、早速母の所へ。
しかし、私の活字嫌いは母親譲りだったらしく、母は3ページでギブアップしていました。親子ですね。


素晴らしい作品との出会いとは時に思いがけないものですね。
私もまさか模試の問題からこんな良い小説に出会うとは思ってもいませんでした。「一期一会」という言葉への理解が深まった気がします。
この出会いの体験からも、そして小説からも、日々を大切に生きることの貴さを学んだ、そんな経験でした。


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