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実はマグロの研究してました|UIデザイナー過去話(大学編)

こんにちは。株式会社セブンデックスでUIデザイナーをしている染谷です。
普段はWEBサイトやロゴ、システムUIなどのデザインをしています。

以前の投稿でも話した通り、実は理系の院卒で、デザインを本格的に学んだのは社会人になってからでした。

今回は、大学・大学院で勉強していたこと、研究していたことをご紹介したいと思います!
そんな学問があるんだ!と発見してもらうもよし、そういう進路もあるのか!と大学選びの参考にしていただいてもよし。何かしら刺激を得てもらえれば嬉しいです!

※大学の情報は自分の在籍時(2014/4〜2020/3)の内容です。


学部時代

漁業や資源生物学の基礎を学ぶ

2014年4月、僕が入学したのは、品川に位置し、最も地価が高いという噂もある国立大学「東京海洋大学でした。
特に、漁業・養殖、生命科学、資源生物学をコアにした「海洋生物資源学科」というところに入学しました(他には、海洋環境や水産食品、海洋政策を学ぶ学科もあります)。

受講した授業のラインナップは下記の通り。めっちゃ面白そうでしょ。(一部、他学科の授業を含む)(いくつかは実際は面白くない)

・魚類学
 魚類の体長等の計測方法と、それを元にした分類方法について学ぶ。
・応用藻類学
 ワカメやコンブなど、藻類の分類・生態・資源利用について学ぶ。
・水族病理学
 養殖等で問題となる魚の感染症・寄生虫について学ぶ
・漁業科学実習

 実際に漁船に乗り、漁業を体験。漁獲した生物の分析を行う。
・陸水学
 河川や湖沼など、淡水域の生態系・漁業規則について学ぶ
・鯨類・海産哺乳類学
 クジラやアシカなど海に生息する哺乳類の形態・生態を学ぶ

魚類、甲殻類、プランクトン、鯨類、藻類など、水生生物の生態・形態を満遍なく学びつつ、漁法や養殖方法、資源動態を学んで資源の保全に繋げる、そんな感じです。
たぶん、授業で直接学べない分類群は鳥類くらいな気がする、、、

ちなみに僕が好きだった授業は、統計学や生物資源解析学といった統計分野の授業と、生態学などの個体〜個体群を対象としたマクロな分野でした。遺伝学のようなミクロな話は苦手でした(想像力が乏しいので、目に見えないものが苦手)。

こういった授業を受けて、自分の興味のある分野・生物を見極めていって、4年次より研究室配属となります。


研究室配属

集団生物学研究室に配属

学部4年になると、研究室に配属となります。基本的には自分がやりたい研究のあるところに配属希望を出して配属が決まります。

僕が入ったのは「集団生物学研究室」でした。
「集団生物学とは???」って感じですよね。わかります。僕も未だに定義がよく分かっていません。

学科の紹介文も借りて少し説明しますと、
漁獲される生物は、基本的には集団(群れ)で行動したり、繁殖においては地域ごとに集団を形成していたりします(関西人と関東人みたいな)。
そうなると、1匹について分析するより、集団としての特性や動き方を分析した方が、実際の資源の動態としては正確に測れるわけです。
資源の現状把握や将来予測、保全のために、集団の特性を明らかにする分野が、「集団生物学」という感じです(ざっくり)。

具体的な研究テーマとしては、下記のようなものがあります。
僕も自分の研究テーマ以外はよく分かりません。

https://www.d-pam.com/kaiyodai/2312128/index.html#target/page_no=11

僕が研究テーマとして選んだのは、上記のうち「耳石を用いた魚類の生態・生活史の解明」でした。

用語説明

本題に入る前に、いくつか用語説明を…

①耳石
魚類の左右の内耳に1つずつ存在する炭酸カルシウムの結晶。木の年輪のように、1年1本できる年輪、1日1本できる日輪が形成される。

②微量元素
耳石に僅かに含まれる元素。ストロンチウムやバリウムなど。日輪を形成したときの水温や餌によって含有量が変化することがある。

③回遊
クロマグロやサケ、ウナギなどが行う、成長段階や季節によって生息域を移動する行動のこと。クロマグロは日本近海からカリフォルニア沿岸まで回遊することが知られている。


修士論文研究

僕が取り組んだ研究テーマは、「耳石を用いた経験水温推定に基づくクロマグロの孵化海域推定法に関する研究」でした。

クロマグロの生態

そもそもクロマグロとはどんな魚でしょうか。
本マグロとも呼ばれ、大間のマグロとかで話題になる、身近な魚ですね。

https://kids.rurubu.jp/article/40854/

クロマグロは沖縄(南西諸島)近海と、日本海という2つの海域で産卵を行うとされています(最近は三陸沖でも産卵しているという説も)。
生まれたマグロ稚魚は、しばらくそこに留まったのち、回遊を開始し、共喰いや敵からの捕食を経て生き残った強者のみが他の海域へと回遊します。

https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/63.html

クロマグロの大半は日本が漁獲しており、各地で水揚げされます。
しかし、その漁獲される個体のほとんどが0歳魚で、まだ繁殖能力のない、いわば子供です(未成魚といいます)。
どの産卵場でどのくらいの個体が孵化しているのか、そしてその個体がどのような回遊ルートを経て漁獲されているのかが分かることは、漁業がクロマグロに与えるインパクトを適正に評価し、対策することの前提情報として重要になってきます。

研究内容① 耳石を用いた日齢の推定

クロマグロの耳石には、中心の核から広がる細かい輪紋が存在し、1日1本形成される日輪であると言われています。日輪は中心から形成されるため、最も縁辺にある日輪が、死んだ日(=漁獲日)となります。
中心の核は卵から孵化とほぼ同じ時期に形成されるため、そこから日輪の本数を数え、漁獲日から逆算することで、その個体の生年月日が推定できます。

耳石(この画像はニシンのもの)
中心から縁辺にかけて、日輪が形成されていく。
https://www.hro.or.jp/fisheries/h3mfcd0000000gsj/o7u1kr0000006sk0/o7u1kr0000006j8o.html

上記の顕微鏡画像では、綺麗に日輪が見えていますが、実際には耳石は立体物のため、光が透過せず、このような日輪をすぐに確認することはできません。
そのためにも、耳石を樹脂に包埋して研磨し、断面が透けて見えるほどの薄〜い切片にする必要があります。

この研磨作業が、めちゃくちゃ職人技。
中心核を捉え、中心から縁辺まで同じ厚さに削る、しかも野球ボールのような球ではなく歪な形のため、最も成長している長辺を捉えるように削る。
何度も失敗して貴重なサンプルを失い、絶望に浸った夜もありました。

研究内容② 耳石中微量元素解析による経験水温推定

難しい単語が出てきちゃってすみません。

先ほど登場した「日輪」、この一本一本には、形成されたその日の、その魚のコンディンションが反映されています。
そしてその反映の仕方が、微量元素組成という形で現れます。

クロマグロの場合だと、

  • 高水温を経験 → ストロンチウムの割合が低下

  • 低水温を経験 → ストロンチウムの割合が上昇

という傾向で反映されます。

つまり、耳石中の微量元素組成を、日輪に沿って分析することができれば、「この時期はこの水温の海域にいた」と推定することが可能になるわけです!

これを応用していくと、どの海域で生まれて、いつアメリカに渡って、いつ日本に戻ってきて、どの海域で漁獲された、という回遊履歴が推定可能になります!

耳石の大きさは数mm程度。
そこから世界規模の回遊履歴がわかるって、めっちゃロマンあると思いません?

微量元素は「EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)」という機器で分析します。数μmのスケールで、試料を観察し、そこに元素組成を分析するための特性X線の照射をすることができます。

耳石の元素組成分析結果例(シロザケの耳石)。
赤いところがストロンチウム含有量が多い部分。
サケは河川で生まれて海に降りる。海水の方がストロンチウムが多いため、河川にいた頃に形成された中央部が低ストロンチウム、海に降りてから形成された縁辺付近が高ストロンチウムとなっている。
https://www.an.shimadzu.co.jp/industries/life-science/others/ap-p96-p1-epma/index.html

こうして得られた微量元素組成のデータを、日輪のデータや海面水温データと照合し、「◯本目の日輪の部分で、この元素組成比だったから、この個体は◯月◯日に水温◯度の海域にいた!」と推定するわけです。

それが孵化直後に形成された日輪の範囲で推定できれば、「◯月◯日に水温◯度の海域ということは、この個体は沖縄近海/日本海で孵化した個体だ!」という推定を出せます。

日別海面水温データ。データ量が多くてExcelが毎回死ぬ。
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html

上記のような作業・分析を行なって、最終的に沖縄近海/日本海の孵化個体数の割合=クロマグロ資源への各産卵場の寄与率を算出し、資源管理の方針について考察をして、僕の研究が完了となります。


まとめ

詳細な結果はここでは言えませんが(論文の著作権は大学側なので)、そんなに綺麗な結果は得られませんでした。

でも研究なんてそんなもんです。
修士論文程度の、ちょっと頑張ったくらいの研究なら尚更です。
真に価値のある成果を求めて、博士以降のキャリアを選ぶ研究者の皆さんは本当にすごいです。

この経験を通して、研究は一筋縄では行かないということを実感するとともに、特定の分野を研究するだけでも、他の分野の知見や技術が必要になるということを実感しました(今回の場合だと、生物学だけでなく鉱物学や統計学、海洋化学の知見が求められます)。
そこから、科学技術の水準を底上げするような仕事をしたいなと思い、展示会の仕事を新卒で選びました(そして気づいたらデザイナーになっていました)。

これからの人生でも、何が起こるか楽しみですね!わくわく!

以上、学生時代の過去話でした〜




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