星野古戦場

多分毎日三題噺を書くので、せっかくなら公開しようと思って作ったアカウントです。

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最近の記事

『岬』『夢』『雨靴』

 海沿いでは雨があまり降らない。雨はむしろ山地で降るのだと知ったのは、さていつのことだったろうか。少なくとも、夢で見る当時は知らなかったに違いない。  珍しく雨が降っていた。雨合羽と雨がフォルテシモを奏で、雨靴と水たまりが即興の伴奏を加える。雨の音色は人のそれと違って自由かつ無軌道だ。それが、私自身が手を加えて初めて楽しい音となっていく。自らの手で奏でられる野生の音楽は、音楽室やピアノ教室での演奏とは違った喜びがあった。だから、水たまりを選んで帰った。  私の家は岬の方にあっ

    • 『泉』『戦』『荷札』

       泉を巡る戦は我々の敗北で終わった。なぜ泉を争っているのかというと、そこがこのあたりで唯一の、飲める水飲み場だったからだ。そこに女神がいるからだとか古代文明の産物があるからだとか様々な推定はされているが、それらは全て結果ありきの因果推定だった。つまるところ、俺たちが水を飲むためにはその泉を使うしかないという状況を追認するための。  耳に荷札付きのピアスを刺される。負けたからには商品にされるしかない。致し方ないことだった。なにせ飲める水は限られている。命の水を巡った争いに負け

      • 『芝』『言葉』『台所』

         言葉を交わすのは面倒だ。だって言葉は心を取りこぼす。心の全てを伝え切れるほど言語というデバイスは出来がよくないし、取りこぼした心が相手に刺さることもしばしばだ。そうならないよう私なりに気を遣い続けるうちに、私はすっかり話すことに倦んでしまった。他人と関わるのは好きだけれど、それでも面倒さの方が勝ってしまう。私は鈍い臆病者だ。 「わう!」  ソファでまどろんでいると、飼っている柴犬が鳴き声を上げた。知らない人の匂いが気になるのだろう。初めてではないのにこの反応で、敏感なの

        • 『麦』『髭』『かめ』

           男の前で波打つ黄金は血と汗でできていた。小麦畑である。畑を拓き、耕し、種を蒔き、地力を使い切っても実るか否かは五分と五分。加えて、実った小麦を奪いに来る卑しい不埒者の血も。味方敵方を問わず多くの血を受けた小麦畑は、豊潤に実ることで応えた。  男は小作人を呼び止め、彼が担いでいる甕に満ちた麦汁を舐めた。大地を濃縮したような滋味としか言えない味わいを舌先で感じて、男は頷いた。麦汁には大麦を使っているが、ビールにするなら大麦の方が良いことを突き止めるまでにも長い探求が行われた。

        『岬』『夢』『雨靴』

          『夜』『言葉』『醤油』

           暗い夜は寄る辺なく、それを生き抜くには言葉が必要だ。朝になって日が昇るまでを慰め合うための。それは歌でもいいし詩でもいい。最上のものはやはり伽話の睦言である。体温は何より雄弁に物を語る。そこに快楽を囁く言葉が加われば、夜を耐えるには事足りる。身を割り開く肉竿に身を委ねることはやはり悦びであった。 「でも、ずっとこういう関係でいられるわけじゃないよね」  やることをやった後、これを囁くと彼は必ずビクリと身を竦ませる。散々やることをやっておいて結婚の申し込みもせず、かといっ

          『夜』『言葉』『醤油』

          『海峡』『仙女』『辞書』

          北はイベリア半島スペインにおけるイギリス領ジブラルタル、南はアフリカ大陸北端モロッコ。ここはヘラクレスの柱と名高いジブラルタル海峡。かつて巨人だったアトラス山を粉砕し、地中海と大西洋を繋いだという故事に語られる地形である。  その地、ジブラルタル海峡の北側。未だスペインとイギリスのどちらの手に入るかが未確定のジブラルタルの岩 ── 青く広がる好天の下、巨人アトラスの頂上に一人の娘が立った。  黄金を梳いたような長い金髪は髪紐とヘアネットで飾られ、豊満ながらも引き締まった体に

          『海峡』『仙女』『辞書』

          FGO1部2章『永続狂気帝国セプテム』の嫌いな所に向き合うNote

           今更?って思うでしょう。私もそう思います。でも最近FGOローマに対する憎しみが薄くなってきている気がしているんです。いいことですよそりゃ。でも、どうして怒っていたのかが分からなくなったらボケ老人まっしぐらなので、ここで振り返りを行います。  そういう事情なので、基本知識の補足は入れますが読者を置いてきぼりにする場面があるかもしれない事を予めご了承ください。  FGOアプリ自体は2018年にアンインストールしたので、以下の動画により再確認している事を申し添えます。 時代背景

          FGO1部2章『永続狂気帝国セプテム』の嫌いな所に向き合うNote

          C4-621≠Raven

          我が愛しい飼い主、もういないあなたへ、せめてさようならと言わせてください。 あなたが与えてくれた全てが、私にとって新鮮でした。あなたが与えてくれた、名のあるものが好きでした。名もないものも好きでした。温かいものも冷たいものも、あなたが与えてくれたものは私の中で熱になりました。 その熱が私をここまで連れてきて、だけどあなたはいなくなってしまった。私の首輪へ繋がるリードの先には、今あなたはいないのです。 かつて、この空虚こそが私でした。寒々しい荒廃の中で、熱なく生きる者こそ

          『毒草』『透き通った』『桶』

           桶に汲んだ水の中で、空ばかりが青く透き通っていた。その外で、とうに命は絶えている。この永い冬、冷気と死の中で世界は美しい。動くものといえば私くらいだ。だが、井戸から水桶を引き上げてポリタンクに移すのは、年々重労働になっていく。  季節が巡らなくなってもう何年経ったろう。老化のせいでパッと計算できない。最初の頃は吹雪が世界を覆ったが、全球凍結した今となっては気化する水分もありはしない。死んだ世界では雲さえ死に、空はいつでも快晴だ。太陽の熱はアイスアルベドフィードバックで跳ね返

          『毒草』『透き通った』『桶』

          『空』『領主』『パイプ』

           煙管から立ち上る煙は、薄く広がって鳥の領地へと拡散していく。技術辺境エリジウムを治める領主の視線は、煙ではなく広場へと熱く注がれていた。そこでは機械の鳥が獰猛な唸り声を上げながら駆けていて、今、地を蹴って鳥の領地へと飛び上がった。けたたましい鳴き声と共に鳥の領地へと飛び出した機械の鳥は、操縦者の意思を明確な形にしていく。上下回転による180°の宙返りし、そのまま太陽へ向かって飛び上がったかと思えばゆっくりと失速していき、空中で静止し、機首が槌のように降り落ちて地面向けて真っ

          『空』『領主』『パイプ』

          エルデンリング全装備チェッカー 地域ごと

          ☆ネタバレ全開。祝福名を起点にしているのも含めて既プレイヤー向けです。 ☆防具・霊薬の雫はまだ加えていないです。 ☆エリア毎にはまとめていますがぐちゃぐちゃです。 円卓 ダガー 双子の老婆から購入 ロングソード 双子の老婆から購入 レイピア 双子の老婆から購入 シミター 双子の老婆から購入 ショートスピア 双子の老婆から購入 ロングボウ 双子の老婆から購入 指の聖印 双子の老婆から購入 バトルアクス 双子の老婆から購入 メイス 双子の老婆から購入 ヒーターシールド 双子の老

          エルデンリング全装備チェッカー 地域ごと

          『沼』『醜い』『アーチ』

          「沼地は嫌いだ」 「好きなやつなんか居ないよ」  高台の遺跡にかかるアーチ門の上、俺たちは沼を観察していた。そこは毒の沼地。瘴気漂う不快な泥濘の中の小島に、持ってくるように依頼された花が生えている事を突き止めた。非常に面倒だが、仕事は仕事だ。なにより、達成さえできれば経費を抜いても一ヶ月は遊んで暮らせる。 「問題は、どう達成するかということなんだが」 「ま、毒の沼地を歩いて渡るのは御免だね」  あの沼地の水源は雨水で、窪地にあるために流出することもない。溜まった水は腐る

          『沼』『醜い』『アーチ』

          『ネズミ』『髪』『図表』

           宝ネズミの背にある図表は、求め人の求める真の宝を指し示すという。その由来は上古の古代文明に遡るが、実際に真の宝を見つけ出した人の記録は残っていない。  宝ネズミ自体はその辺の迷宮に潜れば簡単に見つかる怪物だ。ネズミ捕りの罠を仕掛けておけば4匹に1匹は宝ネズミだ。見つけた個体を締めて背の皮を剥ぐ。そこには、確かに何らかの図表が記されていた。  迷宮都市ガラベッラ。起源において、ガラベッラは巨大洞窟があるだけの農村だったという。それが注目を集めたのは、一つの碑文がきっかけだ。現

          『ネズミ』『髪』『図表』

          『人参』『間違える』『シーソー』

           人参がシーソーに乗っていた。見間違いか、さもなくば着ぐるみか何かだと思って二度見する。確かに茎を下にした身長170cm程度の人参が茎を使って重心を調整しながらシーソーに座っていた。 「うわ、人参だ」 「私ニンジン嫌い!」  遠巻きにシーソーを眺めている子供たちが、大声でそんな事を言っていた。それどころじゃないだろうと思うと同時に胸が痛んだ。私を遠巻きにして囃し立てる同級生たちの悪意を思い出したから。  顔も何もない人参が、どこか寂しそうに見える。それはきっと私の勘違いだ

          『人参』『間違える』『シーソー』

          『鍾乳洞』『校長』『農具』

           日本一長い鍾乳洞と言われている安家洞には、校長先生の泣き所という岩がある。小学校の校長が子供数人を連れて安家洞に入ったとき、校長先生だけが取り残されて泣いていたという故事に由来する、比較的新しい逸話による名前だ。  そんな名前がついている事には理由がある。安家洞が広く、長いためだ。メルクマールが無ければ迷い、迷う鍾乳洞は観光資源にならない。観光資源としての開発・整備のためには場所への命名が必須だったのだ。校長先生がうずくまって泣いていたという逸話は、その可笑しさから安家洞の

          『鍾乳洞』『校長』『農具』

          『火山』『王女』『気球』

           王族は価値のある血統だ。建国神話によれば、彼らは神の血を継いだ存在なのだという。類感呪術の手引きによれば、彼らを供犠に捧げることは神に神を捧げることに等しいのだという。  だからこそ王族は固く守られている。攫う事は容易でないし、攫ったとしても生贄にする前に奪い返されるだろう。 「ということで、こういうものを持って来ましてね」  部下たちが忙しなく準備しているのを横目に、椅子に縛り付けた王女の目隠しを外した。気丈にも私を睨んでくるが、その瞳の奥には持ち込んできた物への訝し

          『火山』『王女』『気球』