ゆこたか雑記帖

本と音楽と将棋を愛好しています。 本の感想を主としていますが、そのうち音楽や将棋などに…

ゆこたか雑記帖

本と音楽と将棋を愛好しています。 本の感想を主としていますが、そのうち音楽や将棋などについても書くかもしれません。

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わたしの100冊

石川淳「狂風記」 吉田健一「金沢」 北杜夫「楡家の人びと」 夏目漱石「吾輩は猫である」 谷崎潤一郎「春琴抄」 倉橋由美子「よもつひらさか往還」 山尾悠子「ラピスラズリ」 中井英夫「虚無への供物」   澁澤龍彦「思考の紋章学」 種村季弘「詐欺師の楽園」 金井美恵子「噂の娘」 森茉莉「甘い蜜の部屋」 石井桃子「幻の朱い実」 武田百合子「富士日記」 大江健三郎「懐かしい年への手紙」 大岡昇平「レイテ戦記」 石光真清「石光真清の手記」 呉茂一「ギリシア神話」 松岡正剛「フラジャイル」

    • ショーン・タン『内なる町から来た話』

      ショーン・タンはオーストラリア在住の絵本作家、とひとまず説明することはできますが、彼の作品に接したことのある人ならば、子どもたちはもちろん、大人の読者も唸らせる作家であることに同意していただけるでしょう。 実際、規模の大きい書店では彼の作品はエドワード・ゴーリーやトーベン・クールマン等と並んで「大人の絵本」コーナーに置かれていることが多いのです。 彼の代表作としてあげられるのは、なんといっても『アライバル』。120頁以上にわたって、文字は一切なく、細密な鉛筆画だけで、激動す

      • エドワード・ゴーリー『ギャシュリークラムのちびっ子たち』

        先日、ゴーリーの絵本の新訳がでるというニュースに接して再読。 世に“大人が読んでも面白い絵本”は数あれど、“大人のための絵本”は多くありません。その数少ない“大人のための絵本”を書き続けたのが、エドワード・ゴーリーでした。 ゴーリーの作品は柴田元幸さんの翻訳によって日本に紹介されているのですが、本書は最初に翻訳された3冊の中のひとつ。ゴーリーらしさが端的に表れていて、ファンの中でも特に人気の高い作品です。 その内容はいたってシンプル。26人の子ども達がアルファベット順に

        • 【ザ・バンドを愛した中国文学者・井波律子】

          井波律子 『酒池肉林』 『破壊の女神』 『トリックスター群像』 『中国文学の愉しき世界』 『裏切り者の中国史』が面白かったので、井波律子さんの著作を続けて読んでいます。 井波さんの主要な業績といえば、『三国志演義』・『水滸伝』・『世説新語』・『論語』の個人全訳があげられるでしょう。これだけでも膨大な仕事量ですが、これらに加えて、歯切れの良い文章で、中国の歴史・文学の魅力を伝えてくれる著作を数多く残しており、中国の文化に対する格好の水先案内人となっているのです。 私がこ

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        わたしの100冊

          井波律子『裏切り者の中国史』

          「裏切り者」を中心にして、春秋時代から清初期に至る2500年間の中国王朝の興亡を描いた一冊。 一口に「裏切り者」といっても、その個性や動機も様々ですが、彼らの行動が王朝の屋台骨を揺るがし、次の時代が幕を開けるきっかけとなったのですから、彼らの歩みを知ることが、そのまま中国の歴史を知ることにつながるのです。 個人的には、名前だけは知っていたけれど、詳しい経歴までは把握していなかった人物のことを知ることができただけでも有意義な読書でした。 それにしても本書に登場する人物達の個

          井波律子『裏切り者の中国史』

          ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』

          今年は小説をもっと読もうと思いつつも、ようやく1冊目です。 ミステリー仕立てとなっていて、主人公の生い立ちと事件の捜査が交互に展開する形式ですが、事件の真相への興味より、舞台となっている湿地、そこに生息する生き物たちの描写の美しさと、主人公が陥った深い孤独な運命に惹きつけられて読了。 映画化もされていて、原作ファンにも評価が高いようなので、機会があれば見てみたい。

          ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』

          【2024読書始め】ポール・ナース『生命とは何か』

          今年最初の一冊に何を選ぶか、直前まで迷っていました。トーマス・マン『魔の山』の再読、昨年の暮れに文庫化された『ザリガニの鳴くところ』、ベイトソン『精神の生態学へ』などを候補として考えていたのですが、コンパクトで読みやすく、かつ スケールの大きいテーマを扱っている本書に決定。 著者のポール・ナースは細胞周期の研究により、2001年度にノーベル生理学・医学賞を受賞した遺伝科学者です。これまで一般向けの著作がなかった彼が2021年になって執筆したのが本書です。 〈生命とは何か〉

          【2024読書始め】ポール・ナース『生命とは何か』

          2023年 読書振り返り

          コメントもつけようと思いましたが、時間がないので書名だけ並べました。 【小説】 ハン・ガン『すべての、白いものたちの』 ナボコフ 『アーダ』 大濱普美子『猫の木のある庭』 【エッセイ】 坂本龍一『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』 石井ゆかり『星占い的思考』 塚本邦雄『ことば遊び悦覧記』 【こころ】 別冊太陽『河合隼雄:たましいに向き合う』 東畑開人『ふつうの相談』 中沢新一『アースダイバー神社編』 【音楽】 柳沢英輔『フィールド・レコーディング入門』 MUSIC M

          2023年 読書振り返り

          坂本龍一『坂本図書』

          婦人画報に掲載していた連載『坂本図書』全36回分と、坂本龍一と旧知の仲である編集者・鈴木正文との対談をまとめた一冊。 この本を半分過ぎまで読み進めてきて、石川淳の章に至ったとき「ただ残念なことに僕はこれまで、楽しむために本に接した記憶がない。」という一節を読んで、軽い驚きを覚えました。帯にもある通り、坂本龍一が「無類の本好き」であることは、多くのファンに知られていたからです。 それでは坂本にとって本とはどういう存在だったのか。坂本自身は先に引用した一節に続いて「普段読むの

          坂本龍一『坂本図書』

          塚本邦雄『ことば遊び悦覧記』

          和漢洋に及ぶ深い教養。一読すぐそれと分かる強靭な文体。小説から評論まで幅広いジャンルを自在にまたいだ旺盛な作品群…もはや達人や巨匠、といったくらいでは収まらない、「日本語の怪物」としか呼びようのない存在がいて、私にとっては石川淳とこの塚本邦雄がそうです。 本書は古代歌謡から現代詩に至る作品群から塚本が選び抜いた言語遊戯の作品をまとめたアンソロジー。いろは歌のヴァリエーション、物の名前を織り込んだ和歌の数々、回文など先人たちの洗練された遊び心がどのページにも躍動しています。

          塚本邦雄『ことば遊び悦覧記』

          R.D.レイン『好き?好き?大好き?』

          読書の秋ということもあってか、今月の河出文庫のラインアップは攻めてます。本書もその一つ。まさかレインの著書が文庫化されるとはーそれもこんなにポップな表紙で!ー思いもよりませんでした。 R・D・レイン は1927年、イギリス生まれの精神分析家。主な著書には「引き裂かれた自己」や「自己と他者」等があり、反精神医学を提唱した…と紹介していくと、お堅い印象を与えるかもしれません。 しかし本書は学術書ではなく、詩集です。それもほとんどが平易な言葉で書かれており、術語や哲学用語は使わ

          R.D.レイン『好き?好き?大好き?』

          澁澤龍彦コレクション『夢のかたち』『オブジェを求めて』『天使から怪物まで』

          【秋の夜長にドラコニアの博物館を廻る】 なにか読みたいけど、どうもまとまった文章読む意欲がわかない、という時ってありますよね。 そんな時重宝するのが断章をまとめた本ですが、中でも繰り返し手に取るのが3冊の〈澁澤龍彦コレクション〉シリーズ。澁澤龍彦が夢、オブジェ、怪物をテーマに古今東西の文献からお気に入りの部分を抜き出してまとめたアンソロジーです。 澁澤自ら「これは、『夢の宇宙誌』から『ねむり姫』にいたる、出発から現在までの私の文学的活動のモティーフというか源泉というか、そ

          澁澤龍彦コレクション『夢のかたち』『オブジェを求めて』『天使から怪物まで』

          片山杜秀『左京・遼太郎・安二郎 見果てぬ日本』

          SF作家の小松左京、歴史小説家の司馬遼太郎、映画監督の小津安二郎を通して日本の近現代を語ろうとする野心的な試みの一冊。 まず「この国に真の終末観を」と題された小松左京。 70年万博のテーマ「人類の進歩と調和」を立案した一人である小松左京は、科学の発展による原子力の制御に未来を託しましたが、一方でそのリスクを誰よりも知り尽くしていました。そんな小松の日本人に対する怒りと求めた覚悟とはなにか。なぜ『復活の日』や『日本沈没』のような人類滅亡物を書き続けたのか、そしてその未来へのヴ

          片山杜秀『左京・遼太郎・安二郎 見果てぬ日本』

          【秋の夜長。コトバに遊び、酔いしれる9冊】

          ようやく秋の気配が感じられるようになってきましたね。そんな秋の夜長にじっくりと味わいたい9冊を選んでみました。 石川淳『紫苑物語』 塚本邦雄『王朝百首』 吉田健一『本当のような話』 武満徹『音、沈黙と測りあえるほどに』 金井美恵子『カストロの尻』 吉岡実『薬玉』 倉橋由美子『よもつひらさか往還』 山尾悠子『ラピスラズリ』 多田智満子『魂の形について』

          【秋の夜長。コトバに遊び、酔いしれる9冊】

          大濱普美子『猫の木のある庭』

          文学賞にはそれほど関心があるわけではなくて、好きな作家が受賞したと聞けば、ああ良かったな、と思う程度なのですが、新人、ベテラン問わず虚構性を追求した作品に与えられることの多い泉鏡花文学賞は数少ない例外です。 大濱普美子、という名前はこの文庫が出るまで知らなかったのですが、「泉鏡花文学賞受賞作家の第一短編集」であり、さらに解説が「金井美恵子」であるという2点を頼りに手に取りました。結果はもっと彼女の作品を読んでいきたいと思わせるに足る、優れた一冊でした。 落ち着いた、端正な

          大濱普美子『猫の木のある庭』

          山口昌男『学問の春 〈知と遊び〉の10講義』

          8月に文化人類学者・山口昌男の著書が文庫化されました。それも講談社学術文庫『アフリカ史』と中公文庫『本の神話学 増補新版』の2冊です。 これをもって「山口昌男ルネッサンスが始まった!」とするのは早計にすぎるでしょうが、私にとっては、本書を読み直すきっかけになりました。 本書の基となったのは1997年の春に札幌大学文化学部で行われた講義です。ホイジンガの名著『ホモ・ルーデンス』を取り上げて、比較文化の方法について語るというものですが、話題は山口自身のフィールドワークの体験談や

          山口昌男『学問の春 〈知と遊び〉の10講義』