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【2024読書始め】ポール・ナース『生命とは何か』


今年最初の一冊に何を選ぶか、直前まで迷っていました。トーマス・マン『魔の山』の再読、昨年の暮れに文庫化された『ザリガニの鳴くところ』、ベイトソン『精神の生態学へ』などを候補として考えていたのですが、コンパクトで読みやすく、かつ
スケールの大きいテーマを扱っている本書に決定。

著者のポール・ナースは細胞周期の研究により、2001年度にノーベル生理学・医学賞を受賞した遺伝科学者です。これまで一般向けの著作がなかった彼が2021年になって執筆したのが本書です。

〈生命とは何か〉という究極の問いに「細胞」・「遺伝子」・「自然淘汰による進化」・「化学としての生命」・「情報としての生命」の5つのアプローチで迫る内容ですが、中学、高校で習うところから始めて、現在の生物学の先端の知見に至るまでを平明な語り口で述べています。

そして後半の「世界を変える」、「生命とは何か」の章で生物学の知見を踏まえた人類の未来への提言をおこなつもており、ナースが本書を著した理由もここにあると思います。

進化や遺伝子学の動向に詳しい人にとっては、本書で述べられている知識は目新しさがないように思われるかもしれませんが、時折挟まれるナースの経歴に関するエピソードは興味深いものがありますし、生命という現象への驚きを今なお保ち続けている彼の魅力が伝わってくる好著です。

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