見出し画像

スカイツリーとエビフライと墓参り

「もう一本頼むか」。瓶ビール大瓶を指差し、叔父は私にそう言った。一口だけつきあうつもりだったが、料理が来る前に瓶は空になっていた。私と母は、お墓参りでたまたま鉢合わせた祖父母に誘われ、お寺の近くの洋食屋に居た。まだ午前中だ。ビールの喉越しが良かったのは1杯目までだったが、叔父につきあい、瓶ビールをもう一本頼んだ。窓からはスカイツリーが見えていた。

母と叔父は祖母と血が繋がっておらず、幼い頃に知り合いの大学教授家族に養子に出された。これは終戦まもない頃であり、学業に秀でていた母に十分な修学をさせるための選択だったと祖父から聞いた事があるが、祖母と軋轢があった母にしてみると「継母」に実の父親との仲を裂かれたと思っており、75年以上経ったいまでも今だに祖母を厭忌している。祖母は既に亡くなっているというのに。

祖母は実の子を三人設けたが、一人は若い頃に白血病を患い亡くなり、私と兄弟然に暮らしたもう一人の叔母は40歳半ばで自ら命を絶っている。祖父と祖母は共に再婚で、祖母の連子の従姉妹と実子の従兄弟がいるが、二人とも高校を卒業するとともに家を出た。その従兄弟は二十歳で「デキ婚」したが、直に離婚。そして今は再婚して子供を設けている。そういう私も子供はいないが20代に結婚したが数年で離婚。今は、母と二人暮らしだ。

数年前から叔母は、我が家系のお墓を守ることについて口にするようになった。しかし、母は我が家系のお墓に入りたくないと言い、そればかりか墓じまいをしたいと言うようになった。継母、そして血の繋がってない兄弟が眠っているお墓に入りたくないと思う母の気持ちは否定こそしないが、祖先代々のお墓を「しまう」など出来る訳がない。そして、祖父母家族は、このお墓に関する話しが出るようになってから、すっかり疎遠になっていたが、今日、待ち合わせて墓参したかのようにばったり会った次第である。

答えはわかっている。私はこのまま子供を持つことなく世を去るだろうから、お墓を引き継ぐのは従兄弟になるだろう。しかし、私が存命の間は、戦火を逃れたこのお墓を守り、墓石も新しくする必要もある。そう、祖先代々のお墓を守るのは私である。

二号さんまで作った奔放な叔父だったが、生まれてすぐに私を引き取り可愛がってくれた。実の子である叔父叔母をおぶらかったが、私はおぶり近所を散歩したと聞いている。小学生になると、良く近所の洋食屋に連れて行ってくれた。そこで食べたエビフライはデミグラスソースがかかっており、とても美味しかった。そんな事を、運ばれてきたランチのエビフライを見て思い出した。

だから、お墓を守ると母と叔父夫婦に宣言したは昼から飲んだビールのせいではない。歪な家系かもしれないが、皆に愛されていた私がこのお墓を守らなくてはならないのだ。また、それは、私が生を受けこの隅田川のほとりで生きた証でもある。

#日記   #エッセイ #毎日note
1/100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?