見出し画像

上場からまる一年を振り返って

ランサーズの曽根(@hsonetty)です。久々のnote投稿、ランサーズ Advent Calendar 2020 の流れに乗ってのポストになります(※前回はプロダクトマネージャーの板倉さん(@idemii)のしくじり先生的な記事)。ちょっと自分だけ浮いてしまってる感が半端ない点は気にせずスルーしていただいて笑、ぜひぜひ他の記事も読んでみてください~

最近ありがたいことに、色々な方からご相談をいただくことがなんとなく増えてきたような気がします。内容はさまざまですが、組織の課題解決、事業の壁打ち、合宿や集会のノウハウ、IPOや資金調達の是非、キャリアの方向性、などなど。

似たようなステージ感の課題やチャレンジを経験した身にとって「それ、よく分かる!」と共感できるもの・役に立てそうなものもとても多く、あらためて自分自身のこれまでの経験を振り返ってみようかと思い立ちました。

ランサーズが上場したのが、ちょうど1年前のこの日。上場後も矢継ぎ早に色々なことがありすぎて、上場のタイミングではゆっくり振り返ることもなくそのまま駆け抜けてきてしまいましたが、良い機会なので、上場まで・上場時・上場後の経験について、雑感的に綴ってみたいと思います。

特にこれから上場を目指すような方々、今まさに上場を目指しているような方々、あるいはこれからベンチャーを志そうと考えている方々あたりにとっても、少しでも刺激や参考になってくれればありがたい限りです。


上場まで:修羅場・土壇場・正念場の連続

創業から12年、ランサーズの事業成長の軌跡にはいくつかのステージがあったと思います。2008年からのサービス立上げ期、2012年頃からの市場黎明期、2015年頃からの市場拡大期、そして2019年頃から現在は市場変革期へ。後から振り返ってみると、当たり前ですが、市場のステージ感にあわせて、いかに資金調達と投資を先読みしてできるかが重要だったように思います。

画像5

グラフや数値だけみると順調な右肩上がりに見えますが、内実はそんな単純だったわけではありません。とりわけ2016年は、大きな成長とは裏腹に苦難の連続の1年でした。今では考えられないような内部のトラブルが続いたり、立ち上げた新規事業もいくつかつぶすことを決めたり、業界を揺るがすような出来事をうけてサービスの存在意義を問われたり。年末の全社集会で、打ちひしがれていたぼくたちへのユーザーからのビデオレターに勇気づけられて涙したことも記憶に鮮やかに残っています。

事業そのもの以上に、組織面でも色々な出来事がありました。ベンチャーは、資金はもちろんですが、それ以上に仲間集めが圧倒的に重要。事業や経営が、仲間が入ることによってどんどん加速していったのは確かです。新規事業の立ち上げをきっかけに長年の知りあいがジョインしてくれたり、IPOの準備が本格化する直前のタイミングで続々とコーポレート部門のキーマンがジョインしてくれたり。あの人がいなければ絶対につかまえられなかったというチャンスも、絶対に乗り越えられなかったというピンチも、本当に数えきれないくらいあります。

一方で、そうしたたくさんの出会いとたぶん同じくらい、別れも繰り返してきたように思います。大きな組織成長の反動でカルチャーが希釈化する中で仲間同士での衝突が大きくなっていったり、未来のことばかり考えて「今ココ」の叫びに気づけず・向き合えずに失った仲間たちがいたり、経営合宿を開催するたびにその半年後に参加したメンバーの一人が抜けていくような時期もあったりしました。議論ばかりして対話を十分にせず、結果の質のずっと手前にある「関係の質」の重要性に気づけていませんでした。

いま思えばもっとうまくできたと思いますが、振り返ってみると、経験して始めてわかる痛みも多い。そんな中で、ランサーズは、色々な人に助けられながら、よくも悪くも教科書通りに組織の成長の壁を経験し、向き合い、そしてなんとか乗り越えてきたようには思います。どんな壁にあたってどんなことを悩んできたのかの一端として、ランサーズにおける過去の経営合宿のテーマやアジェンダの歴史をまとめておきます。

画像4

事業も組織もそうですが、学びとしては、経営の意思決定が遅れると、そのしっぺ返しが半年後から一年後くらいにやってくるというのが実感。いわば経営的な負債。事業の負債も組織の負債も技術の負債も、正面から向き合わないと、それは後で必ず返ってくる。今は成長していても、もしくは成長がその負債を隠していても、あとで必ず向き合わざるをえなくなる。

逆に、負債を返済しきって、未来への事業・組織・技術的な投資をしておくと、それが1年後とかの成長をドライブする大きな資産になったりもする。経営では未来への投資のことばかり議論しがちですが、過去からの負債についてもセットで議論しないといけないとあらためて思います。

こうして振り返ってみてあらためて思うのは、ベンチャーでの経験は修羅場・土壇場・正念場の連続だということ。よく言われる「HARD THINGS」はベンチャー界隈でのバズワードだと思いますが、これっていわば「明るいブラック体験」みたいなものですよね。体験してみないと心の底からはわからないというのも一つの真実ですが、それでもまだ、先人の体験は、いざぶち当たったときの解決への励みや羅針盤にもなりうると思います。


上場時:「魂の浄化」という儀式

2019年12月16日。幾多のHARD THINGSを経て迎えたランサーズの東証マザーズへの上場日が、今からちょうど一年前のこと。もう一年経ったのかとも思いますが、当時よくお祝いの言葉とあわせて聞かれた「上場してどうですか?」という問いに対してのぼくの正直な気持ちは「安堵」の一言でした。様々なステークホルダーたち(ユーザー、社員、OB/OG、家族など)が兜町での上場セレモニーというイベントを見守ってくれている中での安堵。

画像3

当時の気持ちを思い返してよく話すのは、「魂の浄化」ということ(どこかから聞こえてくる「何のこっちゃ?」という声を甘んじて受け止めながらやや脱線を続けます)。ネタ元は漫画『進撃の巨人』の第20巻第79話における調査兵団団長のエルヴィンのエピソードです(先に断っておきます。『進撃の巨人』を読んだことがない人、ごめんなさい。読んだことがない方、アニメでファイナルシーズンも始まりましたし、個人的には『キングダム』以上に、一読されることを劇的にオススメします)。

仲間と一緒に死地を超えてきた、そしてその死地でたくさんの仲間を失ってきた(というか死なせてきた)兵団の団長であるエルヴィンという指揮官が、ボスキャラを前にして深く悩む難局。その難局を切り抜けるために自らが命を賭して先陣を切らなければいけないという使命感と、難局を切り抜けた際に拓かれるその未来を己自身が見たいという抑えきれない欲望の間で揺れる気持ち。欲望に抗いながら、これまでに命を落としてきた仲間たちの魂を背負う兵団のトップとして、自らが命を賭すことを決めるシーン(リヴァイ兵長に語りかける「見えるか?俺たちの仲間が...」というセリフ)。

いささか大げさに聞こえると思いますが、HARD THINGを乗り越えてきた過程でたとえばお別れをしてきたような仲間たちもたくさんいる中で、そんな仲間たちもいまだに見てくれているわけです。だれかの気持ちだったり、だれかの時間だったり、だれかのお金だったり、背負うものがどんどん大きくなっていく中で、その結果ががどうなったのかをみんなが見ている。そうしたものが積みあがってきたいわば魂のようなものが、上場という一つのマイルストーンを通して、良い意味で社会の公器へ吸い込まれて浄化していくような感覚を覚えました。

上場直前にOB/OGやユーザーの皆さんが、ランサーズの上場にあわせて一連のブログ「#私とランサーズ」を書いてくれたことには、深い感動を覚えました。上場時のセレモニーにおいて、ステージに向かって降りていくエスカレーターから見渡す中で、ステージをぐるりと囲む回廊に並ぶ驚くほどたくさんのOB/OGの皆さんが、満面の笑みで拍手して我々を迎えてくれた景色は、圧倒的な残像として今も深く脳裏に刻まれています。

これから上場を目指そう・今まさに上場を目指していますという経営者の方などに、「あらためて上場の目的って何でしょう?」と聞かれたりすることがあります。もちろん資金調達の選択肢の拡大や知名度の向上による顧客獲得や採用の効率化など、経営戦略的な目的は確かに重要です。でも、上場の目的とは、それだけでもないように思います。

それまでに背負ってきたステークホルダーたちの「魂」を受け継ぎ、法人として社会的な公器となる。未上場企業というのは、ある意味で顔が見える範囲でのステークホルダーの魂の集合体みたいな側面もあると思いますが、これを一度、浄化・リセットして次なる経営のステージへと向かう。これから上場を考えられる方々は、ぜひ、そうしたなかなか見えにくい気持ちの部分も含めて、上場の意義について考え、反芻し、議論してみることをオススメします。


上場後:「大きな車輪」を回すために

そんなこんなで感慨深かった上場のマイルストーン。一方で、上場直後に訪れたのは、そんな安堵の気持ちとはまったく逆のものでした。上場してまず最初に待ち受けていたのは、上場企業として開示した通期業績を達成するための必死な焦り。上場直前・上場準備の半年もそうでしたが、Q3の途中(12月)で上場した中で、残りのQ4(1-3月)はひたすら、上場企業としての約束を果たすことに追われていました。結果、最低限の約束を果たせたことは、上場後初の通期決算発表や株主総会というデビュー戦においてはなんとか及第点だったと思います。

画像6

そしてそんな通期の業績達成に向けた動きをする中で次にやってきたのが、新型コロナウイルスによる大きな環境の変化と、それによる経営へのインパクトへの迅速な意思決定と対策の連続。事業としてはアップサイドもダウンサイドも多数。アップサイドを見越した新サービスの開発もしかり、ダウンサイドをみすえた既存事業のテコ入れもしかり、そうしたものを鑑みて四半期や通期の業績見込のレンジを対外的に発表したりコミュニケーションをしたり。上場して最初の通期業績予想でいきなり未曽有のリスクと向き合う、いわば「コロナ・ネイティブ」な開示デビューでした。

一方で組織としては、コロナ禍において皆が不安を抱える中で、組織として目指すべき働き方を決めて、「スマート経営宣言」なるものを全社集会で社内にアナウンス。事業コンディションへの影響も鑑みながら制度やルールを再設計。ルールを決めた後も、施策をまわしてアンケートをとったりしながら、コロナ禍で組織×BEING=信頼貯金を切り崩さずにいかにエンゲージメントをキープし向上していくかという課題に向き合い続ける日々。

結果的に、上場直後にお会いした方とは、「上場してどうですか?」という会話より「コロナの影響どうですか?」という会話の方が圧倒的に多かったですね笑。そういう意味でも、上場直後の数カ月(もっというと上場直前の数ヶ月も含めた上場前後1年くらい)は、極論をいうと目の前のことしかできていなかったし、目の前のことに追われていたように思います。

「上場して良かったことは何ですか?」と聞かれて考えるのは、当たり前ではありますが、3ヶ月に一度の業績開示・決算発表というフォーシングメカニズム(=強制的な仕組み)。不特定多数の株主から結果責任を問われることのヒリヒリ感。ガバナンスというとなんだか後ろ向きなことばかりに注意がいきがちですが、そういうものだけではないと思います。経営をしていくうえで、公的な企業としての「品格」みたいなものを身につけていく過程として、このメカニズムがもたらすメリットは相当あると思います。

一方で、デメリットとして「逆に四半期ごとの業績開示に縛られることによって短期目線になったりしないですか?」という問いを投げかけられることもよくあります。ここは確かに注意深さが必要だと思います。いまは、3-5年・1-2年・1-3ヶ月のスパンでどの車輪をどうどう回していくか、ということをよく考えています。3ヶ月に一度の業績開示もあるのでどうしても短期に目がいきがちですが、その中でどれだけ説得性のある形で中長期的な「大きな車輪」への投資を説明責任を果たしながら実行できるか。

ランサーズでいうと、ビジョンドリブンな経営をしてきた分、そこが強みでもあるけれど、逆にビジョン一本足打法みたいな形でふわふわした理想論が先行しがちな時期もありました。また事業のあるべき姿に組織が追いつかず、組織ケイパビリティを大きく超えた≒アキレス腱が切れたような状態で非効率に現場が目標を追っているような時期もありました。いまは、だいぶこれらの車輪同士がかみあってきたとは思いますが、3-5年と1-2年の経営の車輪の接続だったり、1-2年の組織のあるべき姿といまの組織アクションの車輪の接続だったり、前進しつつも、今でもまだ課題は山積みです。

画像5

これから上場を目指す方も、上場して今後を考えるいる方も、いろいろな経営アクションの選択肢が増えていく・増えた中で、一度立ち止まって、3-5年/1-2年/1-3カ月の経営/事業/組織のどの車輪がどのくらいかみあっているのか、その接続をどのようにしていくのか、についてはあらためて考えてみても良いかもしれません。


振り返っていま、思うこと

つらつらと書き連ねてきましたが、振り返ってみると、色々な出来事やその時の感情とあわせて、かなりどうでもいいことが思い出されたりもします。TV放映のパブリックビューイングで盛り上がって社内の会議室の壁に穴を空けたり、とある忘年会@スナックで天井のステンドグラスを突き破ったり(その節はたくさんの人にファンディングしていただき今でも感謝感謝です)、経営合宿の夜に大船の商店街の歩道でクレジットカードを投げとばしたり。とにもかくにも器物破損が多いのですが笑

稚拙かもしれませんが、一周まわって思い出は大事。HARD THINGSがたくさんあった一方で、いやたくさんあったからこそ、それ以上に思い浮かんでくることがたくさんあるように思います。真剣に向きあうからこそ、HARD THINGS=修羅場・土壇場・正念場の経験も、温かみがあってカラフルになるものもあるのではないかな、と。

これからのキャリアを考える皆さん、特に30代にいる・これから迎えるような方々にとっては、リーダー経験、とりわけカオスにおける意思決定の経験が大事で、そこから得られる正念場の数こそが成長機会なんだと思います。能力開発も大事ですが、それ以上に機会開発も重要。リクルートの江副さんの言葉を借りるのであれば、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」。もしこれを読んでいる中で、これからベンチャーへ飛び込んでみようかな、と考えているような方がいたら、ぜひ勇気をもって飛び込んでみていただけたら良いのではないかと思います。

今回はわりとざっくりとした短めの振り返りだったので、あまりこの記事で深堀りできなかった内容(プラットフォーム戦略における事業課題とか、組織の個別のHARD THINGSとか、経営合宿の詳細とか、コロナ後の働き方など)については、また機会があれば書いてみようかと思います(「一緒に議論したい」という方もしいれば、ぜひお声がけください!)。

冒頭にも書きましたが、ここで書いたような具体の経験が誰かの参考になることもあるかなと思い、↓のメンタリングプランをつくってみました。より深く個別の話を聞いてみたい!というような方がいれば、お試しでもぜひご連絡くださいませ~ 最後までお読みいただきありがとうございました!


※最後まで読んでいただいたついでに、よければnoteフォローもぜひ!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?