職務発明規程をつくりました

足掛け5か月で職務発明規程をつくりました。思い返せば様々な指摘を受けつつやっと出来上がったのですが、その中でどうすれば自分の案ややりたいことを通せるかを考える経験にもなりました。重要だと思う点を太字にするなどわかってる風に書いているかもしれませんが、この経験を通じて初めて考えたことも多く、自分もまだまだです。時系列で書いていきます。

2020年9月 とりあえずの形をつくる

今の会社に入社したのが2020年9月なのですが、初めにやることとなった仕事の一つが、「職務発明に関する社内規程をつくる」でした。もともと知財をやっていたので、経験を生かしてほしいと言われたものの、仕組みづくりはやったことがなかったのであまり自信はなかったですが、はじめが肝心ということでビビってたらいけないと思い、やることになりました。
2週間くらいでとりあえずの型だけ作って法務メンバーに意見をもらうまでやりましたが、やはりポイントとなるのは「相当の利益」(いわゆる「対価」)のところです。フィードバックで、例えば、発明が利益につながりやすいのか・陳腐化のスピード・侵害が発見しやすいのか・発明を沢山出すことが会社のイメージにどう影響するかなどの点で、自分がこれまで勤めていたメーカーの考え方と現職のIT業界の考え方が違うこともわかりました。という訳で相当の利益のところは再考することに。

2020年11月 経営会議(その1)&考え直し

それから法務としての案がまとまったところで、制定に向けて対価の額を中心に経営会議で事前に説明することに。今思えばその場で法務・知財とは違う観点から様々な意見をもらえたことでより深く考えることができました。役員から出た意見としては、
・他の業務に対しては給与以外のものは基本的に支払わないのに、発明にだけ払うとなるとアンバランスな気がする
・宣伝目的で特許を出願する可能性もあるというが(例えば、「特許出願中」と言うためなど)、競争力につながらない発明にお金を払うのには違和感がある
・発明を奨励することには賛成だが、まずは当社の発明に関する方針を決めてからの方がいいのでは
などなど。
法務や知財の担当の立場からすると、「会社が発明を譲り受けたらお金払わないといけないんです」「お金払わないと会社のものにならないんです」「あらかじめ対価を決めておくことで後々の紛争を避けることができるんです」などと考えてしまいがちですが、いずれもごもっともな意見だな、と思いました。このような法務の見方ももちろん正しいものではありますし、規程をつくらないと従業員ともめる可能性が高まることを考えると会社のためにも規程はつくっておくべきでもあるのですが、とは言ってもいろいろな立場の方がいる中で自分の役割を果たしたり、自分の案を通したりするためには、違う見方をする方にも納得してもらう必要があるわけです。「何でわかってくれないのー!!」では先に進めないんですね。そのためには説明の仕方を考えたり指摘されそうなところを予め抑えたりなど、「いかにして通すか」という専門知識とはまた違ったスキルも必要なのだと体験できた出来事でした。
ということで、再度考えることになりましたが、役員それぞれの観点で意見をもらえたことで、目的(当社にとっての発明の位置づけ)から考えるきっかけになりました。

2020年11月 法務でのブレスト

再度法務にて特許をとる目的にから考えることになったのですが、このとき「マインドマップ」を使いました。自分自身初めて使ったのですが、紙の中央にメインテーマを配置して、テーマから連想される考えを線でつないでいって、アイデアを広げていく方法です(ただ、自分も活用しきれていなので、もっとうまい説明できないかなー、と思いながら書いてます。理解しきれていないってことですね)。
その結果、会社として何を目的に特許をとるのか・何は目的にしないのか、といったことがある程度整理されました。そして、目的が整理されると、自然と対価はどうあるべきなのかが見えてきました。例えば、どういう発明に手厚い対価を支払うか、出願・登録・運用のどれに比重を置くのか、ということです。

2020年12月 管理部門担当取締役に相談(その1)

特許を取る目的と対価が整理できたところで、それを管理部門の担当取締役に相談しました。もともと事業を引っ張っていた方で、社歴も長いので、「会社としてどのように設計するといいか」という観点での指摘をもらいました。例えば、
・社員がどのような仕事のやり方をするかという観点で、チームで仕事をするか個人で仕事をするかによって発明者という個人の貢献度合いは異なってくるから、当社での仕事の仕方を踏まえるべき
・発明の評価に応じて傾斜をつけるという案に対して、判断できる人がいるのかとか、そもそも判断時点で発明の評価に差が生じるような事業なのか
・他の役員が気にするポイントはここだからそこを押さえるべき
などなど
ぐぬぬ。ここを突破しないと先に進めない(進んでもいいけど経営会議で味方がいないことになるので自爆する)。またまた再考。

2020年12月 管理部門担当取締役に相談(その2)

前回指摘を受けた点を中心に考え直し、より自社にあっていると思われる内容(&経営会議で通せそうな内容)にできただろうというのと、指摘に対する答えは用意できただろうという段階で、再度管理部門の担当取締役に相談しました。
今回は理解してもらえました。懸念点に応えることができていたからだと思います。まぁ、法務の立場として自分なりの「理想」みたいなものはあるのですが、それはあくまで個人的な理想ですし、実際はオペレーションや会社の考え方などは考慮に入れなければいけないので、これまでいろいろな意見や指摘を受けて、結果的によさげなものができつつあるのではないかと思いました。あとは、決定機関である経営会議に理解してもらうというのも究極的には必要なのですが、自分の上司の理解を得る(=味方になってもらう)ことの大切さも実感しました(別にごまをする訳ではないですし、すべてを上司に合わせる必要もないとは思うのですが、理解を得ると得ないではまた全然違う、ということです)。

2020年12月 経営会議(その2)無事通過

改めて説明を行う。前回は特許をとる目的を明確にすべきというオーダーがあったのと、役員が気にするのは対価の額(他の仕事には払わないこととのバランス含め)ということを踏まえ、その点を中心に説明。いくつか質問はあったものの、そこはきちんと回答でき、了承を得ることができました。質問に回答できたのは、目的→だからどのような発明に対価を手厚く払うのか→だからいくらなのか、が整理されていたからだと思います。目的に立ち返って考えるのって大事ですね。目的を考えるべきと指摘してもらったことに感謝です。
大枠の承認が得られたので、あとは規程という文書に落とし込むのみ。

2021年1月 規程化

これまでで大筋はできていたので、あとは関連する規定を加えるのみ。とはいえ、例えば支払いのオペレーションなども踏まえなくてはならず、これまでほど悩むわけではないですが、それでも単にネットに落ちているものをコピペするわけにはいけないわけです(当たり前か)。
ちょうどその時、「スタートアップのための職務発明規程のひな型をつくるプロジェクト」のようなものに参加しており、その過程で弁理士さんや他社の方などと議論できたり考えを聞けたりしたのはとても幸運でした。職務発明の考え方って正解がないと思うのですが、様々な意見や経験を聞けたことで、やはりいろんな見方があるんだなー、と思いました。
参考までに、出来上がったスタートアップ向け雛形はこちら。スタートアップが成長するためには独自の技術を生かしていくことが重要だけど、体制を整える余裕がないために技術を生かしきれないとしたら社会の損失になるから、参考にできる型をつくろう、という@ipfbizさんの発案でつくったものです。

2021年2月 経営会議(その3)最終承認

そんなこんなで取り組んできた職務発明規程ですが、無事に対価以外の規定も組み込み、従業員のヒアリングも実施して、整ったところで規程自体の承認の上程を行いました。
対価を中心に概要は事前に承認してもらっていたので、「概要はこの前承認していただいた通りです」と言って無事に決議されました。振り返れば5か月、長かった。

まとめ

今回の仕事は目的としては規程をつくるというものだったのですが、目的達成のために説明したり理解してもらったりなど、どのような仕事をするにも必要なことを経験することができました。主張をし続けるわけでもなく、でも(最近よく間違われる意味としての)忖度をするわけでもなく、気持ちや立場を考えたうえで、いかに自分のやりたい方にもっていくか。簡単なことではないけれど、必要なスキルだな、と思いました。そして、職務発明そのものについてもいろいろな意見を聞けたり議論ができたりして、学びも多かったです。そして、改めて思ったのは、職務発明制度には正解がないこと。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




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