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ドラマ「fallout」最も奇妙でユニークな現代社会批評

4/11日から配信されたアマプラ「フォールアウト」の実写ドラマの感想とちょっとした解説を書いてみたいと思います。ファンなら待望の作品でもあり、カルト的人気を誇るベゼスダの「フォールアウト」シリーズ。タイトルの意味「放射性降下物」の名の通り、核戦争後の世界を描いたポストアポカリプスでのサバイバー達の群像劇です。


本稿はネタバレ記事です。気にする方は要注意。

シリーズ紹介

フォールアウトシリーズは東西冷戦が終結せず深刻化したまま最終戦争を迎え、核戦争で現代文明が終焉を迎えたポストアポカリプスの世界が舞台のSFRPGゲームです。

秩序と文明を失いカオスになった世界で生き延び、文明を復興すべく、資源を集め、食糧を確保し、交渉し、時にはかつての文明の遺物を利用します---それは言え変えれば、限られた資源を強奪し、核汚染された水を飲み、時には殺害した人間の死肉を食い、暴力で利害当事者を抹殺し、場合によっては核兵器による大量殺戮すら行い、目的の達成を求められます。


破滅した世界。

その世界観を示す「war never changes(人はあやまちを繰り返す)」というタームが印象的な演出で明示されます。

今回取り扱う実写ドラマ版の製作指揮を取るのはジョナサン・ノーランとリサ・ジョイ。「ウェストワールド」で有名でもありますが、特にジョナサン・ノーランは兄が監督を務めた「インター・ステラー」「ダークナイト」の脚本を担当していたこともあって公開前から非常に注目集めていました。

現在公開されているシリーズ1は1本1時間の全8話構成です。一言で言えばかなりゴージャスな出来栄になっているとう印象です。ドラマとしてはCGもしっかりしているし小道具やセットなどもゲームをまんま再現したような精密さがあります。

時折りゲームのワンシーンやプレイ上での小ネタ等を折り込むなどファンサービスに尽きません。このビッグタイトルを実写化するにあたって、いわゆる昨今の、特に漫画アニメ原作の"邦画で懸念されるような事態" にはなっていません。

今作ではvault-boyのモデルも登場。

映像作品として視聴者からさらなる評価が得られるかどうかのポイントになりそうなのはNetflix版「ワンピース」や実写版「攻殻機動隊」のような感じになってしまわないかどうか。つまり原作の再現度が高いがゆえに何の衝撃もなく「超再現度の高いファンムービー」と化してしまうこと。「攻殻」に関して漫画原作なので一緒くたに出来ない部分がありますが。

シリーズ1時点ではとてもいい出来だったと思います。主人公のキャラクターやストーリーも「4」に準ずる所があったりして、随所に各シリーズの要素を上手く取り込んで新しい物語を構築しようとしている努力も感じました。フォールアウトシリーズの"真髄"でもある非常にメタホリックなブラックユーモアも満載です。

シリーズに関する詳細設定などはインターネット上を探せばいくらでもあるので割愛します。シリーズが長く続くとどの作品も設定に齟齬が出るものだと思いますので細かい設定については本稿では触れない事とします。

「4」から9年後の2296年の現在のカリフォルニアが舞台。シリーズ的には「3」や「NV」の物語が絡みます。


世界観

冷戦が終わらなかった世界の未来。2077年10月23日に起きたアメリカ、中国、ソ連による核戦争によって歴史上の戦争で消費された量の総和を上回る熱量が約2時間で使用され地球上の全ての文明が終わりを迎えました。


核戦争の脅威の緊迫を受けてVault-tecは核兵器による放射性物質や壊滅した世界による無秩序から選ばれた住人を守り、保存する為にVoltという核シェルターを建設します。

数世紀に渡って自給自足でき、放射性物質の半減期を迎えてリスクが減退したのちに地上復興を成すという計画だとアメリカ社会一般では理解されています。これは言わばノアの方舟のようなものです。しかし実際には人体実験や極めて非人道的な社会実験も兼ねておりvault居住者は楽園に見せかけたディストピアに生存しています。

核戦争から生存戦略、さまざまな脅威的な生物の存在に暗躍しているのはエングレイヴと呼ばれる組織です。彼らは戦前より存在する軍産複合体を含む政治結社で、現実社会なら陰謀論者の言う「ディープステート」のような概念です。

生き残った地上人類は軍閥化した小さなコミュニティや或いは個人で細々と放射性物質や突然変異した動物(アボミネーション)の脅威に晒されながら、まさしくホッブスの言う「万人による万人に対する闘争」のような生活をしています。また核物質とFEV(強制進化ウィルス)の影響で生存者の一部は「グール」と呼ばれるゾンビ様の外見に変化し、強力な再生能力と極めて長い寿命を得たと同時にフェラル化(凶暴化)して理性と人間性を失う運命にもあります。

各地でコミュニティが大規模化し「新カリフォルニア共和国」のような国家が誕生した事例もありますが、文明再建と人類救済の方法をめぐる陰謀の中で核爆発により廃墟と化してしまいます。


今作について

2296年の現在のカリフォルニアが舞台。最終戦争勃発の2077年の当時から生存するキャラクターの回想を交えながらここ200年間の出来事やウェストランド(核戦争で荒廃したアメリカ)での現実や戦争の背景、生存者達の足跡、vaultの真実が明らかにされます。



キャラクター

ルーシー・マクレーン

vault33出身の女性居住者。拉致された父を探して地上へ旅立つ。持ち前の明るさでへこたれない性格。

関連人物:父ハンク、母ローズ、弟ノーマン

グール(クーパー・ハワード)
200年以上生きるグールの賞金稼ぎ。戦前はハリウッド俳優でウェスタンの人気役者「クーパー・ハワード」ドライでニヒル。家族を探している。

関連人物:妻バーブ、娘ジニー、他ハンク、モルデイヴァー、バド・ワトキンス

マキシマス
デインの代わりにBOSスクワイアに昇格。シェイディサンズ出身で幼少期に核爆発で故郷が消滅。
BOSに救われ、訓練生となり力を欲するが理想と現実に悩まされる。

関連人物:デイン、サディアス、クインタス


ストーリー



2077年、核戦争の危機の迫るカリフォルニア州。西部劇で有名なハリウッド俳優であるクーパー・ハワードは娘と共に誕生日イベントに出演していました。彼は元海兵隊員で「親指を立てるポーズ」がトレードマーク。

娘がなぜ「いつもの親指を立てるポーズをしないのか?」という質問をすると彼は「それは”大きな爆発”があったときに”煙”が親指よりも小さかったら逃げれば助かるって意味なんだ」と娘に教えます。その数分後、閃光が走り巨大な爆発ときのこ雲が上がります。娘は言います「それは私の指?それともパパの指?」

核戦争が始まったのです。

時は変わり219年後の2296年vault33の女性居住者ルーシー・マクレーンは、婚姻相手をvault32からトレードすることになります。地下シェルターでの数世紀に渡る婚姻と出産は近親交配の遺伝的悪影響が避けられないため外部から遺伝子が必要になります。

このvault33はvault32、vault31とそれぞれ地下連絡通路で連結されており、各voltには「監督官」と呼ばれる指導者がいます。ルーシーの父ハンク・マクレーンはvault33の監督官で家族思いの優しい父親です。

vault32の監督官リー・モルデイヴァーモンティを連れてきます。地上の放射線量の低下から次世代の子孫が地上の復興を開始できる可能性があると皆希望を持ちます。

婚姻パーティーの最中ルーシーとモンティは部屋で新婚として初夜を迎え、それと同時にvolt33では異常が起こり始めます。ルーシーの弟ノーマン・マクレーンは不信感を持ちvault33を抜け出してvault32へ行きますが、そこで見たのは壊滅した居住区画で彼らはvault32の住人ではありませんでした。

招待された「vault32のメンバー」は身分を偽った地上から来たレイダー(追剥ぎ)でした。ルーシーはモンティに腹部を刺されながらも撃退しますがvault33の住民を人質に取られ、解放する代わりにハンク・マクレーンはモルデイヴァーに拉致されてしまいます。実はハンクとモルデイヴァーは既知であり、彼女はルーシーに「母親そっくりね」と言い残して去ります。何か大きな背景が示唆され物語は動き始めます。

ルーシーはチェットとノーマンの助けを借りて地上へ飛び出し父親を捜す旅に出ます。次の監督官をめぐる権力争いと外への恐怖が背景にあって誰もハンクを捜索しようとしません。彼女は理想的な管理社会であるvault33から旅立ちウェイストランドで度重なる試練を受けますが持前のポジティブさで乗り切ります。ある夜野営していると一人の壮齢の男性が通りかかり「夜間の焚火は危険だ」と忠告を受けます。彼はエンクレイヴから技術を盗んで抜け出した科学者のシギ・ヴィルツィヒでした。

ある夜、3人の男が棺桶から一人のグールを掘り起こします。彼は荒くれもの”賞金稼ぎ”で、エンクレイヴの科学者の首にデカい賞金がかかったことで動き始めます。物語が進むにつれてこの”賞金稼ぎ”はクーパー・ハワードであると明らかにされます。彼の戦前はハリウッドでウェスタンの「役者」でしたが戦後は「本物」になったのです。


BOS(brotherhood of steal)の基地では新兵マキシマスが仲間にリンチされるシーンから始まります。このBOSは戦後の数少ない組織化された武装組織で、戦前の技術の回収と管理をします。人類には扱いきれない科学技術がさらなる災禍を招かぬようにするのが目的です。BOSの実働部隊が新しい任務を帯びて基地へ帰還。エンクレイヴの科学者シギ・ヴィルツィヒが組織から脱走し、彼が重要な旧時代の科学技術を持っていると情報を得たBOSは彼の回収を試みます。

ここではfalloutおなじみの「T60パワーアーマー」「ベルチバード」「プリドゥエン」が登場しいよいよ、らしさが出てきます。マキシマスの友人のデインは昇格しナイト・タイタスのスクワイヤになります。しかし、靴の中に剃刀を入れられるという事件が発生しケガをしたデインの昇格は保留になります。

マキシマスは事件の犯人の疑いをかけられエルダー・クインタスに尋問されますが、疑いを晴らしデーンの代わりにナイト・タイタスのスクワイヤに昇格します。任務開始からしばらくして、タイタスのあまりの小物っぷりに嫌気がさしたマキシマスはヤオ・グアイに襲撃され致命傷を負った彼を見殺しにし、アーマーを奪い「ナイト・タイタス」として任務を続行します。

ルーシーは父を追って、マキシマスとクーパーは科学者の首を狙ってフィリーという小さな町に集まります。ルーシーはヴィルツィヒを訪ねますがクーパーが現れて銃撃戦に巻き込まれます。間一髪でマキシマスに助けられた彼女はヴィルツィヒと逃亡しますが、撃たれた足を切断したヴィルツィヒの命は長くは持たず、彼はシアン化合物を飲み、臨終際に"自分の首を切断して持っていけばモルデイヴァーに会える"と諭されます。

一方でクーパーとマキシマスはフィリーで死闘…というより喧嘩のような戦いを繰り広げクーパーに手玉に取られたマキシマスはアーマーの一部を破壊され、そのままジェットが制御不能になり町の外れに墜落します。クーパーは自分がナイフで刺したヴィルツィヒの犬を治療し、その嗅覚を利用して追跡を開始。墜落したマキシマスがアーマーのチェックをしていると本部から連絡が入ってしまう。

状況説明に窮した彼は「マキシマスは戦死し、タイタスひとりで任務を続行中だ」と嘘をつき、そのせいで新しいスクワイアが派遣される事態に。急いでアーマーのパーツを修理すると新しいスクワイアのサディアスがやってきます。彼はマキシマスをリンチにしていた張本人でした。タイタスが死んでいるなど気付きもせず平伏するサディアスに気持ち良くなったマキシマスはシゴキでやり返します。


ルーシーは切り取ったヴィルツィヒの頭に発信機を取り付け先へ進みます。途中、沼地でガルパーに頭部を奪われてしまい立ち往生してしまいます。そこへクーパーが追いつきルーシーは捕縛され、ガルパーを誘き出す餌として散々な目に遭わされます。結局ガルパーから頭部を取り戻せず、クーパーの持ち物"小瓶"も失ってしまいます。

シェイディサンズ跡地。


「ウェストランドにも黄金率がある。いつも下らない事に邪魔されるってことだ」


クーパーは小瓶がないとフェラル化してしまう事が明らかになり、彼はルーシーを臓器販売業者に売り渡し小瓶を手に入れようとします。業者のMr.ハンディに殺されかけたところで間一髪逃げ出したルーシーは業者に銃を向け、捕虜を全て解放するように要求しますが、その中にフェラルグールが混ざっている事の意味を理解できなかったために業者とグールは相打ちになり死亡します。
業者から小瓶を回収したルーシーは酷い目に合わせられたにも関わらず、倒れたクーパーに小瓶を渡して去ります。

「これが黄金率よ。くそったれ

一方マキシマスとサディアスはクーパーがグールであることから放射線の痕跡を辿り、沼地へとたどり着きます。センサーに従い水に足を踏み入れるとガルパーに強襲され、サディアスが捕食されかけますがパワーアーマーの力でマキシマスに引き摺り出され救出されます。ガルパーの消化物からヴィルツィヒの頭部を見つけ標的を確保します。

その夜マキシマスはサディアスにタイタスとの間に起きた真相を話し自らの正体を明かします。サディアスはそれに驚き、仲違いしてしまいます。サディアスは片足を潰されながらもアーマーのフュージョンコアを抜き去り標的と共に逃走します。

目を覚ましたクーパーは業者が持っていた小瓶を回収していたところ元締めのマフィアに捕まってしまいます。ドンのソレル・ブッカーとは知り合いで、会話のなかでグールになってまで長生きする理由は、家族を探しているからだと指摘されます。ソレルのアジトで手配書からモルデイヴァーを見つけ、運び屋を追ってクーパーはモルデイヴァーの居場所を突き止めます。


クーパーはモルデイヴァーの事を知っていました。200年前の俳優時代にVault-tecの宣伝に協力していた彼は、知り合いを通じて反vault-tec活動をしている彼女と知り合います。妻のバーブはvault-tecの社員であることから会社内に陰謀があり真実を知るべきだと盗聴器を渡されます。


フュージョンコアを失ったマキシマスはアーマーの中に閉じ込められてしまいます。長い時間閉じ込められ、ラッドローチがアーマー齧り始め窮地に陥りますが、通りかかったルーシーに救出されます。そのまま2人で協力しサディアスの追跡を開始。

レイダー達の処遇を巡ってノーマンは不満を募らせます。vault32から侵入した彼らは住人を殺害したと思われていましたが、実は端末記録を見ると2年前には死んでいた事が明らかになります。それを知ったノーマンは徐々にvaultの秘密を知る事になります。vault33では新しい監督官としてベティーが選出され、vault32の再建にあたって移住計画を進める旨を公表します。ノーマンは過去の記録からvault33の監督官はすべてvault31からトレードでやって来た人間だけであると気がつきます。


ルーシーは道中でフィーンドと撃ち合いになり怪我をしたマキシマスを治療するため廃病院へ立ち寄ります。しかし廃病院に仕掛けられたトラップに捕まりvault4へと落下します。

vault4では地上の人間をvault内に誘導し共生していました。地上の雰囲気とは真逆な様子にマキシマスは警戒しますがルーシーに"文明的な生活とはこういうものだ"と諭されます。シェイディサンズの生き残りである彼らは新カリフォルニア共和国再建にむけて奇妙な習慣を持っていたり「12階には近づくな」など怪しげな空気が徐々に出てきます。適応してこの場所を気に入っていくマキシマスと、逆に怪しんでいくルーシーが対比的です。

ルーシーはとうとう12階に足を踏み入れ、vaultの秘密を覗き見します。vault4はアボミネーションの開発実験の施設であり、そこでは非人道的な実験記録が残っていました。運悪くvault4の研究者に鉢合わせし、抵抗虚しく逮捕されます。

気の狂った人体実験をしていた事を糾弾すると、拍子抜けした真実が監督官から語られます。実は元々そういった悲劇があったのは事実だが、反乱を起こしてそれらを止めさせた事、12階は被害者の痛みを和らげる為に隔離されていた事などが明らかにされます。

研究者に暴力を振るい、ルール違反をしたルーシーは処罰される事になります。住人全員が見守るなか、ルーシーは死刑を宣告され"地上への追放"処分となりました。つまり解放です。早とちりしたマキシマスはフュージョンコアを強奪しアーマーで暴れ回りますが、ルーシーに事実を告げられ、地上へと出て行きます。去り際に、盗んだフュージョンコアをvault4へと返して先を忙ぐ事になりました。

マキシマスはそれまでナイト・タイタスとして振る舞っていましたが、ルーシーには真実を告げます。ルーシーは無実の人間に暴力を振るった自身を引き合いに出し"間違ったことは誰でもする"とマキシマスを受け入れ、全てが終わったらvault33に戻り2人で暮らさないかと提案します。



片足に深傷を負ったサディアスはレッドロケットに荷物と犬を隠し、標的のみを持って電波塔へと向かいBOSに回収を要請しようと奔走します。道中怪しげな闇医者フュージョンコアを対価に千切れかけた足を直す薬をもらい、電波塔へたどり着きます。

しかし、そこでルーシーとマキシマスが追いつきBOSの回収部隊が鉢合わせします。サディアスは電波塔の主人が仕掛けたトラップにかかり首を矢で射られますが、全く死にません。さっきの闇医者の薬のせいでグール化していたのです。

BOSはグールを抹殺するのでサディアスは帰還できず、まずい状況に陥ります。マキシマスはサディアスを逃がす為に全てのリスクと責任を負い、ダミーの標的を持って帰還します。本物はルーシーがモルデイヴァーに会う為に所持することになります。

そのころvault33では移住計画が実施されます。ノーマンは真実に近づきます。留守の監督官室からvault31にメッセージを送ります。「計画失敗。31へ戻る必要がある」「なるほど、早急に31へ戻るように」

やはり何かあります。そこでノーマンはベティーのフリをしてvault31へ潜入します。すると、ロボブレインの"頭部だけ"のロボット(中身はバド・アスキンス)がいました。vault31の住人は全員、冷凍睡眠処理されたvault-tecの社員でvault32、vault33は彼らの支配下にありました。再生の日に際して地上人類を全滅させ新しい文明の支配者となるべく秘匿されていたわけです。

BOSの前哨基地となったフィリーに運ばれたマキシマスはダミー標的をすぐに見破られ、処刑されそうになりますが、デインの助けで一命を取り留めます。ルーシーはモルデイヴァーの居るグリフィス天文台へと乗り込みます。父を解放する見返りに標的を渡すつもりでしたが、モルデイヴァーから衝撃の真相を聞かされます。

ルーシーの父、ヘンリー"ハンク"マクレーンはvault-tecの社員でvault31で冷凍睡眠した戦前の人間"バドの仲間たち"でした。

妻がvault-tecの裏稼業とでも呼ぶべき計画に加担していると信じたくないクーパーはバーブの出席する会議を盗聴します。軍需産業大手が集う会議で、そこではvault-tecをはじめとする軍需産業の信じられないほど反社会的な発想を知る事になります。「利益を確実にするには?」バーブは発言します「自分たちで爆弾を落とせばいい」

ルーシーの母は地上に文明が戻った可能性を信じ、vault33から抜け出して真実を知ろうとします。追いかけきたハンクは子供を奪い、核兵器でシェイディサンズを破壊しました。ヴィルツィヒ頭の中にあったのは低温核融合の技術で、モルデイヴァーはそれを使って文明を復興しようとしていたのでした。モルデイヴァーが席に座らせていたフェラルグールはルーシーの母、ローズでした。

真相を知ったルーシーはハンクにパスワードを教えるように言います。そこへBOSの部隊が強襲します。激しい銃撃戦になり、アーマーの数で押すBOSは制圧しかけますが、クーパーが現れ、アーマー部隊を無力化します。マキシマスはルーシーと合流し、シェイディサンズの真実を聞かされます。ハンクはマキシマスを昏倒させ、ルーシーを連れて行こうとしますが、クーパーが現れ言います「また俺のサインが欲しいのか?ヘンリー」

クーパーはハンクに家族の所在を聞きますが、答える事なく逃亡します。彼はあえて追いかけず、エンクレイヴの拠点を見つける足掛かりにするつもりです。ルーシーはフェラルグールとなった実の母を介錯しクーパーと共にハンクの後を追う事にします。

意識を取り戻したマキシマスはモルデイヴァーが低温核融合を起動して街に光が戻るのを見届けます。深傷を負ったモルデイヴァーはローズの傍らでマキシマスに技術を託し息絶えます。マキシマスは標的を確保し首謀者を討ち取ったとしてナイトに昇格します。

シーズン1終了



作品解説

両義性が今作の全体に通底するテーマになっています。それは善と悪が同一の存在であるかのような表現です。両極の対立概念が、表裏一体になっている事で、とてもユニークな批評的表現に富んでいます。脱構築的とも言えるかもしれません。

なんだかんだゲームシリーズでは直接的にはvault-tecの戦前の姿、会社の内実についての描写は避けられてきたように思いますが、今回は全面に押し出されたカタチになりました。また他シリーズと一部時系列的に齟齬がありますが本稿では割愛します。

クーパーが放った弾丸のカットインなどはゲーム上の演出をそのまま取り入れたカタチだと思います。随所にファン向けのサービスが満載でしたが、物語や映像は非常に高いクオリティです。

基本構造は1.クーパーの視点(過去)2.ルーシーの視点(現在)3.マキシマスの視点(未来)に分かれています。

クーパーは過去の"思い出"の中に生きる人間で現在に生きていません。それは過去の彼が非常に倫理的な人間で、信頼や愛や人情を大事にする姿からも分かりますが、グールとなった現在は真逆の人物としてとてもニヒルでドライな役になっています。そして家族を探していますが、それも過去のものです。

ルーシーはvaultから出て来た赤ちゃんのような存在です。見るもの全てが新しく奇妙で危険です。公平に物事を見極めて受け止めようとしますが、自分の限られた経験から判断することに戸惑いがあります。いままで"自分が当たり前"だとしていた事が"当たり前ではない"事を経験して視聴者に世界の構造を開陳していく役割があります。真実を見つけようとするキャラクターであると最終話で位置付けられていました。

マキシマスの回想


マキシマスはウェイストランド出身で現実がどのようなものか、ある程度わかった上で願望があり力を欲しています。心象風景としてシェイディサンズで窮地に立たされたときに助けにきたナイトの姿があります。つまりヒーローになりたいわけです。彼は力によって未来を良くする可能性があることはモルデイヴァーとの会話でも示唆されています。


設定

全体を視聴すれば理解できるかと思いますが、核戦争を生き延びる為にvaultは作られました。しかしその内実は人体実験の為の施設でもあり、ガルパーなどのアボミネーションは人間と他の動物を掛け合わせて作られていました。

基本的にエンクレイヴの計画はvaultに復興の為の人間を残して生き残った地上人類を抹殺する方向性です。また今回はあまり描かれませんでしたがBOSはグールやアボミネーションを非常に嫌悪しています。そのためサディアスはBOSに戻れなくなりました。


モチーフ

気付いた方も沢山おられるかと思いますがこの作品は、ここ半世紀で重要な政治学、経済学、社会哲学的モチーフをまるでモザイク画のように取り込んでいて、この社会が何を前提に回っているのか、何を間違えてこの世界があるのかを痛烈に描いています。ここでは各エピソードに込められた隠喩や物語の表現について気付いた範囲内で簡単に解説したいと思います。以下、ご笑覧に付す。


囚人のジレンマ

核戦争勃発に絡む問題でもありますが、もっとわかりやすい描写で何度も繰り返し表現されています。「水を与えられたら全部飲み干せ」(EP2ターゲット)ルーシーが善意で与えた水はその辺のオジサンに全部飲まれてしまいます。ウェストランドではモラルが真逆になっていて、私利私欲のために行動する事が生き延びるセオリーです。

1番明確に描かれているのがマキシマスとルーシーが橋を渡るシーン(EP5過去)で2人組が橋の対岸からやってきて、バッティングします。このご時世なのでお互い疑心暗鬼になっています。互いに武器は無いと言いますが、それが嘘なのも両者ともに理解しています。


●ゲーム理論

これはゲーム理論の描写です。最悪の事態は、撃ち合いで両者共倒れになる事です。2つのプレイヤーがそれぞれ最大利益を追求した場合の個人最適解は"こちらが無傷で相手を殺害すること"ですが、最悪の解である"共倒れ"のリスクがあります。そこでお互い実力行使しない蓋然性を確保した上で通過すれば、個人の最大利益はないものの両者がそれよりもミニマムな利益を対等に得て、無傷で橋を通過できます(パレート最適)


現代的な視座を持つキャラクターとしての役割与えられているルーシーは当然ながら合理的選択としてパレート最適を選びます。両者両手を挙げて非武装状態で渡ればいいと提案します。マキシマスは相手の出方を伺いながらやむなくルーシーに同調します。

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