プリファードエンド②

Dループ計画プロジェクト


朝起きると1通のメールが届いていた。

件名:遺伝子検査の日程
仲本 君

竹中です。遺伝子検査の日程なのだけれど、基本的に平日は忙しいから土日にお願い出来ないだろうか。こちらの都合で非常に申し訳ない。今月の土日で都合の良い日を指定していただきたい。検査と言っても実際には最寄りの医療機関で採血するだけで大丈夫だから、1時間もかからないと思うよ。

それと言い忘れていたが、誕生日おめでとう。これで何か買ってくれ。
PayCode:*******************

竹中史郎

メールは竹中さんからだった。2万ポイントのギフトコードが付いていた。友人以外から誕生日を祝われることがここ数年は無かったので、少しうれしいのと、2万も貰ってしまって申し訳ない気にもなった。

直ぐに返信する。こういう連絡はその場で返さないと忘れてしまう。

件名:Re: 遺伝子検査の日程
竹中博士
ありがとうございます。今週の土曜日で大丈夫です。時間は特に指定はありません。よろしくお願いします。誕生日プレゼントありがとうございます。

送った後に気が付いたがメールの最後に署名を入れ忘れた。まぁ、今の時代メールでのやり取りなんかに無礼もクソも無いだろうから大丈夫だろう。とりあえず、もう出席日数も足りていてあとは卒業するだけの高校に暇つぶしに向かった。

学校に着くと友人たちは4月から大学で何をするかとかそういう話をして盛り上がっていた。自分もその予定だったが、昨日の話を受ければそんな話は無くうなって未来に行くことになるんだ。学校に来る途中昨日の話について色々調べてみた。例えば日本にある加速器はその後どうなったのかとか、世界で一番早い乗り物の情報だとか、殆どの情報は手がかりすら無かった。それ関連の項目だけ丸ごと抜けていた。インターネットという情報の世界に概念事黒塗りにされているようだった。そのことが逆に信憑性を持たせていた。ただし、相対性理論に関してはかなり情報があった。新幹線に数十時間乗ったら数秒先の未来に行っているとか、そんな話はあった。一体、Dループにはどのくらい乗るのだろうか、1年先の未来に行くのに数十年乗るとかなのだろうか、そんな年数分の食料や水を遣り繰りできるほど快適な施設が超高速で移動できるとも思えない。その点について、詳しく聞く必要がある。参加できるかどうか、するかどうかは置いておいてかなりDループプロジェクトに興味が湧いてきていた。


土曜日、県立医科大学に行くと、竹中さんも居た。てっきり、竹中さんは来ないでデータだけやり取りするのかと思っていたら、どうやら今日中に全てやってしまいたいらしい。採血をして分析している間に、プロジェクトの詳細について色々聞いてみた。

「あれから色々考えているんですけれど、参加するかどうか判断するには全然計画の詳細を知らないと思ったので、聞いて良いですか?」
「ああもちろん。何でも聞いてくれ。応えられる範囲で全て回答しよう。」
「じゃあまず第一に何年後の未来に行くのか?クルーはどのくらいの期間Dループに乗っていることになるのか、その間の生活はどうなるのか。クルーは何人を予定しているか。現段階で確定しているメンバーは誰か。…ぱっと思いつくのはこのくらいですかね。」「それじゃあ一つずつ回答していこう。何年後の未来に行くかという話だが、正確な年数は分からないが想定しているのは約5年だ。少なくともDループは一度動かしたら止められない。メンテナンスをせずに稼働させ続けることが出来るのは最大10年だろうから、余裕をもって半分の5年としている。」
「なるほど。思ったより未来っていうほど未来じゃないんですね。」
「そうかな。5年あれば世界は大分変わってしまうと思うよ。これからの時代は特にね。」
「そうかも知れないですね。」
「次に乗る側の年数だがおそらく理論上は1年以内のはずだ。しかし実際には何年に感じるかどうか分からない。また、やはり余裕をもって5年分の水と食料は載せる予定だ。生活は揺れの無い食事の美味しくない夜行列車だと思ってもらって問題ない。トイレもシャワーもできるが、インターネットは利用できない。ただ、Dループ内のコンピュータには相当量の書籍データや動画データを搭載するから娯楽は多くあるだろう。」
「なるほど、娯楽は大体デジタルデバイスで完結するということですね。」
「そうだね。トレーニングなどもできるにはできるのだけれど、本当にちょっとした空間でしかない。他のスペースに使った方が生活の質が上がると判断したよ。クルーの人数だけど、今のところ操縦を担当する研究員が1人を入れて4~6人を想定している。」
「少数精鋭ですね。でも娯楽も食事も限られている1年は結構辛そうですね。」
「まぁ仕方ないよ。それと、現時点で既に決まっているメンバーについてだけど、1人は既に決まっているということしか言えないね。それが誰なのかについてはプライバシーだから。」
「なるほど分かりました。ありがとうございます。」

結構具体的な話を聞けた。どんな計画なのかイメージをすることが出来た。しかし、既に決まっている1人とは誰なのだろうか。
2人で話している間に遺伝子コードの結果が出たらしい。これからアクセスキーの解析に取り掛かるらしく、何も手伝うことはできないので帰宅することにした。

 帰り際に竹中さんに声をかけられたのは意外な言葉だった。
「もし、プロジェクトに参加することになったとしても、未来の姿に希望を持たない方がいい。少なくとも、希望だけを持たない方がいい。まぁ、参加して欲しい立場で言うセリフでもないが。…今日はありがとう。アクセスキーの解析が出来たらすぐに連絡するよ。どちらにしても今日か明日には連絡する。お疲れ様。」
「こちらこそありがとうございます。お先に失礼します。」


家に着いた後も、メールを度々確認しながら日常生活を送るが、結局その日は連絡が来なかった。

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